テキスト主体

懐中電灯と双眼鏡と写真機を
テキスト主体で語ろうとする
(当然、その他についても、語ったりする)

色を決めたい

2012-11-20 23:06:21 | 脱線して底抜け
何かを創造、製作、補修する際に、そのものの色やデザイン、或いは模様などを設定する必要があります。Webデザイン等の場合、話は簡単で、色数の上限は決まっていますから、単色のものについては、比較的簡単、組み合わせは無限、という具合です。
一方、実社会において色が重視されるもののひとつに、印刷物があります。
こちらは、厄介です、三原色という概念があり、これはヒトの網膜の色覚受容体(錐体)が3種あることから出てくる概念で、3つの色、光線を任意に混ぜれば、どのような色彩も再現できるようなイメージがありますが、実際は違います。
ヒト含む霊長類は、ほ乳類のなかでは珍しく三色型色覚を持ち、しかもヒトの場合、その色覚の閾値のバランスが絶妙であり、優れた色彩感覚を持っています。ただ、鳥類、有袋類のように四色型色覚、昆虫のように紫外線まで見えるもの、或いはヒトの女性のごく一部は赤と緑の中間の原色?が知覚できるといいますから、一般的なヒトの色覚が最良なワケではありません。
つまりRGBを基本としたあまたのモニタ、テレビは、四色型色覚のいきものにとっては、まったく出来の悪いディスプレイでしかなく、モンシロチョウにとっては、紫外線領域で見える、セクシーなメスの羽根の模様が分からない、セピアカラーでしかないということです。

閑話休題、印刷にとっては、色の再現はかなり体系的に処理しないといけない問題で、そのために、主にインク関連の企業が主体となって、色見本帳なるものが、頒布されています。パントーン、ベンジャミンムーアのような海外の企業によるもの、RAL(独)のように工業規格で決めたもの、DICカラーガイド、TOYO-CFのように日本の企業によるもの、様々なものがあります。
各々の見本には、数百から数千色の色見本が掲載され、それぞれの色を印刷で再現できるよう、インク等の配合が定められています。実際に、企業のコーポレートカラーや大学のエンブレムは上記の見本帳のなかの色番号で指定されていることが殆どです。
ただ、どの見本帳も、版によって元から同じ色番号でも微妙な違いがあったり、経時変化によって、退色したりする差異は避けられません。
よって印刷物より(比較的)長いスパンで使われる事が多い、建築物外装、内装の色は、もう少し違った体系、で考えられることが多く、大手の建築設計事務所、日建設計、竹中工務店、山下設計、安井建築設計、三菱地所などは、独自の色見本帳を、長年に渡って発行していますし、外郭団体の見本帳などもあります。
それ以外にも日本では、日本塗料工業会のペイントカラーガイド、歴史の長い優秀な色見本帳があり、比較的廉価で、数百色が揃う、精度の高い見本帳です。

個人的には、これら全ての見本帳よりも遙かに高い精度で、カラー印刷を行っていた有る会社を知っており、実際そこの色校(色確認用校正刷り)は、一般的に色の差異が分かるとされるΔE*値の1.0、工業用生産の限界値とされるΔE*0.5よりもずっと小さな、0.1~0.2レベルであり、製版したものでも0.3程度で出来てくるという、とんでもない代物でした。どういう工程、技能でこのような高精度が実現できていたのかは、教えてもらえませんでしたが、私としては、素材、見られる環境(屋外と室内など)を考慮した若干の補正値を指示するだけで、おそらくは世界有数の高精度な印刷見本を入手することが出来ていました。ただ、その高度な仕事をする会社も、一旦別会社に吸収され、またその高精度カラー印刷部門ももはや稼働していません。
プレゼンでの色の呈示も、大画面液晶ディスプレイやタブレットで行うほうが訴求力が高い時代ですから、仕方のないことですし、私の仕事に関してもせいぜい数百から数千の部数でしたから、その技術の採算には全く寄与しないレベルであったでしょう。ただ、間違いなく、そこには、ある意味キチガイじみた技能の精髄があったのです。