【連載】呑んで喰って、また呑んで⑥
食料とウォトカを買い込みビールを鯨飲
●ロシア・イルクーツク
ウラジオストクからずっと蒸し暑かったシベリアだったが、東シベリアのイルクーツクに着いてみると、小雨がしとしと降っており、なぜか肌寒い。異常気象なのか、それともバイカル湖のせいなのか。
なにしろバイカル湖は琵琶湖の比ではない。日本列島よりほんの少し小さい面積というから、いかに大きな湖か分かるだろう。それはともかく、一刻も早く風呂にゆったりとつかりたいので、駅からホテルに急いだ。
夜だったのか、朝なのか、それともお昼だったのか。二日酔いが続いていたので、記憶も曖昧である。その夜、風呂に1時間ほどつかって、どこかで晩飯を終え、ホテルの部屋でウォトカをボトル半分ほど空け、早めに就寝したようだ。
翌朝、市内を散策する。ん、バイカル湖観光? ふたりとも観光地にはまるで興味がないし、バイカル湖まで行くには交通費もバカにならない。街を散策するのなら、金もかからないではないか。街並みがサンクトペテルブルグに似ていると言われるだけあって、なかなか雰囲気がよろしい。
それにしても、寒い。なにしろ上半身はTシャツ一枚である。摂氏10度ぐらいだろうか。あまりにも寒いので、裏通りにある汚らしい衣料店に入った。店の女の子は東洋系の顔をしている。聞くと、朝鮮族だという。一番安いウインドブレーカーを買った。気が付くと、もうお昼前だ。お腹もすいてきた。
「う、ここ市場とちゃうか?」
M君が通りの向こうを指さした。見るといかにも市場らしい建物が……。やはり市場だった。それも街一番の中央市場である。中に入ると、魚やら肉やら、野菜もチーズも。もちろん、キャビアもイクラもサーモンの燻製も売っている。どれもが美味そうだ。
「酒の肴になるようなもんばっかりやな」
と私は相好を崩した。
「そうや、そうや」M君も子犬のような人懐っこい表情を浮かべた。「今夜が楽しみや。思いっきり呑んだるでぇ」
その夜、私たちは再びシベリア鉄道に乗ってモスクワに向かうのだ。イクラとチーズ、サーモンの燻製、そして黒パンの塊を買い込む。もちろんウォトカも3本買うことも忘れなかった。
さっ、昼食だ。中央市場の2階に上がると、屋台に毛が生えたような食堂が何軒かあった。ペリメリというロシア風の水餃子を客が食べていた店があったので、そこに入ることに。さっそくビールで乾杯。うまーい! ペリメリが運ばれてきた。空腹だったので、慌てて頬張る。なんだ、うー、不味い!
気を取り直して、ローストした骨付き腿肉を注文した。今度は美味かった。ビールがすすむ。何本空にしたことだろう。駅に着いたときには、ふたりともほとんど出来上がっていた。よろけながら列車に乗り込む。
私たちのコンパートメントに先客がいた。20歳前後の美人である。嬉しいではないか。そして、後からもう恐ろしく長身の男が入ってきた。2メートルはあろうか。この男のお陰で、私たちのコンパートメントが連夜の宴会場になるとは……。(次週につづく)