師茂樹先生が先月5日に東京都港区の伝道センタービルで行われたBDKシンポジュウムで話されたことが、仏教界にとどまらず、ネットなどでも大きな話題になっています。前にも申しましたように、師先生は伝教大師の「共許(ぐうご)」の思想を重要視されています。今の世界は分断と対立が深刻化し、それが戦争を引き起こす要因になっています。考え方が違っていても、相互に承認すれば、争わずに済むのです。自分たちだけが正しいという思い込みが、世界を破滅の方向に引っ張っていくのです。
個人主義というのは西欧の考え方ですが、ともすれば自分だけが良ければというミーイズムになりがちです。間違った個人主義が西欧社会に混乱をもたらしていると思います。いかなる信仰者であろうとも、原点は共通するものがあり、今こそ手を携えるときではないでしょうか。
伝教大師最澄と徳一の論争にしても、単なる批判の応酬ではなかったと思います。昨年11月にゲンロンカフェでは『最澄と徳一──仏教史上最大の対決』の刊行を記念したイベントを開催し、そこでの議論の内容がネットにアップされています。師先生の「当時、三論宗と法相宗の間で大きな対立があったため、それを解消することが多くの仏僧に共通する課題だった。最澄もまた、この対立に対する第三の勢力として位置付けられる。最澄は天台以外の多様な宗派の経典も総動員して徳一を説諭するが、その理由はこうした仏教界を巻き込む文脈からはじめて理解できるのだという」という見方を紹介しています。
伝教大師最澄が三論宗と法相宗の論争に加わったのは、当時の日本仏教界の分断にストップをかけ、新なる統合に向けたステップと理解しているのです。天台宗の一僧侶である私は、新たなる統合という伝教大師最澄の果たした役割を再認識することが、世界平和に結びつくと私は確信しています。
合掌
写真は師茂樹先生