サリン事件とトゥー博士の最新著
台湾紙『中国時報』が書評
▲著書の表紙
▲台北市の書店に特設コーナーも
台湾の有力日刊紙『中国時報』は３月20日、アンソニー・トゥー（台湾名＝杜祖健）博士の著書についての書評を掲載しました。『奔流的樹葉：杜祖健與毒物共舞的人生（激しく流れた木の葉：杜祖健と毒物が舞う人生）』（玉山社出版）と名付けられた同書は３月13日に台湾で発売され、大きな反響を呼んでいます。
トゥー博士は当初、アメリカから日本経由で台湾入りし、台北でサイン会などを行う予定でした。しかし、新型コロナ肺炎騒ぎのために台湾入りができず、日本だけに滞在した後、アメリカに帰国しています。
『中国時報』の書評のタイトルは「沒有台灣人 奧姆真理教沙林毒氣之謎難以破解」。つまり、「台湾人なしにはオウム真理教毒ガステロ事件の謎を解くことはできなかった」です。その台湾人とは、トゥー博士であることは言うまでもありません。では、その書評をご覧ください。
▲書評を載せた『中国時報』の電子版
<日本のオウム真理教信者たちは、サリンガスを使って地下鉄に無差別攻撃を仕掛け、世界中を震撼させた。事件から25年後、台湾籍の学者、杜祖健氏が『奔流的樹葉：杜祖健與毒物共舞的人生（激しく流れた木の葉：杜祖健と毒物が舞う人生）』と題した本を出版し、事件を解決したプロセスと死刑囚となった犯人、中川との面会の内容も明らかにする。中川は北朝鮮の金正男の死因を神経毒だと正確に予測していた。もし警察が地下鉄攻撃の前にそのことを知っていたなら、事件を阻止できたと嘆く。しかし、残念なことに、それを阻止するのに警察は保守的すぎた。
杜祖健氏は、台湾初の医学博士である杜聡明氏の子息である。国立台湾大学化学科を卒業した後、彼は米国に留学し、博士号を取得した。当初、父親のヘビ毒に関する研究を受け継ぐが、後に神経毒を研究することになり、世界的に著名な専門家となる。そんな彼に日本の警察は助けを求めた。氏が発表した論文を読んだからだ。
神経ガスは化学兵器であり、戦争でのみ使用されると誰もが考えている。この仮定は1994年6月27日に打ち砕かれた。その夜、日本のオウム真理教は、有毒な神経ガスのサリンを使って完全に無防備な人々の集団に撒き散らしたのである。その後の1995年3月20日には、同じカルト教団が東京の地下鉄でサリンガスを大規模に噴射して人々を殺害し、世界に衝撃を与えた。
松本サリン事件から２カ月半後、杜祖健氏は日本の警察庁科学研究所からファクスを受け取る。土壌中のイソプロピルメチルリン酸（ＭＩＭＰ）とメチルアルキルリン酸（ＭＰＡ）という２つの分解生成物が、サリン有毒ガスとどう関連するかについての情報を提供してほしいという内容だった。ファックスを受信する少し前に、杜祖健氏は日本の化学雑誌『現代科学』に投稿したばかりだった。土壌中の分解生成物からサリンとマスタードガスの２種類の有毒ガスが特定できるとし、その分析法も発表したのである。
日本の警察は後に、サリン有毒ガスの分解生成物がオウム真理教の施設近くの土壌で発見されたことを発見した。これらを調べた結果、東京の地下鉄サリン事件の４カ月前にオウム真理教がサリンガスを製造していたことを警察は知ることになる。もし警察がこの情報を公開していれば、恐らくその後の東京の地下鉄事件は起こらなかっただろう。
話はまだ終わっていない。杜祖健氏は2011年、米軍と日本政府の協力のもと、死刑囚の中川智正と面会し、オウム真理教の生物・化学兵器製造の背景とプロセス、および関係した人物との関係を理解することになる。今まで聞いたことのないことや、日本政府さえ知らないことが沢山あった。幸いなことに、中川と面談したことで、すべてをはっきりと知ることができたのだ。
実際、オウム真理教は最初から化学兵器を使用することを決めてなかった。生物兵器が化学兵器に切り替えられなかったためだ。当時、生物兵器を製造するために、ボツリヌス菌と炭疽菌の２種類の細菌が選択されたが、どちらの試みも失敗し、誰も死ななかった。
ちなみに、マレーシア政府が死因を発表する前、中川はＶＸ神経剤が原因の可能性があると判断し、世界を驚かせた。彼が世界で唯一ＶＸ神経剤を使用したという個人的な経験から、金正男がＶＸ神経剤で暗殺されたことを事前に指摘することができたのである。>（翻訳・山本徳造）
