「朽ちていった命」

1993年9月30日
大内さんは被爆した。
核燃料の加工作業中に起きた、臨界事故だった。

大内さんの被爆量は、染色体検査などの結果から、20シーベルト前後とされた。
これは、一般の人が一年間に浴びる限度とされる量のおよそ2万倍に相当する。
8シーベルト以上の放射線を浴びた場合の死亡率は100％だ。

大内さんは、事故直後に嘔吐し、一時意識を失うなどの症状があったが、外見はどこから見ても重症患者には見えなかった。意識もはっきりしていた。

だが、大量の放射線を浴びた大内さんの染色体はばらばらに破壊されていた。
前例のない治療を全力で行う医療スタッフたち。
しかし「生命の設計図」を失った大内さんの体は、懸命の治療にもかかわらず次第に内側から朽ちていく。

柳田邦男さんは解説の中でこう述べている。
「核戦争であれ核事故であれ、即死者はもちろん悲惨だが、生き残った被爆者たちあるいは原発事故や核事故の被爆者たちの多くが、大内、篠原両氏のように、数日ないし数週間、あるいは数ヶ月、地獄の拷問に等しい経過を経て死に至る人々が続出するということだ。さらに、それでも生き残った被爆者達も、十年後、三十年後にガンなどを発症する人々が少なくないことを、歴史は示している。」

今まで、原発は安全と思い込まされてきた。
いや、知ろうとしなかったのかもしれない。
まるで、原発などないかのように、平和に暮らしてきた。

しかし、人間は時に間違う。
完璧など、ありえない。

そして、現実に事故は起きてしまった。
確かに、直ちに影響はないかもしれない。
20シーベルトも被爆した大内さんさえ83日生きたのだ。
すべての筋組織が失われても、心臓だけは残っていたのだ。

これから、一年後、五年後、10年後…、どんなことが起こるのだろうか。
その責任は、誰が取るのだろうか。

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