はざまの庵

分類し難い存在を愛でる覚え書き by aiwendil お気軽にコメントをどうぞ。

猫の毛色に潜む真実。

2006-10-23 20:10:59 | さもないこと
体色つながりでひとつ、カエルの件で思い出したので上げておきます。

10日ほど前、ペットクローンの販売業者が廃業したというニュースがありました。
アメリカのベンチャー企業が発案したこのビジネスは、クローン技術を使って、失った猫と同じ遺伝情報を持ついわば『分身』を提供しようというコンセプト。
ところが、クローン猫の生産自体は成功したものの『毛の模様が違う』としてクレームがつき、業として成立しなくなってしまったとのこと。
(詳細はasahi.comの該当記事→こちら を参照。)
この話を読んで、牛の胚分割クローンのことを思い出しました。
分割初期の胚は、細胞をいくつか取っても残りの細胞で正常に発育します。この現象を利用して、胚を2つ、あるいは4つに分割して人工的に双子や4つ児をつくり、優秀な牛の個体数を増やす試みが畜産業では研究されています。
4分割クローン子牛の写真を見せてもらったことがあるのですが、遺伝情報は同じはずなのに何故か毛の模様が微妙に異なっていました。
当時は不思議に思っていましたが、今ならばある程度納得がゆきます。
いわゆるエピジェネティックな機構が働いていたのだなと思うのです。
エピジェネティックとは、DNAや遺伝子に頼らない個体設計のしくみです。
少し前までは、DNAや遺伝子が生命の設計図のすべてだと考えられていました。しかし、それだけではどうしても説明のつかない現象がたくさんあり、最近では、遺伝子そのものではなく、遺伝子の発現を制御することによって間接的に個体発生に影響を及ぼすしくみがあることがわかってきています。具体的には短鎖RNAによる発現抑制機構などが挙げられていますが、その全貌については未だによくわかっていません。

今回の猫クローンの毛の模様の件は、まさしくこのエピジェネティックなしくみが猫の毛の模様を決定していることをうかがわせます。

近年のバイオ技術には目覚ましいものがあります。
しかし、それらも、既にある生体の部品に手を加えて加工・制御しているにすぎません。
いくらわかったつもりになっても、次から次へと謎は産まれてきます。
生命について『何もかもがすっかりわかる』ということなどあり得ないのではないかと、何も無いところから細胞ひとつ、生命ひとつ作ることもできないのが人間なのではないかと私には思えてなりません。
『わかろうとすること』は私自身にとっても止められない煩悩のようなものなので、次々と産まれる謎に対して次々と謎解きをしてゆくことは科学者にとって当然の衝動といえると思います。
ただ、サイエンティストの端くれとして、猫の毛色に潜む真実に思いを巡らせながらも、生命の持つ深遠さと科学の前に横たわる深淵については真摯に受け止めたいものだと思っています。


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