三浦俊彦@goo@anthropicworld

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オトイアワセ:
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2007/11/12

2000-03-09 22:49:54 | 映示作品データ
 ■オテサーネク Otesanek(チェコ、2000年)
監督:Jan Svankmajer ヤン・シュヴァンクマイエル
製作:Jaromir Kallista ヤロミール・カリスタ
原作:Jan Svankmajer ヤン・シュヴァンクマイエル
脚本:Jan Svankmajer ヤン・シュヴァンクマイエル
撮影:Juraj Galvanek ユライ・ガルヴァーネク
美術:Eva Svankmajerova エヴァ・シュヴァンクマイエロヴァ / Jan Svankmajer ヤン・シュヴァンクマイエル

 132分の作品の、前半を観てもらいました。
 チェコの民話「オテサーネク」を下敷きにした一種のホラー映画。シュヴァンクマイエル監督の夫人による絵本『オテサーネク』(矢川澄子訳、水声社)が作中で使われている。
 子どもが授からないホラーク夫人の悲嘆と偽装妊娠、ホラーク夫妻周辺の出来事が「オテサーネク」のストーリーに似ていることに気づいた少女アルジュビェトカ、何も考えずにひたすら人を食ってゆくオティークとの三角関係がゆるやかに高まってゆく。前半のサイコホラー的な流れ(木の切り株を子どもとして育てるホラーク夫人の不条理な心理劇)が、いつのまにかアルジュビェトカとオティークとのコンタクト系ホラーに変色してゆく。オープニングに、赤ちゃんを水槽から網ですくう屋台、スイカを切ると中に赤ちゃん、といったホラーク氏の幻覚が何シーンか置かれているため、別荘でホラーク夫人がオティークに授乳しているシーンでも、一瞬、夫妻の幻覚がそのまま映像化されたものかと観客は思い込む。その手法は幾分ハリウッド的な達者さだ。もちろん、しばらく進展するうちに、ホラーク夫妻の願望と弟か妹がほしいアルジュビェトカの妄想とが生み出した(?)現実であることが紛れもなく判明してくる。マイナス×マイナス=プラスという仕組みのように、二つの虚構志向が一つの現実を生んだとでもいうように。
 ホラーク夫妻、アルジュビェトカらの住むアパートの、妙に密な人間関係にも注目したい。陣痛のときの世話の焼きぶり、職場での祝福ぶりを見ても、「子どもが生まれる」ことの共同体的意味は、チェコでは日本に比べて遥かに大きいかのようだ。1993年に共産党政権が崩壊して個人主義的な自由社会になるかと思いきや、民衆の生活レベルではむしろ地縁的共同体意識が強まったのかもしれない。映画の内容が現実の社会を反映しているとはかぎらないが、「リアリティを持って観客に受けとめられるであろう描写」がなされているだろうことを考えると、チェコ社会の表層の現実を見ることができる。
 大家のおばあさん、上階の変態爺さんなどの脇役もいい味を出していて、後半は彼らがオティークにとって各々重要な役割を演ずることになる。