子猫通信

 ハルの目は、家に来た当初よりはだいぶよくなって、ぱっちりと大きく開くようになった。それでもまだ少し目やにが出るし、鼻水も出て、いつも顔が汚れている。これらの症状がなくなるまでは、念のためにキキとは部屋を別にしている。
 最初はすぐにうずくまるので、デビンちゃんのように大人しい猫かと思っていたら、段々元気になってきた。ピンポン玉を転がしてやると、追いかけていって、自分でさらに転がしては、玉と一緒になって走っている。仕舞いにピンポン玉をテレビ台の下に入れてしまい、手を突っ込んでちょいちょいと探ってみるけれど、短い手が届くはずもなくて、結局父に取ってもらう。
 毛並みも少しはよくなったが、キキのビロードのように滑らかな毛やしなやかな身体に比べたら、ばさばさして、骨ばっていて、弱々しい。子どもが拾ってきた蝉の抜け殻を必死で食べようとするところなどを見ると、家に来る前には虫や小動物を取って生きていたのかもしれず、そのときの苦労がまだ身についたままのようである。一度ちゃめに会わせたら、まっすぐにちゃめのところへ走って行ったので、ハルのお母さんはちゃめのようなトラ猫なのかもしれない。そのあと、母猫を探すようににゃあにゃあとしばらく鳴き続けて、まだまだお母さんと一緒に居たいいたいけな子猫のうちに、一人ぼっちにされたハルが可哀想でならなかった。(ちなみに、ちゃめはハルに走り寄られて、面食らったような迷惑そうな顔をした。)
 そんなハルに比べて、キキは健康そのものである。キキの部屋に入ると、ごろごろのどを鳴らして迎えてくれた。手近におもちゃがなかったので、人差し指と中指をとことこ動かして床の上を這わせたら、すぐに狙いを定めて、机の陰から飛んできた。私の手首に、両手で抱きつくようにして体当たりしてくる。その重量感が、元気の塊みたいで心地いい。そのまま仰向けにひっくり返るのでおなかをくすぐったらその手にじゃれるのだが、肉球が、吸いつくようににねちねちしていて、やわらかくて可愛らしい。噛む力を加減して、爪も出さない。これがハルだったら、結構きつく噛まれてしまうし、細い爪にも引っ掛けられる。切羽詰った放浪時代の名残で、まだ余裕がないのかもしれない。
 楽しくて、いつまでも遊んでいたいけれどそうもいかないので、またね、バイバイ、というと、それ以上は追いかけてこなくて、ちょこんと座って、私が部屋から出て行くのを見ている。そういうところが、聞き分けがよくて賢いと、父と母が絶賛する。部屋に一人で居るときも、跳ね回っているらしく、よくベッドカバーがくしゃくしゃになって床に落ちている。
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