今年、トマト関連の話題がニュースに上ることが多い。ざっと振り返っただけでも、「トマトにダイエット効果が!?」というニュースが話題になり、店頭からトマトやトマトジュースが消えた。
5月には「飲酒時にトマトを食べると、血中アルコール濃度が低下」、さらに今月に入って、「運動前や、運動の合間の摂取で疲労軽減効果」などという研究結果も発表された。
トマトが注目を集めるなか、今月、カゴメとデルモンテがそれぞれトマトジュースのレシピ本を発売。著書『家メシ道場』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)がヒットしている、調理ユニット「給食系男子」のメンバーで編集者/フード・アクティビストの松浦達也氏がこの2冊に斬り込んだ。
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今年、やたらとよく耳にするトマトニュースに、また新たな話題が投下された。なんと今月、カゴメとデルモンテが、それぞれトマトジュースレシピ本を発売! なんというニッチ! なんというガチンコ勝負! これは両者を徹底比較せざるを得ない。
タイトルは双方とも「ド」がつくほどの直球型だ。カゴメは『カゴメトマトジュースレシピ』(朝日新聞出版 ※以下カゴメ)で、デルモンテは『世界で愛されているデルモンテのトマトジュースレシピ』(ワニブックス ※以下デルモンテ)。ともにオールカラー128ページ。表紙も両社の缶入りトマトジュースのデザインをモチーフとしている。判型で比較すると、カゴメは定番に近い四六変形で、デルモンテは流行の新書サイズだが、パッと見の印象は大きく変わらない。価格はカゴメ880円、デルモンテ900円(税込)と同価格帯だ。
とはいえ、大切なのは中身である。まずは両者の構成から比較してみた。冒頭に「トマトジュース(トマト)の素晴らしさ」を持ってくるのは、企業(商品)レシピ本としてだけでなく、レシピ本としては当然の構成だ。その後、デルモンテはそのまま、カゴメは社員へのアンケート/インタビューをはさんで、いよいよレシピに突入する。
ところが、同じトマトジュースという同じ素材を使いながらも、ここで両者の提案スタイルがクッキリと分かれる。一言で言うとカゴメは日常の料理にトマトジュースをどう使うかという提案をし、デルモンテはトマトジュースを使ったオリジナル料理を提案している。レシピゾーンを比較してみよう。
【カゴメ】
レシピゾーンは、ノンアルコールカクテルと、アルコール入りカクテルの提案から始まる。その後スープレシピ、アレンジできる万能レシピ、おかず、主食、デザートと続く。その中身は「マンハッタンクラムチャウダー」「うまみたっぷりトマト肉じゃが」「ハヤシライス」「キャベツとひき肉の重ね煮」、「トマトの冷やし中華」などレシピ名から料理の姿と手順が想像できるものが多い。
実は日常使いをするレシピ本にとって、これはとても大切で、レシピ名から料理が想像できると、手をつけるハードルが格段に下がる。「ちょっぴり目先を変えた料理が、トマトジュースなら手軽に作れる」というメッセージが伝わってくる。
【デルモンテ】
レシピゾーンはカゴメと同じくソフトドリンクからスタート。その後、スープ、主食、おかず、スイーツと続く構成はほぼ同じ。ミートソースやパエリアなど、カゴメと共通する定番レシピもあるが、目につくのはやはりオリジナルレシピだ。「トマトちらし寿司」、「白身魚のカルパッチョ トマポンジュレ」、「ホタテの美肌おろしあえ」、「焼き大根とサケのトマトみそ煮」、「牛肉のレッドアイ煮込み」など。
トマトジュースを使うなら、手軽な料理だろうと思ってページを開いたら、特に後半は、思ったよりも手の込んだ本格オリジナル料理が並んでいた。新レシピの開発に迫られるプロの料理人にも喜ばれるかもしれない。
どちらの本も巻末には社歴・ブランド歴が記されている。カゴメは1923年の発売以来、80年目の今年に至るまでのトマトジュース史を、デルモンテも1960年代に日本に上陸してから現在までの歩みをたどっている。
レシピ本づくりは自分も経験あるが、本当に大変だ。その気になればターゲットはいくらでも広げることができ、構成も無限にある……ように見える。だが、メニューのネーミングや、目次、索引の作り方など、レシピ本には外してはならないとされるセオリーがあり、しかもそのセオリーがいつも正しいとは限らないという、とても厄介なシロモノだ。その上、トマトジュースという、もとの商品イメージが定着している飲料を、食材として使うレシピ本ということもあり、どちらも繊細な作りこみが行われている。
例えば確実に解消しなければならないのが「なぜ料理にトマトジュース?」という読者が抱きそうな疑問だ。カゴメは巻頭の社員インタビューで、飲むのは苦手だったが料理には必ず使うという社員を紹介して解決し、デルモンテも巻末で「トマトジュースを使うと、料理がとっても簡単♪」と食材としてのトマトジュースを訴求している。
ともあれこの2冊が、書店店頭で仲良く棚を確保する姿は容易に想像できる。きっとガチンコバトルどころか、両方売れるんだろうなぁ……。