陽のあたるベンチで

 植物園の紅葉はいまが見頃で、黄色や濃い赤のグラデーションが、朝の光を透かしてきらきら輝いていた。
 また、ミケちゃんに会いにきた。いいお天気で、紅葉の向こうには雲のない青空が広がって、風もなく暖かい。
 植物園の中心にある芝生の広場に行って、お昼のパンを食べていたら、向こうの売店からエプロン姿のおばさんが飛び出してきて、なにかを追い回すのが見えた。猫らしかった。植木の下にぱっと逃げ込んだので、そのときはよく見えなかったけれど、おばさんが店の中に戻ってしばらくすると、にゃーん、にゃーんと鳴きながら歩くミケちゃんの姿が植木のあいだに見えた。
 売店の客から、食べ物をもらうことを覚えたようである。おばさんに追いかけられようとも、懲りずにまたにゃーにゃー鳴いて出てくるとは、ミケちゃんもだいぶたくましくなったらしい。
 近くに行ってミケちゃんと呼ぶと、すりすりと寄ってきた。二週間前に来たときには、まだあまり人に慣れていなかったのに、驚くような変わりようである。食べ物をもらうための処世術を身につけたのだろう。背中をなでたら、まだじゅうぶんではないけれど、手のひらに背骨がこつこつと当たった前回に比べると、肉付きがよくなっている。
 だけどやっぱりお腹はすかしていて、キャットフードを出したら、まったく余裕がなくなって、手でかき込むようにがつがつと大量に食べた。ようやくお腹がいっぱいになると、日の当たる暖かいベンチの上に寝そべってみたり、膝の上に登ってきて、ごろごろと喉を鳴らし、両方の前足を交互に爪を出してにぎにぎしたりした。
帰りにもう一度、ミケちゃんのベンチに寄ってみたら、午後の陽の中で読書をするおじさんの膝の上に上半身を乗せて、喉を撫でてもらっていた。
 これから寒い季節だから、楽観は出来ないかもしれないけれど、処世術を身につけたミケちゃんは、器量もいいから、植物園の人気者になれるかもしれない。そうすると、今日姿を見なかったサビちゃんは、人懐っこいけれど見た目はあまりよくないから、サビちゃんの方をより心配すべきかもしれない。
コメント ( 9 ) | Trackback ( 0 )