-表象の森- 親鸞の書
石川九楊編「書の宇宙-№16-知識の書・鎌倉仏教者」二玄社刊より
親鸞の正像末和讃は、整った文字でも、また端正に書かれた文字でもないが、細身の書線と字姿の陰に勁-つよ-い言葉の存在感があり、目の覚めるような鮮やかさがある。
横画や右ハライにいくぶん和様の匂いがあるが、反りと撓みをもつ強靱な横画、切り込むがごとき鋭い左ハライ、また大きくふりまわす左ハライの筆触は、厳しく勁い。
細いことは弱いことに結びつきやすいものだが、ここでは逆に、細いけれども勁いという、逆転が生じている。それは、筆尖と紙-対象-との接触点-面-とは別に、作者でも対象でもなく、その両者を生む筆毫の「当たり」が存在するからである。その当たりは、作者と対象の間に挟入された「言葉」の比喩。たしかな言葉が、書に姿を変えて表現されている、と。
五濁悪世ノ衆生ノ
選釋本願信ズレバ
不可稍不可説不可思議ノ
功徳ハ信者ノミニミテリ
像末法五濁ノヨトナリテ
釋迦ノ遺教カクレシム
弥陀ノ悲願ハヒロマリテ
念佛往生トケヤスケレ
―山頭火の一句― 行乞記再び -11-
1月2日、時雨、行程6里、糸田、緑平居。
今日は逢へる-このよろこびが私の身心を軽くする、天道町-おもしろい地名だ-を行乞し、飯塚を横ぎり、鳥尾峠を越えて、3時にはもう、冬木の坂の上の玄関に草鞋をぬいだ。
この地方は旧暦で正月をする、ところどころに注連が張つてあつて国旗がひらひらするぐらゐ、しかし緑平居における私はすつかりお正月気分だ。
自戒三則-
一、腹を立てないこと
二、嘘をいはないこと
三、物を無駄にしないこと-酒を粗末にするなかれ!-
今日は、午前は冬、午後は春だつた。
※表題句は、日記途中に記す
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