
【連載】呑んで喰って、また呑んで㊳
グルメ・キャンプでラム肉三昧
●日本・茨城
あるスポーツ雑誌の企画で屋外グルメ・パーティーを楽しんだことがある。茨城県のキャンプ場だった。メインはオーストラリア食肉畜産公社から無償で提供されたラム肉。もも肉5㎏とラム・チョップ用の骨付き肉が3㎏だ。
参加したのは、美人モデル3人も含め総勢10人。肉が8㎏もあるので、十分足りる。しかし、問題は仕込みだ。とにかく食材が多いので、コーディネーター兼料理主任のN、カメラマン兼アルコール担当のS、そして記事を書く私の3人が前日からキャンプ場で仕込みをすることに。
試食も「仕込み班」の重要な仕事である。その夜の試食は、モモ肉のローストに決定。Nが火を起こし、ラムのモモ肉をアイスボックスから取り出す。そのときだ。「仕込み班」用のビールがないことに気づく。さっそくSがキャンプ場近くの酒屋まで缶ビールを買いに走った。
塩・胡椒をまぶし、玉ねぎ、ニンニク、ニンジンのみじん切りをモモ肉にすり込む。赤々と燃える炭。あとはゆっくりと火であぶるだけだ。肉がジリジリと音を立て始めた。余分な脂がしたたり落ちる。香ばしい匂いが辺り一面に漂う。
「うーん、何とも言えないなあ」
「早く食べたい」
「もう我慢できないよ」
と口々に叫ぶ。
調理主任のNが神妙な顔で肉にナイフを入れた。切り取った肉片を口に放り込む。しばし沈黙が…。そして、
「う、うんめえ~」
もう法悦の目つきだ。アルコール担当のSも競うように肉片を切り取って口に入れた。
「………」
ん、どうした? 私も彼らにつづく。
「?………!」
美味しすぎると、言葉を発しないと言うが、まさにそれだった。「仕込み班」用に確保していたオーストラリア産の辛口白ワインで興奮した舌を冷ます。
モモ肉の塊が小さくなるにつれてワインの瓶も2本、3本と空になっていく。缶ビールはとっくの昔になくなっていた。もう試食会どころではない。本格的な宴会である。こうして饗宴は深夜までつづいた。
翌朝は遅く目覚めたが、仕込み班は少しばかり二日酔い気味。それでも、作業が待っているから、のんびりしていられない。テーブルに真っ白い布をかぶせ、これから調理する食材を並べる。カメラマンのSが二日酔いでふらつきながらも、何とか撮影を終えた。しばし休憩だ。
午後3時過ぎ、参加者全員が揃ったので、まずは缶ビールで乾杯だ。みんなが手にしたのは、ビール好きのオ―ストラリア人が泣いて喜ぶという「XXXX」(フォー・エックス)。クイーンズランド州で75%のシェアを誇るオーストラリアの代表銘柄だ。
前夜と同じように、Nがモモ肉に塩・胡椒をまぶし、玉ねぎ、ニンニク、ニンジンのみじん切りをすり込み、白ワインも贅沢にぶっかける。そして、しばらく寝かせてから、木の枝で突き刺したモモ肉の塊を火の上にかざす。参加者の目がモモ肉に釘付けになったのは、言うまでもない。
何しろグルメ・パーティーである。フルーツ・パンチもつくった。Nが東京から持参したパンチ・ボールに氷の塊を放り込み、赤ワインと炭酸水を注ぐ。缶詰のフルーツ・カクテルをガバッと入れてかき回す。これで立派なフルーツ・パンチの出来上がりだ。あまりの手際の良さに参加者の間から拍手が起こる。
それから1時間後、すべての料理がテーブルの上に並べられた。鉄板で焼かれたラム・チョップ、カレー風味のピラフ、適度に切り取られたモモ肉、そしてオーストラリア産のワインが。まさにオーストラリアそのものである。
さあ、食べよう! さあ、呑もう! 肉料理には赤ワインという常識をこの日は無視し、白でキメる。モデルの女子たちが甘口の「グリーノック・ソータン」をチビリチビリと。男性陣が、やや辛口の「サリンジャー・ホワイト・バーガンディー」と「リムニー・シャブリ」を豪快にぐい呑み。肉がワインと一緒に参加者の胃の中に流し込まれる。ロウソクと月明りの下で催された野外グルメ・パーティーは、さながらローマ帝国の晩餐のようであった。
キャンプ中の事故もたった2件だけ。女子1名が水たまりに足をとられて転んで白いパンツを台無しにしたのと、男性参加者1名(私)が崖から転落しただけである。