優緋のブログ

HN変えましたので、ブログ名も変えました。

別れの後 十六 「プロポーズ②」

2005-08-11 09:29:08 | 別れの後
〈ミニョンさん、私が必要ならどうしてあんな冷ややかな態度を取るの?〉
ユジンは一睡もせず思い悩んでいた。

[翌日]

「もしもし、ミニョンさんですか。ユジンです。
昨日はお食事も差し上げず、失礼いたしました。
今日の午後そちらにお伺いしてもよろしいでしょうか。
はい、では一時に」

ユジンはホテルにミニョンを訪ねた。
「お父様はおいでにならないのですか」
「ええ、ユジンさんから連絡をいただく前に出かけました。
もうまもなく戻ると思います」
「そうですか…。
ミニョンさん、大変申し訳ありません。
この度のお話はお受けすることができません。

私はミニョンさんに大恩ある身ですから、どんなことでもお受けしなければいけないとは思っています。
私はフランスへ渡る時にある決心をしたのです。
それはとても辛いことでした。
他の道を選ぶことも出来ました。でもそうしなかった。
その決心を崩したくないのです。
今は卒業することしか考えることが出来ません。

ミニョンさん、私はあなたの友人ではなかったのですね。
ミニョンさんはこの一年、私が使える人間かどうか値踏みするためにお付き合いくださっていたのですか?とても…残念です」

ミニョンは驚きと失望の色を浮かべていた。
しかしそれは一瞬のことであった。
すぐに冷静さを取り戻すと、
「ユジンさん、僕は友人としてあなたの力になれるかもしれないし、あなたの力を僕にも貸していただきたかったのです。
でも、お分かりいただけなかったようですね。残念ですが仕方がありません。
これからはお互い忙しくなるでしょうから、今までの様にはお付き合いできなくなると思いますが、お元気で頑張ってください」
「はい、ありがとうございます。
お父様がお帰りになったら、こちらを発たれる前に一度お会いしてお話がしたいとお伝えください。ご連絡をお待ちしています」
ユジンは帰っていった。

「ユジンさんと会うのも今日が最後になるかもしれない…。
こんな別れ方はしたくなかったけれど…」

苦痛の表情はしかし、やがて悲しい安堵の表情に変わっていった。

[ホテルのロビーで]
「ああ、ユジンさんお出でになっていたのですか。
ミニョンも知らせてくれればいいのに。もうお帰りですか」

「お父様、二人だけでお話がしたいのです。お時間を頂けますでしょうか」

ユジンはイ氏と向き合ってもすぐには口を開こうとしなかった。
「ユジンさん、どうなさいました。
どうぞ遠慮なさらずにお話ください。
ミニョンがあなたに何か失礼なことでも申し上げましたか」

「いいえ、そうではないのです。
私はミニョンさんの申し出をお断りしてしまいました。
お父様、ミニョンさんは本当にお元気なのですか」

「ちょっとお待ちください、ユジンさん。
ミニョンはあなたにどんな風に話したのですか?」
「仕事のパートナーになって欲しいと。それだけです。
私のキャリアにもなるからと…」

「そうでしたか…
ユジンさん、ミニョンの血腫が…また大きくなり始めています。
後三年と宣告されたそうです。
私はユジンさんの事を…高校時代からのことも全部ミニョンに話しました。
ですから、残された時間をあなたと過ごすためにプロポーズするものとばかり思い込んでおりました」

「やっぱり…、そうだったのですか…」
〈ミニョンさん、いえジュンサン、あなたはいつも私のことばかり考えて…、なぜ心の重荷を私に分けてくれないの?〉

「お父様、ミニョンさんは後に残される私のことを心配して仕事のパートナーにと、きっとそうです。
結婚して妻となれば夫の仕事をサポートするのは当たり前のこと、一緒に仕事をしてもミニョンさんの実績であり私のキャリアにはならない。
それでは残された私が一人で生きていくのが難しくなると思ったのでしょう。
それに…私との関係はあくまで仕事の上のこと、個人的に私には関心がないという態度を貫くつもりだったのでしょう。
私に心の傷を作らないために…。
ミニョンさんはそういう人です…。

お父様、お願いがございます。
どうか私をイ家の嫁にしてください。
ミニョンさんに残された時間が少ないのなら、もう離れていたくはありません」

「ユジンさん…、頭を上げてください。
ミニョンの力になれるのはユジンさんしかおりません。
あなたにとっては辛いことかもしれないが、どうかあの子の側にいてやってください」
明日もう一度ミニョンを尋ねることをイ氏と約束し、ユジンは帰っていった。

「ミニョン、ロビーでユジンさんに会ったよ。明日もう一度お前に会いに来るそうだ。
ミニョン、よく考えた末の結論だったのだとは思うが…。
こんなことはお前にいまさら言うまでもないことだが、人は一人で生きていくわけではない。
『他人だけの不幸』というのはありえないのだよ。
同じ様に『自分だけの幸福』というのもありえない。
人と人がお互いの生命の輝きで照らしあってこそ、人は輝くことが出来るのではないかな。

愛別離苦―確かに愛する人との別れは辛く苦しい。
だが、人は「死」によって愛する人と別れるということから逃れることは出来ないのだよ。
だからこそ、別れの悲しみに負けて不幸になってはいけないんだ。
そうじゃないか?」
「お父さん…」

[翌日 ホテルのミニョンの部屋]
「昨日は、大変失礼いたしました。
…お父様からお話を聞きました。やっぱりお体の具合が良くなかったのですね」
「隠していてすみません。あなたを悲しませたくなかった。
それに、ユジンさんのせいじゃない。
もう責任を感じないでください。
…それで、今日来てくださったのは考えを変えられたということですか」

「いいえ、ミニョンさん、私はあなたのビジネスパートナーになるつもりはありません。
私が欲しいのはキャリアじゃない。
私をあなたの側にいさせて欲しいのです。
責任を感じてではありません。

あなたを…愛しています」

愛しています…
愛しています…

・・・・・
ユジンさんの眼差し…
僕に向けられたその瞳が濡れている…
前にも…

…私は謝りません
あなたは私の心を持っていったから…


「ユ…ジン?」

別れの後 十五 「プロポーズ①」

2005-08-11 09:18:00 | 別れの後
「ユジンさん、元気ですか?
来週の金曜日そちらへ父と行きます。
ユジンさんにお願いがあるので、時間を作ってください。
また近くなったら連絡します。
           イ・ミニョン」

〈お願いって何かしら?〉
なぜか胸騒ぎがした。
〈まさか悪い知らせじゃないわよね、ミニョンさん。
ミニョンさんが会いに来るというのに不安になるのはなぜ?〉

「大丈夫よ、お父様にも久しぶりにお会いできるんだわ。
部屋を綺麗にしておかなくちゃ」
自分自身を励ますように元気に言った。

約束の日、ミニョンはイ氏と共にユジンの部屋へやってきた。
「ユジンさん、久しぶりだね。勉強はどうだね。元気だったかい?」
「はい、ありがとうございます。
もう、進級試験も終わりました。
ミニョンさんのおかげで今回も良い成績が取れそうです。
後は一年かけて研究論文に取り組みたいと考えています」

「そうですか。それは良かった。
…悪いが、私は少し用事があるので失礼するよ」
そういってお茶を飲むと、イ氏は二人を残して出かけていった。

気まずい空気が流れていた。
ミニョンの様子がいつもと違っていた。
「ミニョンさん、その後お加減はいかがですか」
「ええ、お蔭様で順調です。
まもなく職場復帰できると思います」
ミニョンの声が冷たかった。

「今日はユジンさんにお願いがあって来ました。
ユジンさん、僕の仕事のパートナーになっていただけませんか。
ユジンさんもご存知のように、僕は近い将来光を失うことになるでしょう。
そうなれば一人で仕事をすることが難しくなります。パートナーが必要です。
あなたにお願いしたい。
受けていただけませんか」

ミニョンと仕事ができる。
嬉しい話のはずなのに、なぜだか喜びが沸いてこなかった。

「あなたの勉強が途中なのはわかっています。
これから一年かけて研究論文に打ち込まれる予定だったのですよね。
それをアメリカで仕事をしながらやらせていただけるように、実は今父があなたの指導教授にお願いに行っています。
あなたの承諾も得ないうちに勝手なことをして申し訳ないが、どうか分かってください。
あなたにぜひ受けていただきたいのです」
ミニョンは、きわめて冷静に、ビジネスライクに話を続けていた。

「イ・ミニョンのビジネスパートナーだったということはあなたのキャリアにとっても損な話ではないと思いますよ」

「イ・ミニョンさんと仕事をしたい方はたくさんおりますでしょう。
私よりも有能な方がおられるはずです」
「いえ、あなたでなければだめです。
僕には時間がない。
ユジンさんなら、今僕の考えていることをすぐに理解し、形にすることができる。あなたのことは良く分かっているつもりです」

「ミニョンさん、時間がないとはどういうことですか?
本当はお加減が悪いんじゃないんですか?」

「いえ、そうではありません。
僕は最近一日一日を大切に過ごさなければという気持ちになっているのです。
事故にあって、手術を経験してそういう心境になったのです。
今日の続きの明日はないかもしれない。
今この瞬間を大切にしたいと思うようになったのです。
ユジンさんのおかげですよ。

あなたなら、僕の足りないところを補ってくれるだけではなくて、何倍にもしてくれる。
僕と一緒に一つ一つ造り上げていっていただきたいのです。
大事なことです。
すぐに返事をくださいとは言いません。よく考えて決めてください。
父がもしこちらに寄りましたら先にホテルに帰ったと伝えてください」
ミニョンは帰っていった。

ミニョンが自分を必要としていてくれることは嬉しかった。
でも…。
何かが、棘(とげ)のように刺さってユジンの心を暗くしていた。

ミニョンのいつもと違う冷ややかな態度…。
私に何か隠している。
まさか、血腫が再発した!
ユジンは恐ろしさで体が震えた。

ミニョンさん、あなたはまた私を一人置いて行こうとしているの?