杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

剣岳 点の記

2009年06月24日 | 映画(劇場鑑賞・新作、試写会)
2009年6月20日公開

陸軍陸地測量部の柴崎芳太郎(浅野忠信)は、日本地図最後の空白地点を埋めるため、「陸軍の威信にかけて剣岳の初登頂と測量を果たせ」と厳命を受ける。妻(宮崎あおい)の励ましを背に、前任・古田(役所公司)に紹介された案内人の宇治長次郎(香川照之)と下調べに入るが、登頂への手掛かりすら掴めず下山する。翌明治40年、測夫・生田信(松田龍平)らを加えた総勢7人で雄山、奥大日岳、別山など周辺の山々に三角点を設置しながら遂に剣岳に挑んだ。同じ頃、日本山岳会の小島烏水(仲村トオル)らも最新の登山道具を揃え、剣岳山頂を目指していた。

原作は新田次郎の同名小説。
古来、その険しさと宗教上の理由から「針の山」「死の山」と云われてきた前人未踏の剣岳に挑んだ男たちの記録映画です。点の記とは、三角点設定の記録です。

100年前の装備やルートを忠実に再現しての撮影は役者・製作者ともどもに過酷なものとなったようですが、カメラマン出身の木村大作監督の作品だけあって、四季折々のため息の出るような美しく厳しい自然はまさにスクリーンで観るのが相応しい逸品です。

柴崎が出会う行者(夏八木勲)の言葉「雪を背負って登り、雪を背負って降りよ」が登頂の重要なヒントになりますが、何よりも名誉や利益ではなく、仕事に誇りをもって山に挑んだ男たちの心根の美しさが際立つ物語にもなっています。

対比として、軍の面目や利ばかりを気にする陸軍幹部連中と。勝ち負けに拘る地元新聞記者の卑しい品性が目を引きました。
山岳会のメンバーとの反目もやがて互いを認めその健闘を称え合う清々しいものに変っていくのも良かったです。当時の最新の登山用品はヨーロッパ製なのね☆富裕層出身である山岳会のメンバー、とりわけ烏水の登山服のエレガントさに口あんぐりでしたが。

紅一点のあおいちゃんがまた可愛いの~~♪
監督がデレデレになる気持ちがわかる気がしました。

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愛を読むひと  ネタバレあり

2009年06月24日 | 映画(劇場鑑賞・新作、試写会)
2009年6月19日公開 アメリカ=ドイツ 124分

1958年、大戦後のドイツ。15歳のマイケル(デヴィッド・クロス、長じてはレイフ・ファインズ)は21歳年上のハンナ(ケイト・ウインスレット)と恋に落ちた。ハンナに請われるままに始めた本の朗読は2人の時間をいっそう濃密なものにしたが、ある日突然ハンナは姿を消してしまう。8年後、法学生となったマイケルは傍聴した裁判で、戦時中の罪に問われる被告席のハンナを見て驚く。彼女はある秘密を守るために不当な証言を受け入れ無期懲役となる。彼女の秘密を知るマイケルは苦悩しながらある選択をする。

原作はベルンハルト・シュリンク「朗読者」。


15歳の少年を誘惑する年上の女性という設定がまず自分の常識外の出来事ではあるのですが・・(^^;ケイトの脱ぎっぷりはあっぱれなほど無造作で自然で、扇情的なところがないのは好ましかったです。

ハンナが隠している秘密は本の朗読や二人だけの旅行中のメニューのやり取りなどから察することは出来るのだけど、そのことを彼女がどれほどに恥と思っているかは裁判においての彼女の選択ではっきり観客にわかるようにもなっています。

また、ハンナの犯した過ちを責めるのはたやすいけれど、でもその罪は罪として、彼女は与えられた職務を忠実に果たしたに過ぎないとも言えます。

理知的で厳格・几帳面な性格だったからこそハンナは自分が文盲であることを非常に恥じて隠そうとしてきたのです。もしかしたら、自分の罪に対してもその行動自体に後悔はなくても、感情としては深く苦しんでいたからこそ、敢えて自らを罰したのかもしれないな~と後の「お茶の缶」のエピを見て感じました。

逆にマイケルの方にはかなり物足りなさが残りました。
年下の少年に過ぎなかった頃ならともかく、法科の学生として彼女の秘密が求刑を左右することを知りつつ沈黙を守ったのは、本当に彼女のためになったのかしら?彼にもっと包容力や財力や愛があれば、真実を世間に知られて傷ついたとしても、ハンナのその先の未来を守ってあげられたのではないかと・・・。
面会を申し込みながらも引き返してしまった彼の心がよくわからなかったです。

その後マイケルはハンナの朗読者となって刑に服している彼女の下へカセットを送り続けます。そのカセットを使ってハンナは文字を覚えることを思い立ち、簡単な手紙を書けるまでになるのです。

それでいて、二人の関係はもどかしいくらいに交わることがなく、ハンナの出所が決まった時にようやく面会をしますが、ハンナには決心していた想いがあり、それは悲劇の形で実現してしまうのでした。

ハンナが犯した罪はホロコーストに関わったものですが、映画はそれを追求するのが目的ではないようです。彼女の死後、その「罪」の事件の生き残りのユダヤ人女性とマイケルの対話シーンがあるのですが、その中で語られる内容が重く心に残りました。

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