あまねのにっきずぶろぐ

1981年生
愛と悪 第九十九章からWes(Westley Allan Dodd)の物語へ

快楽に依りて、死す者たち。

2018-09-19 17:00:50 | 随筆(小説)

『価値観を押し付けるな』という言葉をよく聞きます。

でもその時に、何故、相手がそのようなことを押し付けてくるのかを考え、想像する必要があります。

例えば拷問を受けている民族が、『わたしたちを拷問にかけるのをやめてください』と訴えるのはこれは価値観の押し付けになるでしょうか。

『もうこれ以上、わたしたちの民族(兄弟)を殺すのをやめてください』と訴える人たちに対して、彼らの民族を殺し続けている人たちが『価値観を押し付けるな』と言っていたらどうでしょうか。

その民族は必死に訴え続けます。
わたしたち民族を拷問にかけ、虐待し、最後に殺すのはあんまりではないですか。
あなたたちはそのようなことをしなくとも、生きていけるのです。
世界を見渡してください。
あなた方のように殺し続けなくても生きている人たちはたくさんいます。
わたしたち民族を殺し続けることは、あなたたちにとってどのような益になりますか。その益は、わたしたち民族を殺さないことよりもあなたたちにとって素晴らしいことですか。

しかし民族を殺し続けている者たちは言います。


そんなことは知ったこっちゃない。価値観を押し付けるな。俺たちはおまえたちを虐待などしていない。おまえたちが勝手に苦しんでいるに過ぎない。俺たちは虐待が目的ではない。いや、そもそも、おまえたちよりも俺たちの方が上の立場なんだ。おまえたちを利用して、好きに扱い、殺して何が悪い?悪いがおまえたちの苦しみは、俺たちには届かない。おまえたちと俺たちは、違う人種なんだ。俺たちに偉そうな口を叩くな。豚ども。おまえたちだって、地の上を歩く度、無数の虫たちを踏み殺してきたではないか。俺たちの遣ってることと、おまえたちの遣ってることの一体なにが違う?何も違わないさ。蟻んこたちだって、おまえらに訴えるだろう。わたしたちをどうか踏み殺さないでくださいってな。はははっ。笑える話だ。おまえらは彼らの訴えを無視しているではないか。虫だけに。笑止千万だ。俺たちは、おまえたち民族を殺すことをやめないよ。おまえたちが、どれほど助けを乞うて泣き叫ぼうとな。喚け。叫べ。俺たちは、おまえたちを殺すことが快楽なんだ。生きるために、必要な快楽なのさ。確かにおまえたちを殺さずとも、俺たちは、生きていけるのかも知れねえなあ。遣ったことがないんでね。俺たちは子供の頃から、おまえたちを殺すことが当たり前だったから。おまえたちを殺さずに生きていけるのか、わからねえのよ。おまえたちはそれを遣れと言うが、俺たちの言い分はこうだ。俺たちは"快楽"を奪われたくはない。おまえたちの快楽とは何だ。食欲、肉欲、物欲。酒と煙草と薬。殺戮。ほらあの国、あの国の人間たちはなんでも牛や豚や鶏なんかを好きなように扱って、それで殺して喰ってるというではないか。人間とはな、野蛮な生き物なんだよ。あいつらと俺たち、変わらないさ。動物を殺そうが他の民族を殺そうが、同じだ。何が違う?生きるために、殺してるなどと嘯く奴がいたら、俺はそいつの首を切り裂いて言ってやろう。そうだ、生きるために、俺はおまえを殺してやる。どうだ、同じ理由で、殺されて行く気分は。つまりこういうことさ。おまえにとっても、俺にとっても、生きる=快楽。快楽を喪うなら、俺たちは腑抜けのようになって生きて行くということだ。くだらない、豚野郎だ。おまえらを殺しても、俺はなんとも想わねえよ。おまえらが、俺と、同じ種族でも。