あまねのにっきずぶろぐ

1981年生42歳引き篭り独身女物書き
愛と悪 第九十九章からWes(Westley Allan Dodd)の物語へ

女は戸を叩く

2018-04-10 12:25:47 | 物語(小説)
ついに、あたちは決めた。
あたちは、カトリック教会に入り、イエスさまに近づくクリスチャンとなるために、日々、精進することを!
早速、あたちは重い足腰を引き摺りながら、近所のプロテスタント教会の前に立ち、その戸を開けた。
「あの~、あ、あの~!す、すんませぇ~ん。だれか、だれか、いはりまへんかぁ~?」
とあたちは、蚊の鳴くような声で祭壇の奥の方を呼ばわった。
時間は、夜の、十字。
開くの、十時やんなぁ?と言ってみたが、その瞬間、しまったあ!とあたちは心の中で叫んだ。
どうしたことか、午前の十時と、午後の十時を、間違(まちご)うてしもたことに、今更ながら、気づいてしまったでやんす。
しかし、其のときであった。
祭壇の向こうから黒のカーテンが揺れ、なんと、エドワード・スノーデン似の、目映き男枚な白人男性が、黒の裾の長い神父さんが着てるみたいな服を纏って、現れたではないか。
勿論、その胸には、ちいさきイエスさまが十字架に張り付けられたまま、動かなかった。
首から、イエスさまが、ぶら下げられておった。
あたちは、感激の余り、涙が流れそうになり、ときめきのなか、その麗しき白人男性の目を見つめた。
すると白人男性は、世にも美しき微笑で、あたちに微笑み、流暢だけれども、節々にちょっと笑いたくなる発音の日本語で、こう言葉を放った。
「今晩は。今夜はとても良い御天気で、月が美しく見えますね。誰かが来る予感が、ちょっとだけしていたので、月を眺めながら待っていました。貴女は今日から、此処に入るつもりで、来ましたか?」
あたちは鼻で笑いながら、こう言った。
「あなたは神父さまですね?あたちは今日から、此処で学びたいから、遣ってきたんです。此処に、入ることはできますか?」
神父さまは、にこやかに頷くと、こう言い放った。
「勿論ですとも。貴女が入るために、戸の鍵を開けておきました。貴女は今日から、洗礼を受けてイエスさまと共に生きてゆくクリスチャンとなるために、わたしと一緒に聖書のお勉強に、励みましょう。」
あたちは、へらへらと笑って、「はい!」と頷いた。
祭壇の前に神父さまは立ち、「では今から、早速、イエスさまへわたしたちの素晴らしい出会いに感謝するため、一緒にお祈りをしましょう。わたしがアーメン。と言ったあとに、あなたもアーメン。と言ってください。」
「はい。」
神父さまは目を瞑り、手を胸の前に組んでお祈りしだしました。
「天におられますわれわれの愛するみ父。今日、またひとりの弱き子羊が、あなたの神殿に切に救いを求め、迷い混んできたことを共に祝福してください。あなたのお導きによって、すべての幼い子羊たちに必ずや救いがもたらされるように。アーメン。」
「アーメン。」
心は澄んで、なにごとの、迷いなき時が、此処にありました。
同時に目を開け、女は神父と目が合った。
そこには、迸る欲情の渦を見てとった。
情熱の愛は、青々とした生い茂る初夏の葉のように、邪悪であった。
何者も死と化す、牢獄のエデンに逃げた子山羊。
錆び付き、黒き血を流し続ける処刑とあがないの剣。
盲目の色彩のなか、永遠の裸を約束すゴモラとソドムの夫婦漫才。
もっと生きていたかった。もっと死んでいたかった。二人の願いが交差する時、尻が割れ、そこからすべての滅びが始まった。
十字路は真っぷたつに引き裂かれ、┳字路に立たされて。
一方は、滅びへと至る道、一方は、救いへと至る道、しかしどちらがどちらであるか、神のみぞ知る。
女は神父の底のない欲望のなかに、飲み込まれた。
神父の目は、ギラギラしていてガツガツしていて、いと、静穏に清んでいた。
女は胸に誓った。
「絶対に、あたちは、この神父さまと結婚する。」
今日から、女の弄らしきクリスチャン(真の婚活)への戦いの道が、開かれた。


















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