【連載】腹ふくるるわざ⑬
グリーンレンジャー 始まりの物語(下)
桑原玉樹(まちづくり家)
「よし、やりましょう!」
口角泡を飛ばした大議論の末、葛退治をやることになった。
無謀にも風車に挑む「ドン・キホーテ」のように、葛や笹竹の圧倒的な勢いに押されて駆除はできないかもしれない。作業中のケガの懸念、行政との調整、発生ごみの処理、フェンス内立ち入り許可、機材の調達などをどうするのだろう。
多くの課題はあるが、まずはともかくやり始めようということになった。作業を行いながら順次、千葉県や白井市にアダプトプログラム、補助金などの申請をし、課題を調整することにした。作業は1週間に1回、2時間程度である。そして、高齢者ばかりなので、暑い夏は休むことに。
道具はノコギリなどを各自が持ち寄り、また自主防災会からも借りることにした。中には刈払い機を自腹で買い、講習会に出かけたメンバーも。
▲メンバーの下高原洋さん(左)と仮払い機で作業する藤原雄介さん
苦闘の末の快感!
こうして 令和2(2020)年12月に葛退治が始まった。
しかし、なかなか思うように進まない。葛の蔓は石張り面を四方八方に伸びている。フェンスの外から見た目にはわかりにくいが、40年分の蔓が重なっているし、野茨(ノイバラ)などトゲのある植物も結構伸びているのだ。
積み重なった枯れ葉は半ば土になっており、各種雑草もそこから生えている。これを掘り起こすと、その裏からミミズ、ヤスデ、ダンゴムシ、アリが現れる。
葛を完全に退治することは難しい。問題は根っこだ。表面の蔓を除去しただけでは、また翌年には根から新しい蔓が生えてくる、だから根を掘り起こさなくてはならない。
▲葛の根 これから四方八方に蔓が伸びる
▲「ケイピン」で葛の根を枯らす
これがまた至難の業である。石張りブロックの隙間にしっかり根を張っているので、ツルハシ、バールを用いても掘り起こすことはできない。そこで「ケイピン」というマッチ棒のような薬品を根に打ち込んで枯れるのを待つ。こんな作業を半年やって何とか調節池の北部分は元の石張り面が見えるようになってきた。
▲ビフォア(2020 年 12 月) ▲ アフター(2021 年 4 月)
▲ビフォア(2020 年 12 月)
4カ月後には…👇
▲ アフター(2021 年 4 月)
木を覆う葛をずるずると引きずり下ろした時、あるいは石張り面を覆うネットワークのような葛のつるを地引網のように引き寄せることができた時には思わず「快感!」と叫んでしまう。
そして、通りすがりの人から「ありがとうございます。大変ですね」と声をかけられると大いに励みになり、疲れも吹っ飛ぶ。
その名はグリーンレンジャー
会の名前は、当初は葛退治が目的なので「葛の会」とした。高齢の自分たちを「クズ」と呼ぶ自虐の意味もあった。しかしやがて「葛の会」だと「葛を愛でる、あるいは利用する会」と受け取る人がいることが分かった。そこで名称を変えることにした。
学生か新人社員のように「ブレーンストーミング」で、喧々諤々。2時間にも及ぶ大議論の末に「グリーンレンジャー」となった。
この「レンジャー」には「徘徊する人」の意味も。しかし、米軍をはじめ、陸上自衛隊、警察、消防などでは「少数精鋭部隊」とされている。あるいは自然・環境の管理・維持のために巡回する保護官も「レンジャー」だ。
子供たちに人気のテレビ番組「スーパー戦隊シリーズ」では、アカレンジャー、アオレンジャー、キレンジャー、モモレンジャー、ミドレンジャーの5人のヒーローが登場、怪人の侵略に立ち向かっている。このように、レンジャーは子供たちにもわかりやすい。
グリーンレンジャーの夢は?
そんなグリーンレンジャーの夢は何か。
調節池の石張り面がきれいになったら、もう少し水面近くまで下りられるようになるだろう。もうじき夏になるので、ここで夕陽を眺めながらビールを飲むことだ(図-8)。
また、かつて調節池の最上流部には菖蒲の水生園があった。今はススキ、セイタカアワダチソウが繁茂し、竹も進出している荒れ地だ。できればそれも復活したい。そんな日を夢見ているグリーンレンジャーである。
▲ 法面に座って夕日に乾杯したい!
グリーンレンジャーの顔ぶれ
【桑原玉樹(くわはら たまき)さんのプロフィール】
昭和21(1946)年、熊本県生まれ。父親の転勤に伴って小学校7校、中学校3校を転々。東京大学工学部都市工学科卒業。日本住宅公団(現(独)UR都市機構)入社、都市開発やニュータウン開発に携わり、途中2年間JICA専門家としてマレーシアのクランバレー計画事務局に派遣される。関西学研都市事業本部長を最後に公団を退職後、㈱千葉ニュータウンセンターに。常務取締役・専務取締役・熱事業本部長などを歴任し、平成24(2012)年に退職。現在、印西市まちづくりファンド運営委員、社会福祉法人皐仁会評議員。