阿部ブログ

日々思うこと

米国情報機関の予算削減と新たな脅威:サイバー戦争への対応など

2012年02月22日 | 日記

2011年年8月に成立した予算コントロール法(P.L.112-25)により米国情報機関の予算も削減されている。
2012年1月3日、情報機関授権法(2012年度:P.L.112-87)がオバマ大統領の署名を経て成立。これにより2011年度の情報機関の公表されている予算総額は786億ドルだったが、2012年度は、国防予算同様削減され、削減規模は10億ドルを超える模様。

情報機関の予算は削減されるが、新たな脅威への対処も欠かせない状況で活動の諜報活動のあり方も変わらざるおえないだろう。
特に喫緊の脅威を見なされているのがサーバー戦争。

サイバー戦争については、2011年10月に『2009-2011年サイバー空間での米国に対する経済・産業スパイ報告書』が国家情報長官隷下の国家防諜局(ONCIX)から連邦議会に提出され公表されている。

この報告書は、1995年に制定された「情報機関授権法第809条(b)」に基づき、隔年で発表されるもので、昨年公開された同報告書においては、従来になくサイバー空間を通じた活動による脅威が著しく高くなっていると指摘し、特に中国とロシアの諜報機関の活動が顕著であるとしている。

現在のサイバー空間上では、世界中の情報機関や研究機関、民間企業など様々な属性がサイバー空間経由での情報収集活動、所謂スパイ活動を行っており、今後数年はネットにアクセス可能な携帯用サイバー機器の世界的な普及によるスパイ活動の更なる活発化が容易に予測されるため、政府、軍、及び民間企業も含めて情報&データの安全な所有・保管管理について、一層の対策を講じる事が必須であると指摘している。

2012年度情報機関授権法により予算削減が確定となり、サイバー戦争対策を行いつつ、国家情報長官はイランや北朝鮮などを対象とする核拡散に関する権限の拡大、情報機関が特定の業者等から情報技術機器等を調達できなくなる危険を回避するための調達権限の拡大も規定されている。これは日本企業にも係るもので、情報技術機器等の調達云々には、昨今のレアアース危機など鉱物資源争奪もその背景にあることは指摘しなくてはならない。

以上であるが、情報機関授権法(2012年度:P.L.112-87)で付記する事項は、以下の2点。

(1)米国の情報機関は国家の意思として暗殺を許容しているが、今後は要人暗殺などについてはCIA長官が他の国防関連機関、FBIなどと協議の上、その暗殺意任務を記録・モニタリングするために連邦議会に報告書を提出することが義務付け。

(2)米国籍のテロリストや、他国人ではあるが国際テロリストについては、その動静など全面的なと情報機関相互の包括的な分析を実施し共有。

米国の国防戦略~米国の国際的な指導力の維持―21 世紀の国防の優先順位

2012年02月22日 | 日記
米国の国防戦略~米国の国際的な指導力の維持―21 世紀の国防の優先順位~Department of Defense, Sustaining U.S. Global Leadership: Priorities for 21st Century Defense ,January 2012.

2012年1月5日、米国防総省は、新たな国防戦略「米国の国際的な指導力の維持―21世紀の国防の優先順位」を発表。
続いて1月26日には、来年度の国防予算案を提出している。

新たな国防戦略は、2020年までの国家安全保障の在り姿を示したもので、今後の政策の重心を対イラク戦、対アフガニスタン戦からサイバー戦争など将来想定される脅威への現実的課題と対応に移行する方針を明らかにしている。
また昨年成立した予算コントロール法((P.L.112-25)により、国防予算削減への対応を含めた米軍全体のミッションと寄って立つ原則を明確化した。

この中で、米軍の第一義的なミッションとしては、次のが明示されている。

(1)対テロリズム及び非通常戦争への対応、侵略の阻止
(2)米軍のアクセスや活動の自由が制限される地域での戦力の維持
(3)大量破壊兵器対策
(4)サイバー空間及び宇宙空間でのネットワーク等の防衛、安全、安定的、有効な核抑止の維持
(5)国土防衛と海外での安定的なプレゼンスの維持
(6)イラク等での安定化活動と破壊活動の阻止の実施
(7)その他、人道支援、災害救助、その他の活動の実施

この他、特記するべきは、インドとの長期的な戦略パートナーシップの形成と維持、インド洋海域の安全保障を確実にしつつ、中国のインド洋進出を抑え込む。
また金正日死後の朝鮮半島における戦争状態への移行阻止、継続して北朝鮮の核開発を阻止する方針を示している。
更には、湾岸地域の安全保障を保持する為、断固としてイランの核兵器開発を阻止し中東地域の不安定化への対抗を掲げている。

昨年来、TPPが話題にのぼっているが、これは米国の国防政策を含む米国の国家の意思としてアジア太平洋地域への国家戦略シフトが明確になっている。
経済戦略も含めてのアジア太平洋地域重視戦略の肝は、米国の経済や安全保障の利害は、西太平洋から東南アジア、更にはインド洋や湾岸地域を含む南アジア地域全域が、今後の米国の発展と密接不可分であり、米軍の配置もアジア太平洋地域に重点的に再配置するとしている。

以上を踏まえて感ずることは、米国は北太平洋全域を自国の国防圏&経済圏と認識している。即ちハウスフォーファーの「太平洋地政学」にある世界観が窺えるのは気のせいだろうか。。。

さて、やはり米国のアジア太平洋地域重点戦略に脅威と思われているのが中国である。この地域における中国の台頭は、さまざまな形で米国の経済と安全保障環境に影響を与える可能性が高いと予想されており、当面は協調的な二国間関係の構築に外交的努力を傾注するだろう。

ただし、中国の軍事的台頭、特に太平洋、南シナ海、インド洋などへの進出により当該地域において軍事的軋轢をもたらすことを避けるために、米国は同盟国との軍事的連携強化も含めてその戦略的意図を明確にして、中国の進出を抑制するだろう。
これが為、TPPによる経済同盟、国際条約等に基づく太平洋・インド洋域の秩序の安定構築を推進する事となる。
日本は、米国の戦略シフトの意図を絶対に見誤ってはならない。

1月26日提出された国防予算案は、国家財政逼迫のあおりを受けているイギリス軍と同様に予算削減に直面しており、前述の予算コントロール法によって、2012年~2021年度の10年間で4870億ドルが相当が削減される。
この予算削減により、国防総省は、以下の対応策を講ずるとしている。

(1)イラク、アフガニスタンからの予定通り全部隊を撤退させる。部隊撤退に伴いアジア太平洋地域及び中東地域における戦力の再配置を実施。
(2)現行の空母11隻の体制は維持。
(3)ヨーロッパにおいて陸軍の2個旅団を削減。
(4)対テロ戦やサイバー戦対策など、新たな脅威に対する軍事的投資を拡大継続する。
(5)開発が遅滞している次期統合打撃戦闘機F35の調達は先送り。
(6)アフガニスタン・イラク戦争終了後は、陸軍を57万人から49万人に削減。同じく海兵隊も20万2000人から18万2000人に削減し総数10万人の兵力削減を行う。

普天間及びグアムへの部隊再配置なども含め、政府としては、米国が置かれている財政的環境と安全保障に係る戦略方針を踏まえての外交・軍事、そしてTPPを含めた経済分野での国家としての責任ある戦略的対応を体制を整えて行うこと。