杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

ギリギリ

2023年11月02日 | 
原田ひ香(著) 角川文庫

夫の一郎太が過労死し、寂しさを紛らわすかのように同級生の健児と再婚した瞳。脚本家の卵である健児は、前夫の母・静江と妙に仲が良く、それが瞳は気に入らない。ある日、瞳は家で健児が書いた脚本の草稿を見つける。静江の伯母の思い出話をもとに構成したというその脚本を読むうちに、自ら選んだ「再婚」という選択に疑問を感じるようになり……。妻、夫、元姑。奇妙な三角関係が織りなす極上の<人間関係小説>。(「BOOK」データベースより)


夫、妻、元姑それぞれの立場や思いが語られていきます。
3人を繋いでいるのが瞳の元夫の一郎太。故人なのにとても大きな影響を与えてしまっているのです😁 

アナログ
妻を瞳さんとさん付けで呼んでいる時点で何だか微妙な空気感があります。
妻の方は健ちゃんって呼んでるのにな。
妻の元義母の頼みを嫌がらずに引き受けて、地デジ対応のTVを家電店に一緒に買いに行き設置も見守ってあげる健児はまさに善い人。
でも妻からしたら夫が元夫の義母と仲が良いのは微妙というのもわかる!

モヒート
瞳の夫の一郎太は海外出張から帰宅した玄関先で突然死しています。
夫の死から半年ほど経って出席した同窓会で健児と再会したことがきっかけで再婚するのですが、前後して元夫の不倫相手や年上の部下との関係に精神的疲労が蓄積していく様子が描かれます。
元夫の不倫相手の呼び出しなんて断れば良いのに変なプライドが邪魔し意地で付き合う瞳にこちらまでイラっとしたり、職場での気遣いに神経すり減らすエピソードでは「あるある~!」と同情を覚えたり・・で、遂に息子大好きな義母に彼の不貞行為の事実をぶちまけてしまうのね~~😅 

スカイプ
義母の静江はずっと良い娘、良き妻、良き母として生きて来た女性です。
夫に続いて自慢の一人息子まで亡くし、さらに元嫁に息子が不倫していたと告げられ落ち込むのですが、健児の気遣いや英語教室の先生に依頼されたスカイプを使った日本語教師のボランティアをするうちに、一歩前に踏み出すのです。誰かの役に立っているという思いが彼女を支え、溺愛と言っても良いくらいの息子自慢が鼻についていた静江が息子の実像を認めることで自身も変化していくんですね。ようやく子離れ出来た感がありました。
 
シナリオ
静江から聞いた彼女の伯母の話を基に健児に脚本の依頼が来て多忙になり、夫婦のすれ違いが起きます。ゴミ箱に捨ててあった彼の書いたプロットを読んでしまった瞳は、ヒロインが再婚を拒否し未亡人を通す設定だったことから、自らの選択(再婚)に疑問を感じてしまうのです。夫の死後一年も経たずに再婚したことに対する後ろめたさのようなものを彼女は初めから抱えていたのです。
 
ギリギリ
心身をすり減らしボロボロになりながらようやく初TVドラマ脚本を完成させた健児ですが、瞳から離婚をつきつけられてしまいます。
彼は、出演者の台本読みを聞いて初めて自分が瞳を深く傷つけてしまったことを悟ります。
瞳と健児は、初めて互いの本音を語り合いました。

健児は彼が子供の頃に(浮気して)家を出た母に数十年ぶりに電話します。
息子を心配した母が彼を訪ねてくるエピソードは、自分勝手な女性ではなく子を思う母以外の何者でもありませんでした。母の家という「帰る場所」を得たことで健児の中で確かな核が生まれます。ドラマが評価され仕事も増えて生活基盤が安定したことも大きいのかな。

静江と健児の関係は「元妻の元義母」となり、それを気にする静江に彼は「もう友達でいいじゃないですか」と言います。まさにこの二人の関係にぴったりな言葉だと感じます。

3人の中では、静江の変化がとても好ましく思えました。
健児も瞳も相手には言えなかった想いを抱えていましたが、ようやく語り合えたその結果が離婚というのは何だかな~とも思いますが、夫婦じゃなくても縁は繋がっていくようにも感じますね。



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