はさみの世界・出張版

三国志(蜀漢中心)の創作小説のブログです。
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黒鴉の爪痕 その15 人間模様

2024年12月04日 10時02分12秒 | 英華伝 序章 黒鴉の爪痕
劉備は、孔明が徐々に城の者と馴染《なじ》んできているのをよろこんでいるようだ。
あいかわらず、一部の孔明のことが面白くなさそうな者たちは残っていたものの、いまではかれらのほうの旗色が悪いせいか、孔明が新野城《しんやじょう》にやってきた当初ほどには、声高に悪口を言ったりしない。
麋竺《びじく》や趙雲をはじめ、孔明と仕事をはじめた者たちが、孔明を庇《かば》うようになったのも、城内に悪口が減った一因だろう。
孔明はそれをありがたく思った。
なんにせよ、四方八方に心配りをしながら仕事をするより、一意専心にひとつところに向かうほうが、なんであれうまくいくものだからだ。


もう一押し、と見て取ったのだろう。
孔明のため、劉備は家臣たち全員を大広間に迎えて、宴をひらいた。
それまでも、なんどか宴は開かれていたが、城に出仕する全員が一堂に会すのは初めてであった。
さすがに劉備の誘いを断る者はなく、顔ぶれは欠けていない。
劉備はごきげんで、先頭で音頭を取り、まんべんなく家臣たちに声をかけては、場を盛り上げようと心を砕いていた。
それが伝わって来たので、孔明も一緒になって笑顔で過ごす。
孔明を陰で『水野郎』などと呼ばわっているらしい関羽や張飛も、以前とちがってあからさまに不機嫌さを見せることなく、おおいに飲み、喰らっていた。


劉備と並んで楽し気にしている麋竺、張飛とともに馬鹿な冗談ばかり飛ばしている簡雍《かんよう》、不機嫌そうな様子を隠さないが飲む手は止めない孫乾《そんけん》と、対照的によく飲んでいる弟の孫直《そんちょく》と簡啓《かんけい》ら。
趙雲と陳到は水ばかり飲んでいるようで、これは万が一のときに、酒で身動きが取れないということがないよう、気を付けているようだった。


料理を運ぶ女たちも忙しなく動き回っており、そのなかに、飛びぬけて可愛らしい娘がいることに孔明は気づいた。
傷ひとつないかぶのように真っ白な肌に、高級な筆ですっと目を書き入れて、さらに口に紅を入れたような美しさ。
男たちの席のあいだを、蝶のように動き回っている。
思わず目で追っていると、いつの間に隣りに座っていたのか、劉備が小声で言った。
「今日は人出が足らぬから、給仕もやってくれているようだな。
あれが、噂の厨房の三女神の末っ子・宋白妙《そうはくみょう》だよ」
「ああ、たしか、三女神は周慶《しゅうけい》、蘇果《そか》、宋白妙、とおっしゃっていましたね」
「そうそう。そのなかでも一番の器量よしだ。
ちょっとおっちょこちょいだが、そこも愛嬌というわけで、男たちからも人気がある」
おっちょこちょい、という劉備の声が聞こえたわけでもないだろうが、白妙は、さっそく孫乾の杯に酒を注ぐのをあやまって、かれの膝にこぼしてしまい、ぺこぺこ頭を下げている。


それを、きつい目をして見ている、背のすらっとした美女がいる。
見ているだけで、白妙を助けようとしないその美女は、気の強そうな細い眉をした、鼻梁の通った女だった。
「あれが蘇果。いい女だが、ちと気が強すぎるのが玉にキズだな」
趙雲が目当てにしている女らしい、ということで、孔明はそれまで、見たことのない蘇果をもっとしとやかな娘だと想像していた。
ところが、実際の蘇果はその逆で、ずいぶん存在感のある、はしはしした娘らしい。
白妙のほうを気にしつつも、てきぱきと配膳の手を止めないでいる。


孫乾は酒が入っているためか、小言をぶつぶつと白妙にぶつけていたが、やがて、横からふっくらした頬の、目のつぶらな美女が入ってきて、孫乾をなだめにかかった。
一方で、白妙にも、もっと謝るようにと手ぶりで伝えている。
「一緒に謝っているのが周慶だ。
おっちょこちょいの白妙の起こすもめ事を、いつも収めているえらい女人さ。
さて、ちょっと公祐《こうゆう》(孫乾)のところへいって、わしも口添えをしてやるかな」
そう言って、劉備は席をたち、孫乾と女たちのところへ向かった。
劉備があらわれたので、孫乾も恐縮した顔をしている。
周慶はホッとしたような顔で劉備に頭を下げ、ちょっとぼおっとしたところがありそうな白妙は、周慶にうながされてから、あらためて頭を下げた。
一方で、蘇果は、場が収まったとわかると、つんと顎をあげて、もう二度と孫乾の席のほうを見ようとしなかった。
気が強いというか、さっぱりした気性というか。


ちらっと趙雲のほうを見ると、蘇果のほうを睨むように見ている。
おや、なんでだろうなと蘇果のほうを見ると、蘇果がちょうど、孫直の酌をしているところが見えた。
嫉妬の顔だろうか。
それにしては、鋭い目つきをするものだ、と孔明は不思議に思う。
趙雲と知り合って、まだいくらもたっていないが、ああいう性格の男は、いくら胸に嫉妬の感情があろうと、はっきり表に出さない気がするのだが?


と、もうひとり、蘇果と孫直を見ている者に気づいた。
ほかならぬ宋白妙で、孫乾の席から離れたあと、配膳の手を止めて、こちらは悲しそうな、切なさそうな顔をしている。
その白妙の気を惹こうと、劉備の養子、劉封《りゅうほう》がさかんに声をかけているのだが、白妙は、ほとんどそれを聞いていない様子だ。


ややこしいが、整理すると……
蘇果は白妙の姉貴分。
その蘇果は孫直といい仲らしいが、そこに趙雲が割って入ろうとしている。
さらに、孫直のことを白妙が想っていて、白妙を気に入っているらしいのが劉封。


三角関係以上にややこしいなと思っていると、蘇果が孫直から離れた。
その隙にとばかりに、白妙が劉封をほとんど無視して孫直の席の前に滑り込み、料理を運び入れた。
二言、三言、ふたりで話をしているが、はしゃいでいるのは白妙で、孫直のほうはそうでもない。
二人の姿を、劉封が気の毒なほどに、悲しそうな顔をして見ていた。


つづく

※ さまざまな人間模様が展開されるなか、次回、いよいよ……??
しかし、韓国の戒厳令には仰天しましたね……大丈夫かな? とSNSで状況を追いかけていたので、本日は寝不足でございます。
日本のテレビ局はけっきょく夜が明けるまで、ほとんど報道しなかったという。どうしてなんだろう?
そんなわけで(?)本日、自分ではわからないところでポカをやっていたらスミマセン。
いつになく気をつけてはいるのですが……
ではでは、次回をおたのしみにー(*^▽^*)


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