阿部ブログ

日々思うこと

シリアへのS-300供与問題とイスラエルの対応

2013年06月03日 | 雑感

過去ブログで書いたS-300供与問題は、当事者のイスラエルと欧米諸国に様々な影響を与えている。

ロシアの地対空ミサイルS-300供与問題は、東西新冷戦を思わせる様相を呈しているが、ロシアは更にMig-29M/M2型戦闘機をシリアに供与する交渉をモスクワで行っている。10機以上のMig-29が、S-300と相まってシリアに展開する事になると、中東で圧倒的な空軍力を有するイスラエルの攻撃力を大きく削ぐ可能性がある。

ロシアは断固として、対シリア武力攻撃を阻止する堅い国家意志を示しており、地中海に混成のロシア艦隊を遊弋させているのが、よい証拠。揚陸艦には海軍歩兵部隊が乗船しており、シリア状勢の如何によっては介入するだろう。

ネタニアフ首相は、ソチでのプーチン大統領との会談において、S-300をシリアに供与すれば、全力で破壊、もしくは無能化すると明言。またネタニアフ首相は、ヒズボラへ、ロシアが供与する武器群が流出する事への重大な懸念も表明している。何せ約7000人のヒズボラ戦士が戦闘に従事しており、アサド政権維持に貢献する有力な軍事部門となっている。

5月29日、イスラエルのヤアロン国防相は、「ロシアがS300の搬送を開始したかはまだわからない。しかし、S300がシリアに入ったら、どうするかはわかっている」と、暗に攻撃を示唆する発言を行っている。しかし、ネタニヤフ首相は閣僚・軍幹部に、メディアへのインタビューに不用意に応じないよう伝え、ガンツ参謀総長は「イスラエルはシリアには極力関わらない。」と抑制した発言をしている。

アサド大統領は、2014年の任期切れまで退陣する事は無いと、彼の発言にブレはなく、今後もシリア内戦は継続する事となるが、EUが反シリア勢力への武器支援制限を緩和した。効力を発するのは8月1日以降であるが、具体的な武器支援の計画は出ていないが、イギリスの第22SAS連隊は、同地で活動を既に開始しており、偵察と情報収集活動、それと反政府勢力への戦闘支援を行っている。

イスラエル国内では、先月下旬、化学兵器による攻撃を想定した訓練を実施。既に市民へのガスマスクを郵便局で配布を継続し、現在まで総計480万セットの配布を完了した。また化学兵器を中和する中和剤を撒く訓練が、病院や学校などで行われ、静かな緊張感が国内には漂っている。

イスラエルが懸念するヒズボラだが、EUからの武器支援が本格化し、戦闘員の損耗が増えるような事態になると、どこまでシリア支援を行うか、推測しずらいが、私見ながらヒズボラがシリアから撤退する事は無いだろう。シリアからの撤退は、イランとの直接連絡手段を喪失するし、イランと言えば地中海へのアクセスを失う事になるからだ。ヒズボラを戦闘に駆り立てているのはイランだ。
しかしながら、シーア派のヒズボラのシリア介入は、スンニ派の強い反感が強まる結果ともなっている。隣国のレバノンへの内戦が飛び火する事も十分に想定されるし、レバノン国内の擾乱は、直接イスラエルへの脅威となる。

この為、イスラエル国防軍 (IDF:Israel Defense Force) は、シリア国境地帯を含むイスラエル北部に「See-Shoot」と呼ばれるセンシング戦闘コンセプトとシステムを展開した。これは、北部国境地帯を含む広域に多数のセンサーと無人偵察デバイスを投入展開させ、このセンシング・データを統合的かつ、高速に処理・分析し、瞬時に迫撃砲、火砲、ミサイル、歩兵戦闘車、メルカバ戦車などから、精緻な攻撃を可能とする。
「See-Shoot」は、捜索・偵察・分析・判断・攻撃・評価をシームレスに行える優れもの。ガザ・ギャップに次いで配備された。既に5月20日、シリア国境のBeer Ajamの機関銃陣地を「See-Shoot」で破壊しており、シリアもおいそれと国境は侵犯出来ない。

それとイスラエル空軍 (IAF:Israel Air Force)は、S-300供与問題への対応策の一環として、ミサイル部隊 (Experimental Missile Unit)へ新型レーダー "Horizon Ray" を配備した。飛来するロケット弾やミサイルの弾道追跡を精密に行え、同時複数目標追跡能力と通信機能とセキュリティも強化され、アイアン・ドームの性能向上が期待されている。