はざまの庵

分類し難い存在を愛でる覚え書き by aiwendil お気軽にコメントをどうぞ。

東京遠征5/20。(「チョコレート展」、じゅんじゅんSCIENCE「サイエンス フィクション」、「活

2007-05-20 23:56:42 | アートなど
本日5月20日は、昨日に引き続き東京で展示会を2つと舞台をひとつ観て参りました。

まず、東京ミッドタウン隣りの21_21 DESIGN SITE で開催中の「チョコレート展」。
チョコレートをキーワードに、様々な作家の作品を集めた展覧会です。
深澤直人ディレクションというので、完全なデザイン寄りの内容を想像していたのですが、予想以上にアートした展示会でした。
チョコレートそのものをモチーフにしたものから、チョコレートという概念からインスパイアされたもの、さらに、チョコレートにまつわる事項やチョコレート的なものまで、チョコレートをめぐるいろいろがところ狭しと並んでおり、予想以上のボリューム。鑑賞に1時間以上もかかってしまいました。
以下、印象に残ったもの。
岩井俊雄さんのモルフォチョコ。元の形状がシンプルなだけに、視覚効果がより強調されていて面白く感じられます。回転し始めと止まる時の視覚効果切り替えの瞬間が好きで、思わず何度も見入ってしまいました。いっぽうで、チラッとだけのぞいて、停止したオブジェを見ることなく去ってしまう方々もいて、他人事ながらもったいないなあと思ってしまいました。
様々なアイデアチョコレートの部屋。小さなチョコたちはいちいち微笑みを誘うものばかり。ぜひ製品化して欲しいものもたくさんありました。アスファルトチョコとアポロ板チョコ、発芽するチョコボールが印象的。
チョコレートタワー。床から天井まで積み重なったチョコレート菓子の箱。積み重ねた張力で自立しているのか、それとも糊付してあるのかが気になるところ。
ところで、本筋とはズレますが、会場内に、至近距離から見上げるように投射できるプロジェクタがあって驚きました。
普通は下から投影したら映像がとんでもなくゆがんでしまいます。著しくアオリがかかっている状態になるため焦点も合いません。ところが、会場にあったプロジェクタは壁から数十センチの位置にありながら、床から2メートル程度の位置にきっちり長方形の映像を投影していたのです。思わず覗き込んでみたら、歪面鏡を利用した歪み補正のできるプロジェクタであることがわかりました。なかなかすごいハイテクです。
そういえば、21_21 は建築物としても面白い形状でした。近年多用されているコンクリート打ちっぱなしにガラス張りを組み合わせた仕様で、主たる展示スペースは地下。なのに、全然暗くはない。空間の使い方が絶妙です。内部のサイン環境やトイレのデザインもなかなか見ごたえがありました。
Yajirusi01_1一番気に入ったのが順路表示のための矢印形オブジェ(左図参照)。腰ぐらいまでの高さで、建物内のあちこちに配置されていました。金属製のワイヤーで造形された灰色の矢印は目からウロコのシンプル機能美。建物に溶け込み、なおかつきちんと役目を果たしているのが印象的でした。いかにもスーパーノーマル。入口近くのオープンスペースにあったので写真を撮りたかったのですが、聞いてみたら撮影禁止とのこと。製品ではなく作品扱いなのでしょうか。残念です。
残念と言えば、せっかくのコインロッカースペースが使用禁止になっていたのも残念でした。説明がなかったので理由はよくわかりませんが、かなり釈然としない気分になりました。
展示施設としてはまだまだ若い、といったところでしょうか。今後の環境整備充実に期待です。

東京ミッドタウンの建物自体には入りませんでしたが、21_21の開館時間までの間、隣接する公園や公共スペースをぶらぶら歩いてみました。遊具がかなりアヴァンギャルドな形をしていたり、芝生のむこうに巨大なオブジェがあったり、移動店舗と見せかけた車型の固定店舗があったりとアートな感じ満点。さらに、散歩コースを想定した歩道や標識があったり、樹や植物が豊富だったり、そこかしこにベンチがあったり、ペット用の水飲み場があったりと、誰もが利用できる開かれたスペースを目指しているのがうかがえてちょっと嬉しくなりました。歩くだけで楽しめそうです。新しい形の都市公園、といった印象を受けます。天気の良い日にふらっと寄ってぶらぶらしたり、木陰のベンチで休んだりするのにはうってつけではないでしょうか。なかなか羨ましいスペースに思えました。

さて、次に、駒場東大前の こまばアゴラ劇場で上演されていた、じゅんじゅんSCIENCE「サイエンス・フィクション」14時公演。
マイムパフォーマンス集団「水と油」のメンバー『じゅんじゅん』のソロ公演です。
「水と油」は、4人からなる公演ユニット。卓越した身体表現を基盤に、シンプルな衣装と小道具で独特の不思議世界を構築する表現者たちです。残念ながら昨年2月の『均衡』を最後に「水と油」としての活動は休止してしまったのですが、メンバーは地道に各自の活動をつづけています。
三鷹芸術文化センターでこの公演の置きチラシを発見し、しかもちょうど公演中だったので当日券で参戦しました。
実はわたくし、じゅんじゅんのソロは初めて拝見。作風がわからないので正直不安もあったのですが、行ってみればビンゴ! まさに私好みの素晴らしいパフォーマンスでした。
真っ黒な舞台。空中に浮かぶカップとソーサー。記号ともいえるほどシンプルなテーブルと椅子。
その舞台装置の中で、身体ひとつで時間と空間を操作してしまう様子には鳥肌が立ちました。
フィルムのように自在に変化する時間軸。重力方向の変化。2つの空間の併存。パラレルな世界。照明と身体だけで表現した鏡のこちらとむこう。そして越境。カメラオブスキュラを利用した、水底にたゆたうかのような異世界。
物理法則を歪め、ねじり、想像もつかない世界を提示する。
圧巻でした。
次回公演もぜひ行こうと心に誓いました。
不思議なものが好きな方にはおすすめです。

さて次は、三軒茶屋のキャロットタワーにある世田谷文化生活情報センター生活工房で開催されていた「活版再生展」。
これも三鷹芸術文化センターで掲示されていたチラシを見て知ったイベントです。
活版印刷の廃業が続く中、この技術を残してゆこうと考えた生活工房が、印刷職人さんたちの協力を得て行った企画展。印刷技術のなりたちから歴史、活版印刷技術の工程解説、実物機の展示、名刺サイズの印刷物ができるまでを記録した映像、活版で制作されたアート作品展示など、実に盛りだくさん。
展示されていたのは廃業した印刷屋さんの活版印刷機材。この展示が終わった後は、今回設立されたアーティストのための工房に無償で譲渡され、新たな活路を拓くのだそうです。まさに活版再生。
私は活版印刷で刷られた書籍が大好きなので足を運んだのですが、予想以上に充実した内容で驚きました。
会場では小さなブックレット型のパンフレットが売られていて、一冊買うとおまけで本物の活字がひとつついてきます。
2冊買うつもりが、活字欲しさに3冊買ってしまいました(笑)。
入っていた活字は9ポイントの明朝体「以」「匹」、6ポイントの明朝体「都」。
大切にしたいと思います。

ところで、昔から愛読していた書籍が復刊されたとき、同じ内容のはずなのにページの表情がまったく違って驚いたことがありました。現行の書籍は表面が平滑でのっぺりしています。いっぽうで旧版の書籍は文字が窪んでいて表面に凹凸があります。活版印刷で刷られているからです。これはまるで織物のような手触りです。
現行の印刷法で刷られた書籍たちは、どこかお行儀良くスマートな印象があります。ひっかかりがなく、そのぶん存在感が希薄であるような気がします。
対して活版印刷のページは物理的にでこぼこしていますから、そのぶん存在感があるような気がします。目で読むのと同時に指先でも味わうことができるとでもいいましょうか。
どんなに同じ書体を使おうとも、活版印刷で醸し出されていた独特の風合いと雰囲気は、現行の印刷方法では到底再現できないわけです。
ページ面のテクスチャの違いによって文字や文章の印象ががらりと変わってしまうこの現象を目の当たりにし、それがきっかけで私は自分が活版印刷そのものを愛していたことに気付きました。以来、活版印刷の虜です。7days のカードがむしょうに好きなのも、よく考えれば活版で刷られていたからだと思います。
活版印刷。ぜひ残していって欲しい技術です。


この後、銀座の月光荘に寄って画材を買い足し、そのまま帰途に。
22時ごろ帰宅。
なかなか密度の濃い東京遠征だったと思います。

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東京遠征5/19(電通大ラボ公開、G2プロデュース「ツグノフの森」)。

2007-05-20 09:36:10 | アートなど
昨日5月19日は、東京でイベントひとつと芝居を1本観て参りました。

まずは、調布の電気通信大学ラボ公開。
縁あって3つの研究室を拝見してきました。

・長谷川研
バーチャルリアリティ技術を扱っている研究室。
昨年のメディア芸術祭でも拝見したvirtual browneis-kobito- のバージョンアップ版が あったり、動きに視線を付与したインタラクティブシステムがあったり、パドルで水を掻く感じがかなりリアルなバーチャルカヌーがあったり、と、基礎となる知識がなくとも、観て体験するだけで非常に楽しめました。情報の送り手であるシステム側と受け手側である人間の反応との接点を重視したアプローチで新しいシステム開発を行っているように見受けられました。説明がなくとも直感的に使い方が理解できるシステム展示に、その特性が表れていたような気がします。

・山田研
近赤外線による非侵襲的解析技術を扱っている研究室。
生体、主に医療分野を想定した新しい測定法を開発しているとのこと。
放射線を利用したレントゲンやCT、水分子の核磁気共鳴を利用したMRI、超音波を利用した超音波診断など、医療分野には様々な画像診断技術がありますが、そのどれにも短所があるもの。
そこで、制御が難しいため利用が遅れていたという近赤外線を用い、一定面積における血流の定量的モニタリング等を可能にするような、今までになかった測定法を確立しようとしているとのこと。
血流の絶対量を非侵襲的にモニタできるようになれば、外科分野や脳機能解析での利用が期待できそうな気がします。測定深度があまり取れないため新生児救命の現場での利用を想定しているとのことでしたが、物理的大きさから考えると、あるいは小動物臨床の分野でも応用できるのではないかと、そんなことを考えてしまいました。

・本間・小池研
音響解析システムと生体解析、さらに、物性材料解析が結びついた技術を扱っている研究室。
聴覚器官のモデル化と聴こえ方再現、聴覚障害治療への応用、振動利用型人工内耳システムの開発、振動センサによる内耳の診断ツール開発、などを行っているとのこと。臨床に直結するような技術開発の現場を目の当たりにして非常に興味深く思えました。
他にも、ムラサキイガイ(ムールー貝。俗に言うカラスガイ。)の接着成分の強度測定であるとか、超微小振動の検出に着目した植物の健康状態把握、自動車部品の非破壊検査、石油タンクの腐食検査など、思いもよらない技術の提示にわくわくしてしまいました。

さて、ラボを回ってみて総じて感じたのが、学生さんたちのレベルの高さ。
どんな質問をぶつけてもそれなりの答えが返ってきますし、不明な部分はなぜ解らないのか込みで正直に説明し妙に取り繕ったりしないのが、自分の研究への理解と自負の高さをうかがわせました。そうなると、こっちも研究について対話するのが俄然楽しくなってきます。本来は院入試を考えている人対象のラボ公開なので、おとなしく説明を拝聴しているだけの見学者が多かった中、ばしばし質問を浴びせたので不審がられてしまったかもしれません。ここでひそかに謝っておきます。すみません。
さらに感じたのが、苦労話の中にこそその研究の真髄があるのだということ。
質問と対話を繰り返すうち出てくるエピソードは、その技術の内包する問題点や克服すべきポイントを如実に露呈させ、それが逆説的にその研究の重要性を裏付けているようで大変興味深かったです。
他にももっといろいろ見てみたかったのですが、時間が足りなくてあまり多くのラボを回れなかったのが残念でなりません。


さて次に、三鷹の三鷹芸術文化センターで上演中のG2プロデュース「ツグノフの森」18時公演。
片桐氏と久ヶ沢氏ご出演ということで足を運びましたが、福田転球氏が圧倒的に素晴らしかったです。
以下、感想。辛口です。
ネタバレになりますので畳んでおきます。
【概要】
天変地異後に突如出現した深い森。その奥に取り残された画家のアトリエを舞台に、昏睡した恋人の目覚めを待つ青年画家、創作依頼に来たヤクザ、埋めた死体を探して彷徨う姉弟、見えない獣を養う男、アトリエを監視する傭兵などが謎めいた人間模様を繰り広げる。

【感想】
私にしては珍しく、かなり厳しい評価です。
今回はお茶を濁さず評してみます。

G2氏は一体何をやりたかったのか、いまひとつ理解できませんでした。
内容は理解できるのですが、どこに狙いと焦点があるのかがわからない。
この世にない者だけが救われて、他は皆不愉快極まりない状況に追い込まれる。カタストロフも、それに代わる突き抜けた馬鹿馬鹿しさもなし。舞台の発想は面白いけれど、後味の悪さだけが残るようで、なんとも評価し難いです。
救いの無い話を書きたかったのか、家族の崩壊と再生を書きたかったのか、虚構に支えられた薄っぺらな現実を書きたかったのか、ステレオタイプSFを書きたかったのか、ドタバタ劇が書きたかったのか、超越した異界を書きたかったのか、人間ドラマを書きたかったのか、いまひとつ判然とせず、しかもそのどれもが半端で、物語のための道具に成り下がっていたように感じます。
この作品を私なりに形容するなら「迷惑極まりない家族に巻き込まれた人々のSF的な群像劇っぽいもの」。
分かりやすい話をわざと難解に仕立て上げているところにも好感が持てませんでした。
全体が解ってみれば身もフタもない話。
その身もフタもなさを『薄っぺらい』というキーワードで乱暴にそれらしく繕ってしまったのがいただけないなあと、わたくし個人的にはそう思いました。

いっぽうで、役者陣。もったいないくらいに良かったです。
とりわけ福田転球氏の迫真ぶりが、見ていて心を奪われました。
片桐氏も久ヶ沢氏も大好きですが、今作ではあまり論じる気になれない役柄です。ある意味当たり障りが無い。
しかし、転球氏。
ミズキとミナズキ。バークレイとの対話。
狂気と超越と異界を見事に体現していたと思います。
もしも転球氏の存在がなかったら、この興行は成立しなかったのではないかとすら思えます。
転球氏だけは文句無しで見る価値ありかと。

あまりおすすめとは言えませんが、この「ツグノフの森」は6月3日まで東京三鷹市の三鷹芸術文化センターで上演されています。
恐いもの見たさな方、そして福田転球氏の素晴らしい演技を見てみたい方はぜひ。


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