優緋のブログ

HN変えましたので、ブログ名も変えました。

行事を終えて、一段落

2005-07-15 13:43:17 | 日々の歌
ともかくも 早く終わって しまいたい
        会わなくなれば 淋しくなるのに

最中は 大変だぁと こぼしつつ
       それも張りあい 子育てのよに

あの日から 七 「再会」

2005-07-15 13:35:30 | あの日から
[十五年前 ニューヨーク ミヒの家]

「おとーさーん、お帰りなさーい。」

三歳位のかわいらしい男の子が私に向かって駆けてきた。
〈ああ、この子がミヒさんの子供だな。〉

「お父さん、やっと帰ってきてくれたんだね。僕ずーっと待ってたんだよ。」
男の子はニコニコと笑って、息を切らしながらそう言った。

「僕の名前は?」

「ジュンサン…。どうして名前を聞くの?
…おじさんは…、お父さんじゃないの?」
ジュンサンは悲しそうな顔をした。

「ごめんよ。おじさんはお母さんの友達なんだ。お母さんはいる?」

「お母さんは今お出かけしていていません。
でも本当にお父さんじゃないの?
いつもお母さんが見せてくれる写真にとっても似てるのに…。」


「ねえ、ジュンサン君。君もピアノが弾けるのかな?」

「うん、お母さんに教えていただいたから弾けるよ。僕とっても上手なんだよ。」

「そうか、じゃあ、お母さんがお帰りになるまでジュンサン君のピアノを聞かせてもらってもいいかな?」

「うん、いいよ。」


私はジュンサンを抱き上げると一緒に家の中へ入っていった。



[一時間後]

「お母さん、お帰りなさい。
お客様がいらっしゃってますよ。お母さんのお友達で、お父さんによく似たおじさま。」

「お友達?」


「ミヒさん、お帰りなさい。
お手伝いさんに無理を言ってあげてもらいました。留守中にお邪魔して申し訳ありません。」

「あなたでしたか。お出でにならないでくださいと申し上げましたのに…。

ジュンサン、向こうへ行ってアンジュマにおやつをいただきなさい。
おかあさんはおじさまとお話があるの。」

「はい。あのね、お母さん、僕おじさんとお友達になったの。
おじさんにピアノを弾いてあげたの。とっても上手だって褒められたよ。
それからいっぱい遊んでもらったの。

おじさん、また遊びに来てね。」

「そう、遊んでいただいたの。よかったわね、ジュンサン。」



「かわいいお子さんですね。」

「…ペクさんにお聞きになったでしょう?あの子に父親はいません。
どういう意味かお分かりになりますよね。
ジュンサンには父親は仕事でずっと海外にいて帰ってこないと話してあります。

…そういうわけですから、私達親子のことはどうか放っておいてください。」


「そんなことを気にする必要はありません。

私の父も庶子なんですよ。だから父はアメリカに来た。
私とて故国(くに)にいては肩身の狭い思いをしなければならないかもしれないが、ここは自由の国です。

私はジュンサン君がとても気に入りました。

今日はこれで失礼しますが、またお邪魔させてくださいね。
お願いしますよ。ジュンサン君とも約束したのですから。」


「……」



[その一週間前]

私とミヒは友人宅で開かれたパーティーで出会った。

彼女の美貌と、その細い指先から奏でられる哀愁を帯びたピアノの音色に私は魅せられた。


「彼女は?」

「ああ、カン・ミヒって言うんだ。美人だろう?

もう四・五年前になるかな。
ドイツ留学中に国際コンクールに入賞して、結構注目を集めた人なんだ。そのままヨーロッパを中心に活動するのかと思われたんだが、いったん帰国してその後病気をしたらしくってしばらく活動してなかったんだ。

最近活動を再開して、これからの注目株だよ。僕も応援しているんだ。」

「紹介してくれないか?応援しているってことは知り合いなんだろ?」

「彼女、独身だけど子供がいるんだ。わけありらしい。
僕も詳しくは知らないけれど。」友人は声を潜(ひそ)めて話した。

「構わないから紹介してくれよ。」


ミヒの演奏が終わった。

「ミヒさん、こちら僕の友人でセウングループのイ理事。将来の社長候補ですよ。
あなたに目を着けたらしくって、さっきから紹介しろってうるさいんですよ。(笑)」

「まあ、相変わらずペクさんたら冗談ばっかりおっしゃって。」

ミヒは艶然(えんぜん)と微笑んだが、少々迷惑そうな顔をした。

「本当ですよ、ミヒさん。初めまして。
素晴らしい演奏でした。
ぜひまた、お近くでお聞きしたいものです。今度お宅にお伺いしてもよろしいでしょうか?」

「困りますわ。
まだ修行中の身ですし、こちらはほんの仮住まいで、お客様をお招きするような家ではございませんから…。」



[十五年後]

「ジュンサン君…」
ベッドに座る彼の姿に私は言葉を失った。

十二年ぶりに会った彼は十八歳の逞しい青年に成長していた。

しかし、あの幼い頃、初めて出会った頃のきらきらと輝いていた瞳の色は失われていた。

彼の目には何も映っていないかのようだった。


「意識が戻ってからというもの、ずっとあんなふうなの。
毎日ぼうっと窓の外を眺めたりするだけで、…記憶が戻らないだけじゃなくて、生きる気力を失ってしまったようなの。

記憶が戻らないのも、あの子自身が思い出すのを拒んでいるとしか思えないわ。
もう体は元に戻っているのに…、あの子にとっては辛いだけの記憶なのよ。

父親がいないだけでも辛くて寂しかっただろうに、私は自分の辛さに耐えるのが精一杯であの子の気持ちを思(おも)い遣(や)ってあげることができなかった。
ごめんなさい、ジュンサン。


あの時…、ジュンサンが六歳の時、韓国に帰らなければ、あなたの言葉を振り切って行かなければこんなことにはならなかったかもしれないのに…。」


「ミヒさん、私が父親になろう。
今からでも遅くはない、結婚しよう。

君がまだヒョンスさんという人のことを忘れられないのは分かっている。
それでもいい。

私の為じゃない、ジュンサン君のために…。」


こうして私とミヒは結婚した。

アン医師や弁護士とも相談し、記憶を失ったままのジュンサンには新しい記憶を植え込む『治療』を施し、戸籍を整理して私の実子とすることにした。



「ミヒ、この子には炯(ミニョン・明るく輝く美しい石)という名をつけよう。
ミニョン、お前は私の子として生まれ変わるのだ。
新しい人生を生きるのだよ。早く元気になっておくれ。」

いまだ催眠治療から目覚めていないジュンサンに私は語りかけた。



〈ああ、もうジュンサンも私も苦しまなくて済む。これでやっと楽になれる。
ジュンサン、もう苦しまなくていいのよ。安らかに眠って。
今度目覚めるときはミニョンとして、幸せなイ・ミニョンとして目覚めるのよ…。〉
ミヒは心から安らぎを覚えていた。




別れの後 八 「晩秋のパリで」

2005-07-15 13:18:42 | 別れの後
「ああ、寒い。そろそろマフラーとかコート、冬物の用意をしないとだめだわ」
ユジンは大学からの帰り、枯葉の舞い散る歩道を急いでいた。
今日中に書き上げなければならないレポートがある。
「今日は徹夜かな?」

公園の横を通り過ぎようとした時、ふと、ユジンの足が止まった。
懐かしい…匂いがした。

「落ち葉を焼いているのね…」
ユジンはしばらくそこ其処に佇んで(たたずんで)箒をゆっくりと動かしている老人の姿を見ていた。
そんなユジンの姿に気づくと、その老人は箒を動かしていた手を休めて、自分をじっと見つめているユジンにちょっと不思議そうな顔をして微笑んだ。
ユジンは少し慌てて老人に会釈をすると、思い直したようにまた歩き出した。

部屋に帰るとドアにメモが挟んである。
「荷物を預かっています」
管理人のおばさんからだ。
「ユジンです。荷物をいただきに来ました」

マルシアンのキム次長からだった。
「ユジンさん、しばらく。
元気にしてますか。
こちらは相変わらず。

ユジンさんから荷物を預かったまま、何も返事をしないで申し訳なかった。
例のものは仰せの通り、確かにミニョンの部屋の窓辺へ置いてきたよ。
俺は何も言わなかったけれど、ミニョンにはすっかり分かっていたようだった。

ところで、ばあやさんがうるさいから、たまにはメールでも出してやってよ。
ユジンさんから荷物が来たときも
『なんで私にじゃないのよ!』って大騒ぎだったからさ。
『ユジンがいないから忙しい。』っていつもこぼしているんだ。慰めてやって。

例の四人組はそれぞれ仕事に頑張っているようだ。
特にサンヒョクさんは、最近仕事の鬼になってきたらしいよ。
もっとも彼なら鬼といっても怖くないがね。

同封したものは一応俺からのプレゼント(ということにしておいて。)

寒さに向かって、風邪なんか引かないように。
                     マルシアンにて、キム」

綺麗な包装紙を明けてみると、中から浅緑色のマフラーとポラリスのネックレスが出てきた。
〈いつかあなたが貸してくれたマフラーに似た色ね。
ジュンサン、ありがとう。〉

「さあ、頑張ろう。」
手早く食事を済ませるとレポートに取り掛かった。

パリに来て半年が過ぎるころからようやくここでの生活にも慣れ、勉強も順調になってきたとはいえ、何しろフランス語が充分にできないままの留学だったから、語学と専門科目の両方をほかの人の二倍勉強しなければならなず大変だった。
大学での勉強は相変わらずきついけれども忙しさがユジンを救ってくれていた。
ここにいる間はとにかく夢中になって勉強しようと決めていた。

〈私は、パリに来てから韓国の友人たちにも意識して連絡を取らないようにしてきた。
ジンスクやサンヒョクと話せばつい甘えて辛いと愚痴が出てしまいそうでいやだった。
ジョンアさんと話せばジュンサンのことが聞きたくなるに決まっている。
ジョンアさんは仕事でマルシアンに出入りしているのだから、キム次長に会えばジュンサンの話が出ても不思議はない。
ジュンサンのことを聴けば会いたい気持ちを抑えることができなくなってしまいそうで…。
みんなごめんね。きっと怒っているでしょうね。許してね。〉

夜、勉強に疲れて一息入れようと窓を開けてみる。
夜の冷たい空気が頬をなでてゆく。
星が美しく瞬(またた)いている。
ポラリスを見上げながら
「ジュンサン」と小さく呼んでみる。

「ジュンサン、私はあなたとの約束を守って、ちゃんと食べて、ちゃんと寝て元気に暮らしているわ。安心してね。
ジュンサン、ポラリスのネックレスをくれたって事は、会いに行ってもいいってこと?」
彼が微笑んでいる気がした。

そのとき電話のベルがなった。
相手は思いがけない人だった。
カン・ミヒ―アメリカにいるジュンサンの母親からだった。

「ユジンさん、お元気。お久しぶりね」
「ジュンサンのお母様、お久しぶりです。お変わりございませんか」
「ユジンさん、今日はお願いがあって電話しました。
あのね、あなたにこんなお願いはしちゃいけないのはわかっているの。あなた達の仲を壊したのはこの私なんだから。でも、あなたしかできないの。お願い助けてくださる?」
「お母様、どうなさったんですか」
「ミニョンが、ジュンサンが危ないの」
「えっ」
「まだ手術を受けていないの。薬で進行を遅らせているんだけど、もうそれも限界に来ていて…、
手術を受けなければ死ぬのを待つだけなの。
お願い、ジュンサンを説得してちょうだい。
あなたにしかできないの。お願いユジンさん」

ユジンは大学に欠席の届けを出し、急いでアメリカへ向かった。