
2022年1月28日公開 133分 PG12
保護司を始めて3年となる阿川佳代(有村架純)は、この仕事にやりがいを感じ、さまざまな前科者のために奔走する日々を送っていた。彼女が担当する物静かな前科者の工藤誠(森田剛)は順調な更生生活を送り、佳代も誠が社会人として自立する日を楽しみにしていた。そんな誠が忽然と姿を消し、ふたたび警察に追われる身となってしまう。一方その頃、連続殺人事件が発生する。捜査が進むにつれ佳代の過去や、彼女が保護司という仕事を選んだ理由が次第に明らかになっていく。(映画.comより)
原作は罪を犯した前科者たちの更生、社会復帰を目指して奮闘する保護司の姿を描いた同名漫画(原作・香川まさひと/作画・月島冬二)
2021年11月にWOWOWで放送された、「前科者 新米保護司・阿川佳代」に続く映画版で、原作にないオリジナルストーリーで描かれているそうです。
保護司は、犯罪や非行をした人の立ち直りを地域で支える民間のボランティアで非常勤の国家公務員ですが給与は支給されません。保護観察官と協働して保護観察に当たり、社会復帰を果たした人がスムーズに社会生活を営めるよう、釈放後の住居や就業先などの帰住環境の調整や相談を行います。(法務省HPより)
佳代はコンビニ勤めで生計をたてながら保護司として日々を送っています。
保護観察中で会社を無断欠勤した村上のアパートを訪ねて諭し(最初は物静かに、でも途中豹変し激しく熱く迫る描写に彼女を動かすものの強さを感じさせます)、父親と偽って飲み代を踏み倒そうとする飲兵衛の詐欺師を叱りつけたりと、困った保護観察対象者の対応に奮闘する中、半年前から担当する工藤誠だけは、順調な更生生活を送っていました。
仮釈放中の工藤が働く小さな自動車修理工場の社長から、更生期間が終わったら正社員にするつもりだと言われ喜ぶ佳代。
工藤は10歳の時、義父に母を殺され、弟と施設を転々とし、就職したパン工場で激しい暴力と虐めを受けて先輩を刺し殺して刑に服しました。原因は母を侮辱されたからということですが、工藤はその時のことを覚えていないと言い「また人を殺してしまうかもしれない」と怯えていました。
帰宅した佳代を元担当していた斉藤みどり(石橋静河)と彼女の社員たちがすき焼きで労います。良い関係が築かれていることを示すエピソードです。
工藤は月2回の面談の中で、張り過ぎなくて良いと気遣ってくれる佳代への信頼を深めていきます。二人は保護観察期間が終了したら、お祝いに工藤が昔母と行ったラーメン屋でラーメンを食べようと約束をします。
その頃、交番の巡査部長が襲われ重傷を負い、拳銃が奪われる事件が起こります。その数日後、奪われた拳銃で区役所福祉課の職員が撃たれ死亡します。
刑事の滝本(磯村勇斗)と鈴木(マキタスポーツ)が捜査を始めますが、手掛かりのないまま第三の被害者・児童養護施設の職員が河川敷で銃殺されているのが発見されます。
一方、工藤は仕事帰りに銀髪で額に傷がある若者をみかけ後を追って声をかけます。それは施設を出てた後、離れ離れになった弟の実(若葉竜也)でした。数日後、請われるまま車で河川敷に連れて行った誠は、実が自転車でやってきた男に発砲したことに驚愕します。「警察へ行こう」と言う誠に、実は「もう何人も殺ってる」と言います。
最初の被害者は、母が夫のDVを相談に行ったことを揉み消した交番の巡査部長でした。福祉課の職員は、連絡ミスから母子の引っ越し先を義父に伝えてしまい、結果母が殺されました。児童養護施設の職員は工藤兄弟を虐め、薬でおとなしくさせていました。実の告白を聞き、過去の傷が蘇り苦悩する誠。
第三の被害者から工藤のDNAが検出され容疑者として浮上します。
最後の定期面談日に現れない工藤を心配し、部屋を訪ねた佳代の目に映ったのは、机の上に置かれたきちんと畳まれた作業着と連絡カードでした。
彼の身に何があったのかと案じながらコンビニで仕事をする佳代の前に滝本と鈴木が現れます。滝本は佳代の中学の同級生でした。二人は交際していましたが、暴漢に襲われた佳代を助けて滝本の父親が刺され亡くなっていました。この事件が二人に大きな心の傷としこりを残していたのです。思わぬ形で再会した二人。工藤を信じたい佳代に何故彼に拘るのかと詰め寄る滝本。交わらぬ思いを抱えたまま佳代は連絡が来たら知らせると言いました。
保護観察官の高松(北村有起哉)からこれ以上できることはないと言われ、工藤のことを何もわかっていなかったと落ち込む佳代をみどりが慰めます。
「佳代ちゃんは弱いから良い。ダメダメだから安心できる。隣にいると落ち着ける」と言われた佳代は自分の信念を取り戻します。
佳代は工藤のことを知るために、工藤の母を殺した義父・遠山(リリー・フランキー)の弁護人の宮口弁護士(木村多江)を訪ね、遠山との面談を取り付けます。警察の方も、工藤の過去を調べて次の被害者は遠山と予測し張り込みをします。
遠山との面談の最中、実を乗せた工藤の車がやってきます。実が黒いフードを被って降りるのを見「あれは誰だ?」と驚く警察。・・・いやいや、過去を調べたなら弟の存在も気付くだろ??監視カメラを見直したら自ずと誠じゃないことわかるだろ?って思うんですが😖
遠山の部屋へ向かう実を取り押さえようと後を追う警官。実を助けようとした誠は肩を撃たれます。部屋の戸を蹴破った実でしたが取り押さえられ連行される途中で、隙を見て刑事の拳銃を奪って自殺してしまいます。(そもそも簡単に拳銃奪われ過ぎ!)
病室で目覚めた誠は、宮口弁護士との謁見を望みまが、彼女は実の5番目のターゲットでした。事件の資料を整理していた滝本がそれに気付き、佳代に知らせます。(コンビニ店長の松山(宇野祥平)は佳代の良き応援者・理解者として描かれていました。)病院に走った佳代は、病室のドアの傍で(医療用ん)鋏を握って立っていた工藤を見るなり彼の頬を張り「戻ってきて‼人間に」と抱き締めます。そして自分が何故保護司になったのかその理由を語りかけるのでした。過去は消せないけれど未来は変えらる。人として生まれかわる瞬間の手助けをしてあげたいと言う佳代の言葉を、病室の廊下で滝本や宮口弁護士が聞いていました。
事件が終了を迎え暫く経った頃、佳代はみどりを誘い母校の中学校の図書室へ行き、一冊の本を返します。滝本がその本『中原中也詩集』に犯人への憎しみをこめて「死ね、お前はなぜ生きている」と書いているのを見つけた佳代がこっそり持ち帰っていたのです。落書きを消してそっと本棚に戻す佳代に「どうして私を連れてきたの?」と問うたみどりに「友だちだから」と微笑み答える佳代。(以前この本を借りようとしたみどりに「他人」と言い放った伏線があります)
第三の被害者の働いていた養護施設で、手のかかる子供に無理やり精神安定剤を飲ませていたというエピソードは、暴力や虐めとともに今では考えられない状況ですが、「仕方ないね」と自らの行為を是認してみせる医師には呆れを通り越して憤りを覚えました。前科のある者、施設出身者に対する謂れなき偏見や差別はでも確かに存在しているんですよね。そんな中で、「人」として生まれ変わる手助けをしたいという強い信念を持つ佳代のような存在は、傷ついた人の希望であり癒しになるのだと感じる作品でした。