京都・大原の春


 朝、大原の里の駅へ野菜を買いに行ってきた。市内ではもう桜は見頃が過ぎて、散りかけているのが多いけれど、山里は今が満開である。比叡山の山麓や中腹にも、深緑色の杉や新芽を吹きはじめた雑木に混じって、ところどころに山の桜が薄ピンク色の雲のように花を咲かせていた。
 開店時間の9時少し前に着いたので、敷地の一角にある狭い芝生のベンチに座って、店が開くのを待った。周りには、菜の花やキャベツが植えられた畑が広がっていて、ぽかぽかした空気は春の匂いがするようだった。空は広くて春らしい薄青色をしていた。空の高いところから、ピーチチピーチチと絶え間なく鳴くひばりの声が聞こえてきたが、どんなに目を凝らしてみても、青い空の中に小鳥の姿を見ることは出来なかった。ひばりの声を聞くたびに、私は子供の頃好きだった絵本「天の笛」を思い出す。
 同じように開店を待って隣のベンチに座っていたおばさんが店の方向を眺め、「もう開けてくれたみたいよ」と立ち上がりながら私に教えてくれたので、私もひばりの声を聞きながらそちらへ向かった。
 一歩店に入った途端、今度はもっと近い頭上から、チチチチと鳥の鳴く声が聞こえてきたので、さっきまで遠くのひばりの声を聞いていた私の頭は一瞬混乱したが、上を見ると、二羽のツバメが梁のあいだを飛び交いながら鳴いているのだった。
 売り場には、菜の花や、市内のスーパーでは見たことのない小松菜の花や白菜の花、さやえんどう、露地物のいちご、つくしやそのほかの山菜など、春らしい野菜が並んでいて、わくわくしながら買い物をした。
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