※
孔明の秘密の作業は、まだつづいていた。
邪魔してはいけないので、趙雲は孔明のいる部屋を退出し、劉備の元へ行く。
劉備は忙しく立ち働いていた。
張飛や関羽といっしょになって、新野《しんや》と樊城《はんじょう》の民のため、炊き出しを手伝ったり、草鞋《わらじ》を編んだり、収穫物を管理するための帳簿を書いたりしている。
草鞋を編むことにかけては、劉備の手先の器用さがいかんなく発揮されていた。
張飛や関羽のつくる不格好な草鞋を直してやることまでやっているのだ。
かれらは楽し気に作業していて、目の下にクマを作りながら一室に籠って懸命に作業している孔明とは対照的だった。
趙雲は複雑な思いで、劉備たちをすこしはなれたところから見守っていた。
すると、当の劉備が気づいて、たずねてきた。
「子龍、軍師はどうしている」
「部屋で書き物をつづけております」
「そうかい、孔明のことだから、今の段階で無駄なことはしていないだろう。
今夜あたり、話をしてみるかな」
と言いつつ、劉備は両手のわらを凄まじい速さで編み、あっという間に履き心地のよさそうな草鞋をつくりあげた。
その手腕に、張飛と関羽だけではなく、見ていたほかの作業している民も、ほおっ、と感嘆の声をあげている。
みなの称賛のまなざしを照れ臭そうに受けながら、劉備は趙雲を見た。
「軍師に、今宵、わしの部屋に来るように行ってくれ」
すると、すかさず張飛が茶々をいれてきた。
「お、兄者は軍師に説教をするつもりかい」
劉備は眉を吊り上げて、張飛にたずねる。
「説教だと? なぜわしが説教なんぞをせねばならぬ」
「ほら、みなの処遇をどうするかで、意見が分かれているじゃないか、それでだよ」
そのやり取りを聞いて、趙雲は張飛の頭をぽかりと殴ってやりたくなったが、グッと我慢した。
張飛はどうも、その場その場の感情的な意見に流されやすい。
劉備はあきれたように張飛を見ると、言った。
「おまえは単純すぎるよ。言っておくが、孔明はわしの期待を裏切らないやつだぞ」
「どういう意味だい」
「そういう意味だよ。部屋にこもって何かしているのも、きっとわしらのために違いないのだ。
それをなんだ、説教するだなんだと、おまえは孔明をまだ仲間だと思っていないのか」
「そういうわけじゃないけれども」
「だったら、軽々に騒ぎ立てるものじゃない。
おまえの悪いところは、そういうところだぞ」
「ちぇっ、おれが説教されちまったよ」
ぶつぶつ言う張飛のとなりで、関羽が劉備の手まねで草鞋を編みながら、笑っていた。
つづく
孔明の秘密の作業は、まだつづいていた。
邪魔してはいけないので、趙雲は孔明のいる部屋を退出し、劉備の元へ行く。
劉備は忙しく立ち働いていた。
張飛や関羽といっしょになって、新野《しんや》と樊城《はんじょう》の民のため、炊き出しを手伝ったり、草鞋《わらじ》を編んだり、収穫物を管理するための帳簿を書いたりしている。
草鞋を編むことにかけては、劉備の手先の器用さがいかんなく発揮されていた。
張飛や関羽のつくる不格好な草鞋を直してやることまでやっているのだ。
かれらは楽し気に作業していて、目の下にクマを作りながら一室に籠って懸命に作業している孔明とは対照的だった。
趙雲は複雑な思いで、劉備たちをすこしはなれたところから見守っていた。
すると、当の劉備が気づいて、たずねてきた。
「子龍、軍師はどうしている」
「部屋で書き物をつづけております」
「そうかい、孔明のことだから、今の段階で無駄なことはしていないだろう。
今夜あたり、話をしてみるかな」
と言いつつ、劉備は両手のわらを凄まじい速さで編み、あっという間に履き心地のよさそうな草鞋をつくりあげた。
その手腕に、張飛と関羽だけではなく、見ていたほかの作業している民も、ほおっ、と感嘆の声をあげている。
みなの称賛のまなざしを照れ臭そうに受けながら、劉備は趙雲を見た。
「軍師に、今宵、わしの部屋に来るように行ってくれ」
すると、すかさず張飛が茶々をいれてきた。
「お、兄者は軍師に説教をするつもりかい」
劉備は眉を吊り上げて、張飛にたずねる。
「説教だと? なぜわしが説教なんぞをせねばならぬ」
「ほら、みなの処遇をどうするかで、意見が分かれているじゃないか、それでだよ」
そのやり取りを聞いて、趙雲は張飛の頭をぽかりと殴ってやりたくなったが、グッと我慢した。
張飛はどうも、その場その場の感情的な意見に流されやすい。
劉備はあきれたように張飛を見ると、言った。
「おまえは単純すぎるよ。言っておくが、孔明はわしの期待を裏切らないやつだぞ」
「どういう意味だい」
「そういう意味だよ。部屋にこもって何かしているのも、きっとわしらのために違いないのだ。
それをなんだ、説教するだなんだと、おまえは孔明をまだ仲間だと思っていないのか」
「そういうわけじゃないけれども」
「だったら、軽々に騒ぎ立てるものじゃない。
おまえの悪いところは、そういうところだぞ」
「ちぇっ、おれが説教されちまったよ」
ぶつぶつ言う張飛のとなりで、関羽が劉備の手まねで草鞋を編みながら、笑っていた。
つづく
※ 本日はちょっとだけ短めの内容でお届けです。
キリが良いのでこの分量です。ご容赦くださいませ;
次回はもうちょっと長めでお届けします。次回をおたのしみにー(*^▽^*)