民主党を除名される小沢一郎元代表は、11日に新党を立ち上げる。
「反増税」「反原発」を掲げる新党には、9日時点で衆院37人、参院12人、計49人が参加する予定で、小沢氏自身は「50人で船出できると思う」と、さらなる上積みに自信を見せた。
だが、世論調査で8割以上が「期待しない」と突き放している小沢新党に展望はあるのか。
政治評論家の小林吉弥氏が、選挙区を持つ新党参加予定者について、次期衆院選と次期参院選の当落予測をしたところ、衆院議員の約半数、参院議員の約7割、計6割近くが落選危機にあることが分かった。
「新党というと、有権者は新しさや爽やかさを期待するが、小沢氏も70歳。名簿を見ても、『次世代のホープ』といった人物はいない。旗印も『反増税』『反原発』だけではインパクトに欠ける。集票力のある“目玉候補”を物色しないと、衆院選も参院選も相当に厳しいだろう」
小林氏はこう語る。
注目の当落予測は後述するとして、小沢新党は、小沢氏を代表、東祥三衆院議員を幹事長にして結党される。小沢氏は会長を務める超党派勉強会「新しい政策研究会(新政研)」で、「政治家として国家、国民のため政策で研鑽(けんさん)を重ねる」と決意を語った。新党名には「国民の生活が第一の党」や「新政党」などが取り沙汰されている。
小林氏は今回、小沢新党に参加するとみられ、衆院選挙区を持つ29人、参院選挙区を持つ8人を対象に、「現時点で小沢新党で戦った場合」の当落予測を行った。すると、衆院選では「当選確実3人、優勢11人、苦戦12人、ほぼ絶望3人」、参院選では「当選確実ゼロ、優勢2人、苦戦 5人、ほぼ絶望1人」となった=別表参照。
まず、衆院選について。小林氏は「民主党を離党して、連合という支持団体を失ったのも痛い。若手議員を中心に軒並み苦戦を強いられる」という。
先月18日掲載の同様予測では、週刊文春が報じた「(大震災後、小沢氏は)放射能が怖くて逃げた」という和子夫人の手紙の影響を受け、小沢氏をこれまでの常識だった「当選確実」から「優勢」に格下げしたが、今回は元に戻した。小林氏は語る。
「民主党離党時に、地元・岩手県選出の国会議員3人が同調しないなど、小沢氏の影響力は『王国』と呼ばれた岩手でも確実に落ちている。しかし、小沢後援会は父の代から築いたもので、逆風の時こそ引き締まるという傾向も出はじめている」
小沢氏には現在、「側近8人組」がいる。前出の東氏をはじめ、山岡賢次、鈴木克昌、樋高剛、岡島一正、黒田雄、川島智太郎、岡本英子の衆院議員8人だ。川島氏は比例区選出で選挙区を持たないが、側近の中でも明暗が分かれた。
「山岡氏は、小沢氏以外の唯一の閣僚経験者だが、選挙地盤が弱いうえ、閣僚時代に追及されたマルチ商法疑惑を引きずる。紅一点の岡本氏は、横浜市議4期の地盤もあり、知名度もある。歯切れがよく、他の小沢ガールズとは別格といえる」(小林氏)
参院はどうか。小林氏は「小選挙区の衆院に比べて、参院は全県区。組織力や資金力で上回る大政党に勝つのは、なかなか難しい」という。
「優勢」としたのは、小沢氏の地元・岩手の主浜了議員と、歯にきぬ着せぬ言動でマスコミでも注目される新潟の森裕子議員の2人だけだ。
今回の当落予測はあくまで、「野田佳彦首相による解散のもとで、小沢新党単独で戦う」という条件で行っており、大阪市の橋下徹市長率いる「大阪維新の会(維新)」や、渡辺喜美代表率いる「みんなの党」と選挙協力などで連携した場合、「記号は1ランクアップする(▲→△のように)。民主、自民が票を食い合うことで、意外に善戦という可能性が出てくる」(同)という。
一方、連携できずに、次期衆院選で1ケタ当選といった事態になれば、どうか。
小林氏は「即、小沢氏の政治生命に関わる。選挙のプロだけに、小沢氏も新党の顔ぶれを見て、とても安閑とはいかないだろう。ために、維新などとの連携に腐心している。苦悩ぶりもしれる」と語っている。
剛腕新党の先行きは。
■小林吉弥(こばやし・きちや) 1941年、東京都生まれ。早稲田大学卒業。週刊誌や月刊誌記者を経て独立、68年から政治評論家に。永田町取材歴40余年を通じ、抜群の確度を誇る政局分析や選挙分析で定評。田中角栄人物研究の第一人者。著書に「アホな総理、スゴい総理-戦後宰相31人の通信簿」(講談社プラスアルファ文庫)など。最新刊は「田中角栄流『生き抜くための智恵』全伝授」(KKロングセラーズ