入院した当初、頭痛やめまいがひどくジュンサンはベットで過ごす日が多かった。
二ヶ月を過ぎるころからようやく症状も落ち着き、気分の良い日は散歩をしたり、目に負担をかけない程度の読書もできるようになった。
ミヒはスケジュールを調整して、なるべくジュンサンのそばにいるようにしていた。
傷つけてしまった彼の心をいまさら癒すすべもないが、せめて傍(そば)にいてやりたかった。
ミヒの前では勤めて明るく振舞っているジュンサンだったが、体調が落ちついてきたころからだろうか、じっと考え込むことが多くなった。
[イ家の居間]
「あなた、ミニョンを見舞ってやってくださらないかしら。
私には何も言わないけれど、何かずっと考え込んでいるの。力になってやってください」
「うん、そうだな。私も話したいこともあったから近いうちに行くつもりだったんだが、もう少し様子を見てはどうだね。
ミニョンから何か言ってくるかもしれない。それからでも遅くはないだろう」
[その数日後、ジュンサンの病室]
「母さん、お願いがあるんだけど頼めるかな」
「なあに」
「お父さんにお願いしたいことがあるんだ。忙しいとは思うけど、時間をつくっていただけませんかとお父さんに伝えて」
「ええ、わかったわ。お父様も近いうちに顔を見に行きたいっておしゃっていたから多分大丈夫よ」
[数日後 ジュンサンの病室]
「ミニョン、気分はどうだい。なかなか顔も見に来られなくて悪かったな」
「お父さん、お忙しいのにすみません」
「どうだ、外に出て少し歩かないか。今日は天気が良くて気持ちがいいぞ」
[病院の庭 漫(そぞ)ろ歩くイ氏とジュンサン]
「何か頼み事があるそうだが、…そろそろ仕事がしたくなったんじゃないかな?
人間何もしないでいるのは辛いものだ」
体が落ち着いてくるに従って悩んでいた気持ちをわかってくれている父の存在がありがたかった。
「お父さん、障害を持った人のための住宅、単なるバリアフリーというのではなくて、残された機能を最大限に生かして、なおかつ健常者にも心地よくて美しい家はどんなものなのか勉強してみようと思うんです。
それを生かす場があるのか、僕にそれだけの時間があるのかわかりませんけれど…。やってみたいんです。
それともう一つ、やりかけた仕事があって、自分の手で図面を仕上げておきたいんです。
いつでも建築できるように」
「それは誰かからの依頼なのか?」
「いえ、自分でやりたくて手がけたものです。
模型から書き起こしたものはあるんですが、きちんと手直ししたいんです」
「そうか。じゃあ勉強と、作業のための部屋が必要だな。
家に戻ってきても良いが、病院の近くに部屋を借りたほうが良いだろう。
主治医の先生にも事情を話して、なるべく早く退院できるよう相談してみよう。
まず、当座の資料になる本を探させて届けさせよう」
「ありがとうございます」
「私が力になれるのは、こんなことだ。
それより、ミニョン。
…余計なことかもしれないが、ユジンさんのことはどうするつもりなんだ。
愛する人を守りたい。苦しい思いをさせたくないというお前の気持ちはわかるが、果たしてそれがユジンさんの幸せだろうか…。
美しい花園を歩くだけが幸せとは限らんよ。
たとえ茨の道でもお前と手を携えて乗り越えていくことをユジンさんは望んでいるのではないかな。
これは私が敬愛している方の言葉だ」
と言ってイ氏はそっと一枚の紙を置いて帰っていった。
『静かな花壇の道を選ばずに、
自ら茨の道を進むのは、
熱い涙の永遠の人生を創りたかったからだ』
夜、ジュンサンはポラリスを見上げながらイ氏の言葉を考えていた。
ユジン。僕は間違っていたんだろうか。
二ヶ月を過ぎるころからようやく症状も落ち着き、気分の良い日は散歩をしたり、目に負担をかけない程度の読書もできるようになった。
ミヒはスケジュールを調整して、なるべくジュンサンのそばにいるようにしていた。
傷つけてしまった彼の心をいまさら癒すすべもないが、せめて傍(そば)にいてやりたかった。
ミヒの前では勤めて明るく振舞っているジュンサンだったが、体調が落ちついてきたころからだろうか、じっと考え込むことが多くなった。
[イ家の居間]
「あなた、ミニョンを見舞ってやってくださらないかしら。
私には何も言わないけれど、何かずっと考え込んでいるの。力になってやってください」
「うん、そうだな。私も話したいこともあったから近いうちに行くつもりだったんだが、もう少し様子を見てはどうだね。
ミニョンから何か言ってくるかもしれない。それからでも遅くはないだろう」
[その数日後、ジュンサンの病室]
「母さん、お願いがあるんだけど頼めるかな」
「なあに」
「お父さんにお願いしたいことがあるんだ。忙しいとは思うけど、時間をつくっていただけませんかとお父さんに伝えて」
「ええ、わかったわ。お父様も近いうちに顔を見に行きたいっておしゃっていたから多分大丈夫よ」
[数日後 ジュンサンの病室]
「ミニョン、気分はどうだい。なかなか顔も見に来られなくて悪かったな」
「お父さん、お忙しいのにすみません」
「どうだ、外に出て少し歩かないか。今日は天気が良くて気持ちがいいぞ」
[病院の庭 漫(そぞ)ろ歩くイ氏とジュンサン]
「何か頼み事があるそうだが、…そろそろ仕事がしたくなったんじゃないかな?
人間何もしないでいるのは辛いものだ」
体が落ち着いてくるに従って悩んでいた気持ちをわかってくれている父の存在がありがたかった。
「お父さん、障害を持った人のための住宅、単なるバリアフリーというのではなくて、残された機能を最大限に生かして、なおかつ健常者にも心地よくて美しい家はどんなものなのか勉強してみようと思うんです。
それを生かす場があるのか、僕にそれだけの時間があるのかわかりませんけれど…。やってみたいんです。
それともう一つ、やりかけた仕事があって、自分の手で図面を仕上げておきたいんです。
いつでも建築できるように」
「それは誰かからの依頼なのか?」
「いえ、自分でやりたくて手がけたものです。
模型から書き起こしたものはあるんですが、きちんと手直ししたいんです」
「そうか。じゃあ勉強と、作業のための部屋が必要だな。
家に戻ってきても良いが、病院の近くに部屋を借りたほうが良いだろう。
主治医の先生にも事情を話して、なるべく早く退院できるよう相談してみよう。
まず、当座の資料になる本を探させて届けさせよう」
「ありがとうございます」
「私が力になれるのは、こんなことだ。
それより、ミニョン。
…余計なことかもしれないが、ユジンさんのことはどうするつもりなんだ。
愛する人を守りたい。苦しい思いをさせたくないというお前の気持ちはわかるが、果たしてそれがユジンさんの幸せだろうか…。
美しい花園を歩くだけが幸せとは限らんよ。
たとえ茨の道でもお前と手を携えて乗り越えていくことをユジンさんは望んでいるのではないかな。
これは私が敬愛している方の言葉だ」
と言ってイ氏はそっと一枚の紙を置いて帰っていった。
『静かな花壇の道を選ばずに、
自ら茨の道を進むのは、
熱い涙の永遠の人生を創りたかったからだ』
夜、ジュンサンはポラリスを見上げながらイ氏の言葉を考えていた。
ユジン。僕は間違っていたんだろうか。