
窪 美澄 (著) 文藝春秋(出版)
かけがえのない人間関係を失い傷ついた者たちが、再び誰かと心を通わせることができるのかを問いかける短編集。
コロナ禍のさなか、婚活アプリで出会った恋人との関係、30歳を前に早世した双子の妹の彼氏との交流を通して、人が人と別れることの哀しみを描く「真夜中のアボカド」。学校でいじめを受けている女子中学生と亡くなった母親の幽霊との奇妙な同居生活を描く「真珠星スピカ」、父の再婚相手との微妙な溝を埋められない小学生の寄る辺なさを描く「星の随に」など、人の心の揺らぎが輝きを放つ五編。
コロナ禍のさなか、婚活アプリで出会った恋人との関係、30歳を前に早世した双子の妹の彼氏との交流を通して、人が人と別れることの哀しみを描く「真夜中のアボカド」。学校でいじめを受けている女子中学生と亡くなった母親の幽霊との奇妙な同居生活を描く「真珠星スピカ」、父の再婚相手との微妙な溝を埋められない小学生の寄る辺なさを描く「星の随に」など、人の心の揺らぎが輝きを放つ五編。
5つの物語それぞれに「星」が登場しタイトルに繋がっています。
真夜中のアボカド
コロナ禍でリモートワークの綾がマッチングアプリで出会った麻生と良い関係を築けると感じた矢先に彼が妻帯者だったことを知ります。
2年前に急死した双子の妹・弓の恋人の村瀬と妹の命日に食事をする仲でしたが、お互いのために会う事を止める選択をします。
種から育てたアボカド、双子座の星座を絡めて二つの別れが描かれます。
銀紙色のアンタレス
高一の真が海辺の祖母の家で過ごしたひと夏の出来事が描かれます。
夫との揉め事で実家に帰っていた、たえに抱いた恋心。幼なじみの朝日の告白に応えられずに振ってしまう少年の正直な残酷さが痛い。
たえと夜空を見上げ星について話した夜は少年を少しだけ大人にしたのかな。
真珠星スピカ
父親の転勤で4年ぶり生まれ育った町に戻ってきたみちるですが、転校早々中学でいじめを受け、保健室登校をしています。
たぶん、この子は少しだけ周囲の子より大人なんですね。とても冷静且つ客観的に自分の置かれている状況を理解している分、周囲から浮いてしまった・・・。😖
隣家に住む尚ちゃんが担任というのもいじめの理由になっています。ちょっとカッコイ若い男性教師の尚ちゃんは生徒たちに人気があるのです。みちるをいじめる瀧澤さんたちは嫉妬しているんですね😞 保健室の三輪先生も尚ちゃんに好意を抱いているのもみちるは気付いています。
みちるを二か月前に事故死した大好きなお母さんの霊が見守っていました。彼女だけに見えるお母さんは話すことはできないけれど、みちるは傍に感じるだけで嬉しかったのです。
学校でこっくりさんが流行っていたある日、瀧澤さんたちがみちるを屋上に連れて行き、何かが憑いているからと無理やりこっくりさんをさせます。ところがこっくりさんは「このこをいじめたらゆるさない」と文字を綴り、霊感の強い瀧澤さんはおもらしをして翌日から発熱して学校を休みます。噂は広まりみちるへのいじめは止みます。けれどこの日を境にお母さんの霊は現れなくなりました。
夏休みに入り、お父さんと一緒にお母さんの遺品を整理しようとしますが、クローゼットの中の洋服のお母さんの残り香に、まだ出来ずに靴だけ虫干しをすることにします。その夜、みちるはお父さんの好物のコロッケを作りましたが、中からお母さんが以前片方失くしてしまった真珠のピアスが出てきます。きっと驚かせることが得意なお母さんが入れたんだというみちるにお父さんも頷きます。
タイトルは昔お父さんがお母さんに贈った真珠のピアスからかな。英語を使えなかった戦時中、星座のスピカは真珠星と訳されていたとは初耳でした。
う~~ん。なんか、良い!
大人のどんくさい尚ちゃんや三輪先生より、みちるの方がもっとずっと大人な感じ。
娘がいじめに遭っていることに気付いていたお母さんは霊となってみちるを護ったんですね。いじめがなくなると、最後にお父さん(夫)の傍らに寄り添ってお別れをしたのかな~~。とても素敵な家族で、だからこそ亡くなったのが悔しいな。
湿りの海
妻の希里子から好きな人が出来たと離婚を言い出された沢渡。希里子が娘の希穂を連れてアラスカの恋人の元に去って2年が経つのに立ち直れずにいました。心配した同僚に合コンに誘われ出かけたものの乗り気になれません。そんなある日、隣の部屋に、別れた時の希穂と同じ年頃の娘・沙帆を連れたシングルマザーの船場が越してきます。偶然公園で会い遊んでやったことから親しく付き合うようになった沢渡は、疑似家族のような感覚に陥りますが・・・。
これは好かん😝 ひたすら主人公が離婚した妻を引きずって泥の中でうずくまっている印象を受けました。妻が引き取った娘への想いも重いぞ。合コンの相手や船場に逃げ場を求めるような狡さがあり、結局この男は自分しか愛せない奴な気がします。
船場が娘を虐待していたかはともかく、どちらにせよ関係は進まなかっただろうなと。
星の随に
小学4年生の想は父と継母の渚さんと彼女が産んだ赤ちゃんの海と暮らしていて、実母とは決まった日にしか会えません。渚さんは想に良くしてくれるけれど、赤ちゃんの世話とても疲れているようで、ある日、学校から帰るとドアガードがかかっていて家に入れませんでした。そのことがきっかけで連日ドアガードがかかり家に入れなくなった想を同じマンションに住むお婆さん・佐喜子さんが見かけて彼女の部屋で過ごすようになりますが・・・。
両親や実母を思い遣り独りで抱えてしまった想君は聡明で優しい子供です。でもまだたった10歳。抱えるには大きすぎる負担です。せめてお父さんが彼の状況をちゃんと理解して詫びているのが救いかなぁ。
佐喜子さんが話した東京大空襲の記憶のエピソードもシュールで重いけれど、想にはしっかり伝わっているのが嬉しかったな。