【連載】呑んで喰って、また呑んで⑮
クルーズ旅行は命がけ
●東地中海（ベネチア、イスタンブール、ドブロヴニクなど）
山本徳造 （本ブログ編集人） 
▲ポエジア号での夕食
うーん、太陽がまぶしい。そんなときのビールが美味い！ とくにプールサイドで呑むビールが。ここは船の上である。それも東地中海を航行中のイタリア客船だ。
さあ、これから何をしようか。夕食までまだ時間がたっぷりある。サウナか、それともバーで軽く一杯やるか。そんな優雅な気分にひたるのは久しぶりだ。
狂暴な妻に脅されて東地中海クルーズの旅に出掛けたのは、４年前のことである。まず成田空港に集合。参加者は妻と私を含めて20人くらいだったろうか。不愛想で恰幅のいい女性添乗員に引率されて、ルフトハンザ航空でベネチアへ。船がベネチアから出航するのだ。
ベネチアで１泊し、イタリアМＳＣ社のポエジア号（９万2627t、全長293.8m、乗客数2550名、乗組員数1027名）に乗り込む。おっと、これを忘れてはいけない。船にチェックインする前、ワインのボトル７本分のクーポン券を購入した。船内でワインと引き換えるのである。足りなくなったら、仕方がない。ビールでも呑むことにした。
こうして私たちを載せたクループ船がベネチアを出港した。船のデッキから見渡すベネチアの街は、まるで絵に描いたように美しい。近代的な高層ビルなんかないので、中世の雰囲気そのものではないか。妻はというと、「わあー、なんて素敵なの。もう最高。来てよかった」と一人ではしゃいでいた。
ちなみに私にとって、２度目のクルーズである。最初のクルーズは30年ほど前にマイアミからバハマの首都ナッソーまでのカリブ海クルーズだった。１泊２日の船旅で、じつに慌ただしい。おまけに某大手旅行代理店に依頼された仕事だったから、のんびりデッキでくつろぐ暇などなかった。
しかし、このクルーズは違う。８日間で、しかも仕事抜き。完全にプライベートな船旅だ。南イタリアの港町バーリ（アルベロベッロ）、ギリシャのカタコロン（オリンピア）、トルコのイズミール（エフェソス）、イスタンブール、そしてクロアチアのドブロヴニクが寄港地。ツアーなので、すべて添乗員に任せとけばよい。ま、気楽と言えば気楽である。よし、思う存分にクルーズを楽しもう。そして、喰って、呑むぞ！
さて、初日の夕食である。ツアー参加者が４組に分かれて、それぞれのテーブルに。私たち夫婦のテーブルには、都内在住の年配のご夫婦と熱海から来られたご夫婦が。
夕食には２コースがあった。どちら好きなコースを選ぶのだが、イタリア船なので、私は肉料理を、妻は魚をメインに注文し、ワインのクーポン券をウェイターに渡す。他の組はワインを呑まないようだ。ただ、ビールを注文する人が１人いたので、私もビールを。ビールと水で乾杯。
ビールを一気に呑み干してから赤ワインだ。もちろん、イタリア産である。妻と二人だけでワインを呑むのも気が引けるので、ビールを呑んでいたＨさんのグラスにも。会話が弾む。Ｈさんはスウェーデンでお仕事をされていたという。今は熱海で優雅な引退生活を送られているらしい。
もう一組のＩさんご夫妻だが、夫人は長年にわたって小学校の教員をされていた。教員だったので、物知りである。次の夜も、また次の夜も、テーブルは同じ人たちと囲むことになった。
船での夕食は時間が決まっている。が、朝食と昼食の場合、それぞれが好きな時間にとればよい。アルコール以外、すべてツアー代金に含まれているので、お金の計算をしなくて済む。そこがクルーズ旅行の良いところだろう。ところで、不愛想だと思っていた添乗員のお姉さんだが、じつに面白い女性であることが分かる。イタリア語で船のスタッフと喧嘩はするし、「豪華ヨットを所有するお金持ちと結婚したい」とのたまうなど、あっけらかんとした女性だった。その彼女が２日目の夕食のときに、私に教えてくれた。
「コースは２つあるけど、メインを２つとも注文してもいいわよ」
「えーっ、それを早く言ってよ」
で、その夜から私だけメインを２つ注文することにした。妻の冷たい視線を浴びながら。当然、ワインもビールもすすんだことは言うまでもない。呑んで喰って、また呑んで。おかげで体重も血糖値も大幅に上がって危険領域に。それも当然だろう。なにしろ船内でブロイラー状態になっていたのだから。そういう意味では、クルーズ旅行って命がけかも。でも、楽しい。
