阿部ブログ

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シリア内戦の戦況~反政府勢力の退潮とEUの軍事介入の可能性~

2013年06月06日 | 雑感
シリア軍がヒムス県アル=クサイル市(al qseer)を完全制圧した。自由シリア軍は、2週間以上の攻防戦に敗れ、東アル=ブワイダ市に撤退した。ヒムス県はダマスカス県と地中海沿岸を結ぶ戦略要地であり、自由シリア軍のサリーム・イドリース、元シリア陸軍少将は、欧米諸国からの戦闘員への武器供与がなければ、戦闘継続は難しい局面を迎えるとの発言をしている通り、自由シリア軍の形勢は不利に傾いている。

シリア軍とヒズボラは、5月19日以降、アル=クサイル市郊外の空軍基地を奪還した後、同市の西・南・東の三方から突入し、自由シリア軍が押さえるアッ=ダブア村を圧迫し同軍を北方に押し出した。今回のアル=クサイル奪還は、ヒズボラ部隊の貢献が大きい。今は、ヒズボラ部隊は、シリア内戦の全体に関与しており、シリア北部、特にアレッポでは枢要な戦力として戦闘を継続している。

そもそもシリア軍には、ロシアとウクライナから大量の武器が供与されており、自由シリア軍の戦備を圧倒している。特にウクライナのLCW (Luhansk Cartridge Works) 製の武器弾薬が船積みされ地中海経由でシリア国内に搬入されている。シリア政府が地中海沿岸域の防衛を重視する背景には、戦闘を有利に進めるために欠かせないからだ。

ウクライナは、過去にもフセイン政権下のイラクや、タリバン政権のアフガニスタンにも武器を輸出していたし、2010年にはエチオピアに1億ドル相当の武器弾薬を輸出している。型落ちとはいえ戦車200両も含まれる大規模な供与だった。翌年2011年には、スーダンに戦車や歩兵戦闘装甲車や、BM-21多連装ロケット発射器(30両)、122mm自走榴弾砲(30両)を輸出している。紛争が続いている中央アフリカやチャドにもウクライナは武器を輸出して間接介入を行っている。

アル=クサイル奪還後は、シリア軍はアレッポ近郊に戦闘部隊を集中展開しつつあり、地対地ロケットなどで自由シリア軍の拠点を継続的に攻撃し圧迫し続けている。ヒズボラ部隊もアレッポ奪還を目指して戦力を強化している。シリア人権監視団のラーミー・アブドゥッラフマーン代表によると、北朝鮮軍の15名程度の将校がアレッポ近郊の作戦支援活動や、同市南東部にある軍事工場などに配置されていると発言している。北朝鮮のシリア軍への支援は当然考えられることだ。イスラエルが破壊した原子炉は北朝鮮から技術と資材が提供されているように、両軍の関係は現在も緊密だからだ。北朝鮮にしても、将校に実戦経験をさせるには丁度よい規模の戦闘が展開されているので、人材の育成にはもってこいだ。

今後、自由シリア軍の敗退が続くことになるとレバノンやトルコなどの隣国が、シリア軍との戦闘に巻き込まれる可能性が高まる。実際に6月4日には、シリア側からハタイ県に展開しているトルコ陸軍の装甲車に対して約60発の銃弾が打ち込まれ、トルコ軍も反撃している。人的被害はなかったものの今後シリア国境付近は注意深く監視する必要がある。また、EU/NATOの軍事介入もありうる。フランスの外務大臣は、アサド政権が化学兵器を使用したことを確認したとして、シリアへの軍事介入を含むすべての措置を検討していると述べている。

過去ブログもご参照。
シリア内戦とアレッポの石鹸、それと化学兵器使用問題
シリア情勢:トルコにパトリオットを配備
シリア情勢とドイツ連邦情報局の活動など
シリア情勢とトルコ
シリアでの化学兵器使用問題