杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

ミッドナイトスワン

2021年10月24日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)

2020年9月25日公開 124分 G

故郷を離れ、新宿のニューハーフショークラブのステージに立つ、トランスジェンダーの凪沙(草彅剛)。ある日、凪沙は養育費目当てで、少女・一果(服部樹咲)を預かることになる。常に社会の片隅に追いやられてきた凪沙、実の親(水川あさみ)の育児放棄によって孤独の中で生きてきた一果。そんな2人にかつてなかった感情が芽生え始める(映画.comより)

 

トランスジェンダーの主人公と親の愛情を知らない少女の擬似親子的な愛の姿を描いた、内田英治監督オリジナル脚本によるドラマです。第44回日本アカデミー賞最優秀作品賞受賞、ツヨポンも最優秀主演男優賞を受賞しています。

凪沙は男性として生まれたけれど、性別違和のため、女性の姿で暮らしています。親にはカミングアウトできずにいて、親からの電話には男として話していました。姉の娘で中学生の一果は叔父の筈の凪沙の姿を見て戸惑い、そんな一果を邪険に扱う凪沙。うまくいくんかい?と思ってしまいますね。

一果の母の早織は、水商売で娘を養っていましたが、生活は乱れていて部屋は散らかり、苛々を娘にぶつける毎日で、一果は自傷行為を繰り返すようになっていて、心配した祖母である母親が凪沙に面倒を見るよう依頼した経緯があります。当初は周囲に心を閉ざしていた一果ですが、凪沙のチュチュ(ショーの衣装)に興味を示します。(彼女は広島でバレエを習っていたようです)

近所のバレエ教室を覗き見して先生(真飛聖)から声を掛けられ教室体験した際、一果に古いバレエシューズをくれたりん(上野鈴華)が、後日同じ中学とわかり友人になります。(彼女には裕福な両親がいて、プリマを目指していますが、父親は浮気をしていて家庭は円満とは言えないようです。境遇の異なる二人が惹かれ合ったのは互いの孤独を感じ共有していたからかも)教室の月謝を工面するため、りんに誘われ違法バイトをしますが、客とトラブルを起こして凪沙にバイトやバレエ教室のことがバレてしまいます。りんの母親に家族を中傷され自傷に走る一果を気遣って店に一緒に連れていった凪沙は、そこで一果のバレエダンサーとしての才能を目の当たりにして「バレエを続けさせてやりたい」と思うようになります。次第に一果が実の娘のように思えてくる一方、一果も凪沙の理解者になっていくんですね。性転換手術のための貯金をバレエ教室の費用として切り崩し、「一果の“母親”になりたい」という思いからタイで性転換手術を受けて「“娘”の一果を引き取る」ために実家を訪れますが、実母や早織から心ない言葉をぶつけられ拒絶されて一果とも引き離されてしまいます。

やがて、中学を卒業した一果(早織にそれまでは会わない約束をさせられていたようです)は凪沙と再会しますが、彼女は心身共に衰弱しきっていました。一果から引き離されて生きる希望を失った凪沙は、手術後のアフターケアを疎かにしていて後遺症が出ていたのです。その結果、介護オムツが必要なほどに体は衰弱し、飼っていた水槽の金魚が生きているのかもわからない程、視力も低下し意識も混濁していました。(このシーンは本当に哀しく切なかったです。)ホルモンバランスの崩れからくる鬱もあったのかもしれません。そもそもアフターケアにもお金がかかるけれど、凪沙にはその費用を捻出することも難しかったようです。

海が見たい(自分の性に違和感を持った最初の場面として海水浴の水着の回想シーンが登場していました)と言う凪沙を連れて海岸を訪れ、請われるままに海辺でダンスを踊る一果と、彼女のコンクールでの踊りが重なります。怪我でバレエの夢が挫折したりんはコンクールの直前、一果に電話した後自殺するのですが、映画の中で彼女の死は多く語られません。でもラストのダンスシーンでリンクしてくるのね 視力の衰えた凪沙が一果の姿を捉えられていたのかはわかりませんが、それでも「娘」の成長した姿は脳裏に深く刻まれ、その最期の瞬間は確かに幸せだったのではないかと思ってしまいました。


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