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Ⅱ.利権化した地震予知 :231109情報
(昨日からの続きです。地球物理学者でエッセイストの島村英紀の『利権化した「地震予知」 国策がむしろ地震・波被害を広げる』を取り上げています。)
地震は破壊現象の一つであり、物理学でも工学でも、破壊現象の解明 は現象が非線形であるがゆえに、非常に難しい。破壊現象の解明や予測 (地震で言えば地震予知)の成功例 は、どの学問分野でもない。役立たずの緊急地震速報 地震予知が思ったよりも進まないことに業を煮やしたか、政府は 2007年から緊急地震速報を始めた。
気象庁が速報を出している。誤解している人も多いだろうが、これは地震予知ではない。
この速報の原理は単純なものだ。 全国に置いてある地震計のどこかで 強い揺れを感じたら、震源を計算し、まだ揺れが届いていない場所に警報 を送るという仕組みだ。
この仕組みには根本的な弱点がある。直下型地震には対応しにくい仕組みになっていることだ。直下型地震では震源は真下にあり、いちばん 近い地震計が地上にあるために、肝 心の震源近くの揺れが強いところで は緊急地震速報が間に合わない。
そもそも緊急地震速報の最大の問題は、警報が間に合ったとしても、 警報を聞いてから地震が来るまでにほとんど時間がないことだ。恐れられている南海トラフ地震が起きたときに、横浜で10秒ほど、東京でも10数秒しかない。しかも遠くなるほど 揺れも小さくなるから、20秒以上に なるところで知らせてくれても、警報の意味はあまりない。
この時間では、走っている新幹線 が完全に停止することはできまい。工場でも大きな機械をこれほど短時間で止めることは不可能だ。今まさに手術が行われている病院で、手術 中断に間に合う時間でもない。
海溝型地震でも多くの場合、最も震源に近い海岸近くの地震計で揺れ を感じてから計算を始める。つまり、いちばん揺れが大きくて危険な地域 には、この緊急地震速報は間に合わないのである。
根拠ゼロ、問題ばかりの大震法
物理分野の予測は、定量的な法則 があって初めてできるはずである。 しかし述べてきたように、日本では、理念も結果に対する評価もはっきりしないまま、国策としての地震予知 計画が今まで動いてきた。
法則はなくてもよい、あるいは後からの解明でもよいが、とにかく前兆をキヤツチできるなら地震予知が できる、またそうしてでも被害を少なくしたいという意識がないまぜになっていたというべきであろう。
日本政府の説明では、一般的には地震予知は実用段階ではないが、東海地震(南海卜ラフ地震の一部)だけは予知が可能だということになっている。かくて「大震法」(大 規模地震対策特別措置法)が 作られた。阪神淡路大震災や東日本大震災以後もこの説明は変わっていない。これは地 震学者にとってかなり不思議なことだ。東海地震だけが他の地震と違う起こり方をしたり、東海地震だけに特別の前兆が出ることは、学問的には考えられないからだ。
東海地震だけは予知できるという前提で大震法という法律が作られ、この法律に基づいて地震予知警報が 出されることになっている。
東海地震では、警報の発令時には新幹線も 東名高速道路も工業活動も止めることになっている。運賃収入だけで1 日何十億円、経済損失全体では1日 数千億円もあると試算されている。
ところが東海地震の場合には、仮 に警報を発令したとしても、警報の解除基準は決まっていない。どういう観測データが何を示せば、「地震 は来ない、警報は解除する」ことになるかの基準が決まっているわけではない。
はたして何日間、警戒宣言を出したままにできるのだろうか。 また学校や工場をどうするのかなどの社会的な影響も大きい。
いつ起きても不思議ではないと言われてから、東海地震が起きないまま半世紀が経った。過去には、もう 一つ西隣の紀伊半島東南方の地震や、さらに西隣の四国沖の地震と一緒に、 南海トラフ地震として起きている ケースが多く、東海地震が単独で起 きた例はむしろ少ない。
展望なしに突き進む 国家フロジェクト
地震予知計画は1965年に立ち上がり、2023年現在、半世紀を 超えて58年目に突入した。5年ごと の計画であるこの地震予知計画は、 1998年に第7次まで行ったあと、「地震予知のための新たな観測研究計画」と名前を変えて第2次まで経過し、今は地震予知「研究」計画か ら地震予知「業務」計画へと格上げ になった。
しかし内実は、「研究」段階が終 わったから「実用」段階に入ったというわけでは決してない。「研究」の名前を外せば予算が増える、とい 大物政治家の入れ知恵があったか ら名前を変更したのだと言われてい る。
1995年の阪神淡路大震災以後も、「地震予知」という看板こそ下ろされたが、研究機関も研究者も研究内容も、実質的に継続されている。 阪神淡路大震災以後、廃止になった官庁や研究所の部局はないし、地震研究の予算も阪神淡路大震災以前より増え、さらに東日本大震災で増え た。
地震予知研究の発足以来、すでに 1兆円近い国費と数百人の公務員 (大学教官・研究職公務員・技官・事務官)の増員があったと言われている。しかも日本の予知研究は大学だけではなくて、気象庁、国土地理 院、旧工業技術院地質調査所、旧科学技術庁の研究所を含めて、宇宙開発なみの国家プロジェクト(巨大科 学)として運営されてきている。
しかし前述したように、プロジェクトが成功するためには、科学 や工学がすでに持っている理論や技術のきち んとした裏付けが必要なはずだ。
日本の地震予知計画では、地震現象についての基礎的な 物理がほとんど解明されず、つまり地震予知実現する確固とした 見通しなしに国家プロジェクトに仕立てられたというところが、決定的に違う。役人の保身、既得権や利権、既得予算の死守、そして役所は決して 間違えない、という無謬主義のためであろう。
阪神淡路大震災以後、ほかの委員 会の廃止もしないままに新たに作られた地震調査委員会は、唯一の政府 の公的機関であることを謳い、官僚 主導型の委員会になった。
この委員 会では政府の意向に沿った審議が行 われている。この委員会は、政府に都合が悪いことは言わず、研究として何がまだ分かっていないかも明らかにしないまま、走り出した。 たとえば「きめ細かい震度予測」と「活断層調査」を看板に掲げているが、そのどちらも実現には重大な 困難がある。
その問題点を委員会が 明らかにしたことはない。国策としての地震研究は、大きな問題を孕んだままだ。
(了)
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