はざまの庵

分類し難い存在を愛でる覚え書き by aiwendil お気軽にコメントをどうぞ。

東京遠征3/3。(文化庁メディア芸術祭)

2007-03-03 23:28:47 | アートなど
本日3月3日は、恵比寿の東京都写真美術館で開催中の「文化庁メディア芸術祭10th」へ行って参りました。

この催しは、文化庁が主催する、いわば新しい芸術文化の祭典です。
いわゆるメディアアートだけでなく、映像やマンガやゲームなどを含む様々なメディア上の表現を総体的に『メディア芸術』と括り、広く参加作品を募集。その後の審査で、入賞あるいは最終審査に残った作品が展示されています。
入場無料でマンガ等の作品体験コーナーもあるとあって、土曜の今日はたいへんなにぎわいでした。
私は11時前ごろに到着、3Fのアート部門から順次下へ降りてゆく形で会場を回り、多くの作品を堪能しました。
残念ながら、今年は1Fホールの上映会イベント整理券が10時から一度に配布されたらしく、1Fイベントはひとつも見ることができませんでした。
遠方からの来場者にはちょっと厳しい。
昨年はふらりと寄ったら、たまたま色々やっていて、3つほどのプログラムを見ることができたのですが、今年はちょっと様子が違うようです。残念。

とにかく作品数が多すぎて(特に映像系)すべてを見ることはできませんでしたが、今日見た中でも特に印象深かったものをいくつか。
『アート部門』
木本圭子氏の「Imaginary Numbers」: 昨年8月の「ポスト・デジグラフィ展」で私の心臓を鷲掴みにした作品。(当時の感想記事は→こちら および→こちら)記憶のままの圧倒的美しさ。闇に浮かび流れる粒子たち。自然に潜むかたちと数理概念との交歓。やはり何度見てもくらくらきてしまいます。自宅で流れていたら延々見てしまいそうです。
リスーピア高野次郎氏の「素数ホッケー」: 理屈抜きに今回一番感動した作品。エアホッケーのようなテーブル上をカラフルな数字が流れてくる。その数字が素数なら打ち返さずに自分のゴールへ入れるとその数字の大きさがそのまま得点として加算される。素数以外の数字は打ち返してやると、最大公約数とその約数に因数分解されて数字が二つになり、ふたたび壁に当たって跳ね返ってくる。素数を間違って打ち返してしまうと、そのまま戻ってこず、得点の機会が失われる。素数以外の数をゴールへ入れてしまうと、その数の大きさが得点から減点されてしまう。因数分解された数字からは美しい音とともにカラフルな光の粒が広がり、約数も色を変えて軌跡を描く。ゴール時には軽やかなピアノの音が、減点時には低く重いピアノの音が鳴り響く。見ていてとても美しく、楽しい。
つまり、『遊びながら素数と素因数分解を覚えよう!』という教育ゲーム的作品なわけですが、それと同時に理数概念を美しく形にしているところ、そして見る人を惹き付ける楽しさにあふれているところ、それらが総体的な感動を与えているように感じられました。見ていて思わず微笑んでしまうような作品です。
個人プレイだけでなく2人での対戦もでき、小学生と大人が互角に戦っている様子が見られてたいへん面白く感じられました。子どもも大人も夢中になっていたのが微笑ましい。
こういうシステムは大好きなのですが、生憎わたくしゲーム音痴。実際にやってみたところ、動作が鈍いので数字の動きについてゆけず惨憺たる成績でした(笑)。(全般的に球技は苦手です。エアホッケーは勝てたためしがありません・・・。)
しかし、他のプレーヤーを見ていても面白いので、延々観戦して楽しみました。何度でも見たい作品です。
『アニメーション部門』
短編「レッツゴー番長 デッドオアアライブ 完全版」: 会場の一角で流れていて、思わず眼を奪われた作品。途中から見たわけなのですが、それでも十分楽しめました。モノクロで、鉛筆と墨しか使っていないのでは?と思わせる作画なのに加え、ひと昔前の劇画調で、内容もある意味ベタなのですが、ぱっと目を惹く不思議な魅力をたたえていたと思います。さらに、惹き付けた目をそのままグイグイと引っ張ってゆく構成力も抜群。台詞が全く無いにもかかわらず、ストーリーが余すところ無く伝わっていたのが印象的でした。言葉や色が無くても、シンプルな絵と音楽だけでこれほど豊かな表現ができるのだと知って少し衝撃を受けました。派手さや技巧だけに走らずとも十分素晴らしい作品ができることを、この短編は図らずも証明しているような気がします。全体を初めからもう一度じっくり見てみたい作品です。
『エンターテインメント部門』
辻川幸一郎氏「CORNELIUS "Fit Song"」: ミュージックビデオ。会場が騒がしくて音楽との同期を充分に体験できなかったのが残念でなりませんが、映像だけ見ていても非常にエキサイティングな要素にあふれていたかと思います。部屋の中で動き出すモノたちを、コマ撮りとCGを駆使して描き出す手腕には脱帽。何度も見たくなります。私にとっては、どことなく さわひらき的な香りも感じられた作品でした。

他にもいろいろとあったのですが、とりあえず4点のみ。
できれば明日もいろいろとリベンジを果たしたいです。


クラフト・エヴィング商會特集が雑誌に。

2007-03-01 22:56:38 | お知らせ
「やまだ眼」を探しに行って、書店で思わぬものを見つけました。
成美堂出版から刊行された「デザインワークス-いま注目の4人のクリエイター-」という雑誌。
これに、な、なんとクラフト・エヴィング商會が!
<iframe src="http://rcm-jp.amazon.co.jp/e/cm?t=hazamanoiori-22&o=9&p=8&l=as1&asins=4415103669&fc1=000000&IS2=1&lt1=_blank&lc1=0000FF&bc1=000000&bg1=FFFFFF&f=ifr" style="width:120px;height:240px;" scrolling="no" marginwidth="0" marginheight="0" frameborder="0"></iframe>

4人のクリエイターのうちのひとり(本当は二人なんですが)として、『すべてはテーブルの上で』と題し、20ページもの紙面を割いて吉田篤弘・吉田浩美両氏の仕事が大々的に紹介されています。
総体としての本、物体としての書籍を一からぜんぶ作る、というクラフト・エヴィング商會ならではの方法論を、制作手順と豊富な写真とともにインタビュー形式で掲載。
概ね『太陽レクチャーブック グラフィックデザイナーの仕事』(平凡社)と同様の内容ではありますが、アナログ写植や紙にこだわるスタンスがより強調される形となっているのが印象的。
ちなみに、他には佐藤可士和氏、祖父江慎氏、坂崎千春氏が取り上げられ、巻末には『実例で見るデザインのテクニック』という特集が組まれています。
雑誌自体は、途中のページから突然フォントが変わってしまう(指定ミス?これってデザイン指南雑誌として致命的では?)という不思議な体裁だったり、いまひとつまとまりには欠ける感があるものの、まあ、これはご愛嬌でしょうか。
メディア露出の少ない商會のこと、この特集は貴重かと。
『クラフト・エヴィング商會が大好きだ~!』という方や小細工好きにはおすすめです。

ところで、今回の商會特集を見ていてふと気付いたのが、自分の嗜好性について。
私はどうやら、『ゼロから考えてイチからぜんぶ自分でモノを作る』というスタンスの表現者が好きらしいです。
様々なことに思い当たって妙に納得してしまいました(笑)。


「やまだ眼」。

2007-03-01 22:04:20 | ことば
山田一成氏と佐藤雅彦氏の共著「やまだ眼」を購入しました。
これは、毎日新聞の夕刊に連載されていた同名コラムを書籍化したもの。
山田氏が書き留めた短い言葉に佐藤氏が解説を加える、という至ってシンプルな体裁の本です。
字数的にはそれほどのボリュームはありません。
しかしながら、これが、深い。
短い山田氏の言葉からは、立体的な奥行きを持った鋭い視線の存在がひしひしと伝わってきます。
思わず笑ってしまう風景を切り取った言葉の数々は、穏やかだけれど鋭利で、どこか切なく、そして優しい。
ただの『笑いの手段』としての言葉に堕した笑いとは対極にある『言葉=笑い』だと思えます。
また、世には都市の理論に立脚した笑いが多いように感じられる中、山田氏の醸し出す笑いはどこか都市性とは遊離しているような印象も受け、それはつまり、山田氏が図らずも人間社会の普遍を描いているからではないか、とさえ思えます。
山田一成氏。すごい人物です。
そんな山田氏の言葉たちが、いわゆるお笑いネタ本ではなく新聞&書籍という媒体で世に提示された意義は大きいのではないでしょうか。

佐藤氏によるまえがきの中で語られる「やまだ眼」誕生の経緯。
そして、山田氏によるあとがきの中で語られる「やまだ眼」誕生の経緯。
立体的に立ち現れる二人の関係性。
互いが互いを『見出した』様子が互いの目線から真摯に綴られるさまに、読んでいて何とも言えずあたたかな気分になりました。

日常に潜むエアポケット的視点の数々。
佐藤氏の解説も秀逸。
おすすめです。

ちなみに奥付を見ると、この本はどうやら2月25日発行だった模様です。
私が行った書店では、ビジネス書コーナーに平積みされておりました(笑)。
毎日新聞社刊だからでしょうか。
いずれにせよ分類し難い書籍と思われます。

ところで書籍実物を見るまで私はこの書名を「やまだめ」だと思っていました。
正解は「やまだがん」。
なるほど、鑑識眼と同列の山田眼、ということなのでしょうか。
高1にして「臨場感」が「りんばかん」ではなく「りんじょうかん」であると知った時に似た軽いショックです(笑)。
<iframe src="http://rcm-jp.amazon.co.jp/e/cm?t=hazamanoiori-22&o=9&p=8&l=as1&asins=4620317942&fc1=000000&IS2=1&lt1=_blank&lc1=0000FF&bc1=000000&bg1=FFFFFF&f=ifr" style="width:120px;height:240px;" scrolling="no" marginwidth="0" marginheight="0" frameborder="0"></iframe>