杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

華ざかりの三重奏

2024年12月24日 | 
坂井 希久子 (著)

独身で子供のいない可南子は、もうすぐ還暦を迎える。これまでは仕事一筋に頑張ってきたが、定年退職したあと、どう生きればいいのか途方に暮れている。
そんな中、子育てと介護を終えたかつての友人・芳美から、一緒に暮らさないかと誘われて…。それぞれ人に言えない悩みを抱える迷える六十歳たちは「人生の問題」にどう向き合うのか?(あらすじ紹介より)

本作に登場する漫画作品
ポーの一族、ガラスの仮面 乙嫁語り 風と木の詩、動物のお医者さん あさきゆめみし ベルサイユのばら、BANANA FISH 

第一章 冬 
第二章 春 
第三章 夏 
第四章 秋 
第五章 三人の冬

アパレルブランドのプレスとして働いてきた可南子は60歳定年間近の独身女性。中学時代の大親友だった芳美に誘われ、故郷・群馬で開かれた中学校の同窓会に参加したところから物語は始まります。45年以上経った同級生たちは、立場も悩みもそれぞれ。
中三の時「ちょっとだけ」好きだった桜井の暴言失言にかちんとた可南子でしたが、定年後の生き方について考えてしまいます。

遅れてやってきた芳美から「知ってた?斎藤ひかり先生が43年ぶりに『時の旅人』の続編を出すのよ!」と言われた可南子。突然脈絡もなく登場する漫画ネタですが、以後の展開の「主役」になっていくのね。(ちなみにこの漫画家と作品は実在しませんが、3人の二次創作を含めたストーリーが秀逸で、本当に漫画で読んでみたいと思ってしまいました。)

その夜、芳美の家に泊まった可南子は、彼女から一緒に暮らさないかと誘われます。芳美の夫は既に亡く、娘と息子は独立していて、広い庭付きの一軒家に一人で住んでいます。考えた末、可南子は定年と同時に都心のマンションを引き払って芳美の家で同居することを決めます。

和室2部屋をぶち抜いてヴィクトリアンスタイルに改装した芳美の部屋には壁一面の本棚に新旧の少女漫画がずらりと並んでいます。元漫画少女にとってはまさに夢のような空間です。
「よっさん」「タケコ」と呼び合った二人が中学時代に共に嵌っていたのは少女漫画です。猫脚のソファとビーズクッションに寝ころび、萩尾望都や竹宮惠子を読み返しながら、愛してやまなかった『時の旅人』の復活に胸を躍らせる二人は少女に戻ったよう。

娘が独身でいることを心配する母親と距離をとる可南子、夫を亡くしてから引き籠って漫画に没頭する母に呆れる娘の夏美と溝ができた芳美。それぞれに抱えているものがあります。可南子はいつしか夏美と芳美の緩衝材の役割を担うようになっていきます。

広い庭の雑草問題を解決するため、ふとしたきっかけで知り合った近所の中学生が飼っているヤギを除草に借りた二人。飼い主である中学生・瑛人は不登校で祖父と二人暮らしをしています。ヤギと一緒に芳美の家で過ごすようになります。
更に同居している息子家族の家に居づらい元花屋の香織(還暦仲間)も加わります。

カモとばかりに家を売りつけようと押しかけてくる不動産営業マンの桜井の軽口はまさに昭和感丸出しでデリカシーのない暴言です。後日、強引な物件の誘いに渋々出かけた可南子は、的外れな営業トークを続ける桜井に客の背景を考えるようアドバイスします。世代間ギャップについては可南子自身も思い当たることがあったのでちょっと親身になったのね😁 ついでに妻に対する態度も改めろとさり気なく忠告も。(実は桜井の妻の夫に対する愚痴を、彼女と知り合いだった香織が聞かされていたのでした。)

瑛人は不登校の理由を3人に打ち明けます。恋愛感情を持てない彼を級友たちがからかいの対象にしていました。桜井のような無神経な大人を見てこれからも状況は変わらないのかと落ち込む瑛人に芳美は「要は合わないだけ」と言い、恋愛モノが苦手という彼に、「少女漫画は魂で触れ合えるただ一人との関係性を描くものだから、魂の結びつきは恋愛に拘らなくて良い」との持論を展開します。
なるほど~~と思わず可南子たちのように目からうろこです。正直そこまで深く考えて読んだことなかったもんな~。
このことがきっかけで瑛人は徐々に登校するようになっていきます。可南子たちは瑛人を叱ったり励ましたりするのではなく、ただ見守るという姿勢です。それは「近所のおばさん」として正しい接し方なのね。

香織は、花屋を畳んで息子夫婦の家に同居したものの、狭い家の中で居場所を失くしていましたが、彼女に声をかけたのも芳美です。夫の急死という共通点から、香織の思い詰めた様子に気付いたのは、彼女自身も同じような気持ちを抱えたことがあったからのようです。(夾竹桃は花も葉も全てに毒を含んでいるというのは初耳でした。)

芳美が描いたテオの絵を見た香織は、『時の旅人』の二次創作を作ってコミケに出したいと言い出します。芳美は高校時代に趣味で漫画を描いていました。花屋だった香織が背景(花)を受け持ち、可南子はプロットとスケジューリングを含めた雑用と役割分担し、「時の華組」サークルが結成されます。

素人ながらも奮闘した3人は、何とか印刷も間に合い、イベントで売れたのは10冊でも大きな経験に胸をときめかせます。
更に尊敬する「のすたるじあ」さんからの熱烈なメッセージをもらって感激した彼女たちは活動を続けることを決意します。

定年後の生活は、もうすぐそこまで迫っています。
仕事や子育てを終えた後、自分に何が残るのか、何をしたいのか・・・ちゃんと考えなくちゃね😔


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