マンションの仕事部屋。
いつものようにジュンサンはパソコンに向かい、ユジンは作業台の上に図面を広げている。
ジュンサンはユジンの方を向きながら言った。
「ユジン。どうした?」
〈ユジン、ビョルのことを考えているんだね。〉
ジュンサンはそっとユジンの手を握った。
ユジンははっとして
「ごめんなさい、なんでもないの。大丈夫よジュンサン。」
ユジンはビョルを流産した後、ふと遠くを見るような目をすることがあった。
「ビョルのことを考えていたの?」
「ええ。ビョルは私たちに別れが来ることを教えに来たんだって言ったわよね。
…またあの子に会えるかしら?」
「…いつの日か、必ずまた僕たちの所へ帰って来るよ。
僕はそう思う。」
「そうよね。」
ジュンサンはユジンの頬に触れるとそっと涙をぬぐった。
「泣いたりして…ごめんなさい。ビョルに笑われちゃうわね。」
「そんなことないさ。
お医者様も言っていただろう。
今はホルモンの関係で気分が落ち込んだり不安定になることがあるのが普通だって。
我慢することはないんだよ。」
ジュンサンはそっとユジンを抱き寄せた。
ユジンはジュンサンの胸に顔をうずめると、しばらくの間静かに涙を流していた。
「ユジン、あったかいミルクティーでも入れようか。
暑いからって冷たいものばかり摂っていてもいけないから。」
「あ、私がするわ。」
「いいよ、ユジンは座っていて。大丈夫だから。」
ユジンがいないときでも不自由しないように、いつも使うものは同じ場所に置くなどいろいろな工夫がしてあった。
ジュンサンは手馴れた手つきでティーポットに茶葉と湯を入れ、ミルクを沸かして準備した。
「ユジン、運ぶのを手伝ってくれる?」
「少し落ち着いた?」
「うん、ありがとう。
前にもスキー場で、憂鬱なときは甘いものがいいんですよってココアを勧めてくれたことがあったわね。
私って、いつもジュンサンに慰められているみたい。」
ユジンは笑ってそういった。
「そうかな?それはきっと、ユジンは嘘が付けなくて、気持ちがすぐに表情に表れてしまうからさ。それが君の魅力だけどね。」
「それって褒めてるの?
ジュンサンはポーカーフェイスだものね。ふふ…。」
「ユジン、前から相談しようと思っていたんだけれど、家を建てないか?」
「私たちの住む家?ここじゃ狭い?」
「いや、二人ならこのままで充分だけど、春川のお母さんもいつまで一人にしておけないだろう?パクさんのこともあるし。」
ヒジンもすでに結婚してソウルに出てきており、ユジンの母は一人暮らしをしていた。
「パクさんは身寄りがないし、もうそろそろこっちへ帰りたいって言っているらしいんだ。
ビョルができてから考えていたんだけど、ヒジンさん達とお母さんも一緒に、それからパクさんも住み込んでもらえるように、どうかな?
家、建をたてよう?」
〈ジュンサン、私が一人になってしまわないように考えてくれているのね。〉
「ジュンサン…、ありがとう…。」
「体が落ち着くまで仕事を休んで、家の設計に専念するのもいいんじゃないかな。ユジンは頑張りすぎるから、倒れられたら困るよ。」
[二年後 結婚五年目の春]
ジュンサンはこのころから体調の不良を訴えるようになっっていた。
そのころユジンも自分の体の変化に気付いていた。
しかし、ジュンサンの体のことを考えると言い出せずにいた。
[自宅のベットに横たわるジュンサン 少しやつれ青い顔をしている。]
「ジュンサン、仕事はもう無理よ。
お医者様にも入院したほうがいいって言われたじゃない。」
「うん、そうだね。でも、もう入院したところで治療法はないんだよ。
幸いまだ痛みはないから、もう少し待って。
仕事を整理してしまうから。大丈夫だよ、無理なことはしないから心配しないで。」
[半月後 入院したジュンサンの病室 サンヒョクが見舞いに来ている]
「ジュンサン、入院したっていうからびっくりしたぞ。
具合悪かったのか?ユジンは仕事?」
「ああ、後三十分もすれば来るんじゃないかな。結構忙しいんだ。
パクさんが付いていてくれてるから、毎日来なくてもいいと言っているんだけど…。」
「ユジンに来るなというほうが無理さ。それより、体どうなんだ?」
「三年といわれていたのに良くここまで持ったよ。
もう治療法はないんだ。後は痛みを緩和するだけだ。
幸い今のところ無理をしなければ痛みはないから…、ただこうしてのんびり過ごしているだけさ。」
「ユジンは…その事知っているのか?」
「もちろん、わかっている。」
「そうか。あいつも強くなったな…。
昔のユジンなら泣いて、おろおろしてお前の側に付きっ切りになるところだろうに…。」
「そうかもな…。
サンヒョク、せっかく来てくれたんだ、時間があるならユジンにも会っていってくれよ。」
「ああ、そうさせてもらうよ。」
[数十分後 ユジンがやってくる]
「サンヒョク!来てくれてたの?久しぶりね。元気だった?」
「ああ、ユジンも忙しいらしいね。
じゃあ、ジュンサン、ユジンの顔も見られたしこれで失礼するよ。」
「あら、もう帰っちゃうの?もう少しゆっくりしていけばいいのに。」
「ごめん、ユジン。仕事に戻らなきゃいけないし、ジュンサンとはもう話したから、また今度来るよ。」
「そお?じゃあ、ジュンサン、サンヒョクを送ってくるわ…。」
[病院の廊下]
「ユジン、痩せたんじゃないのか?
あまり無理するなよ。お前が倒れたら元も子もないんだから。」
「分かってる。
…実はね、子供ができたの。
まだジュンサンには言っていないんだけど…。」
「えっ!子供って…?何でジュンサンに言わないの?
ユジン、体は大丈夫なのか?
前の時だって…結構辛そうだったじゃないか。
あんまり食べられないんだろう?」
「大丈夫よ。ちゃんと病院にも行っているし。
ちょうどジュンサンの調子が悪くなったころだったから、なんか言い出しそびれちゃって。ジュンサン、すぐ心配するから…。」
「ばかだなぁ。ユジンの事心配するのは当たり前じゃないか。
お母さんは知っているんだろう。」
「ええ、母にはすぐ言ったんだけど。」
「そうか。お母さんが一緒だから心配はないと思うけど、ジュンサンにも早く話さないと。」
「うん、分かってる。
…良かったわ、サンヒョクに会えて。じゃあ気をつけて。」
「体、大事にするんだぞ。また来るから…。」
[ジュンサンの病室]
「遅くなってごめんなさい。結局少し立ち話しちゃって。」
「ジュンサン、あのね、私あなたに謝らなくちゃいけないの。
…あの…。」
「うん?どうした、ユジン。何か言いにくいこと?」
「あのね…、赤ちゃんができたの。
黙っててごめんなさい。もうすぐ四ヵ月になるわ。」
「えっ!ユジン、本当?ほんとに?
何で黙ってたの?いい知らせなのに。ばかだなぁ、何を心配してたの?」
そう言うとジュンサンはユジンを抱き寄せた。
「おめでとう、ユジン。
…ありがとう…。こんなに嬉しいことはないよ。
…仕事と看護で疲れているのかと心配していたけど
…すこし痩せた?
つわりで辛いんだろう?ごめん、気付いてやれなくて。
体を大事にしなきゃ。先生にはもう診ていただいたの?」
「ええ、ちゃんと診ていただいているから、大丈夫。」
ジュンサンはユジンの体のことも考え、退院し「島の家」に移り住むことにした。
「ユジン、『島の家』に行こう。僕が病院にいたのでは、仕事と看護で君が参ってしまう。パクさんにも一緒に来てもらおう。家の方はヒジンさんとお母さんに任せて。
それから看護師さんに一人住み込んでもらって、君ももう産休にしたらいい。体を大事にしないと。
ね、そうしよう、ユジン。」
いつものようにジュンサンはパソコンに向かい、ユジンは作業台の上に図面を広げている。
ジュンサンはユジンの方を向きながら言った。
「ユジン。どうした?」
〈ユジン、ビョルのことを考えているんだね。〉
ジュンサンはそっとユジンの手を握った。
ユジンははっとして
「ごめんなさい、なんでもないの。大丈夫よジュンサン。」
ユジンはビョルを流産した後、ふと遠くを見るような目をすることがあった。
「ビョルのことを考えていたの?」
「ええ。ビョルは私たちに別れが来ることを教えに来たんだって言ったわよね。
…またあの子に会えるかしら?」
「…いつの日か、必ずまた僕たちの所へ帰って来るよ。
僕はそう思う。」
「そうよね。」
ジュンサンはユジンの頬に触れるとそっと涙をぬぐった。
「泣いたりして…ごめんなさい。ビョルに笑われちゃうわね。」
「そんなことないさ。
お医者様も言っていただろう。
今はホルモンの関係で気分が落ち込んだり不安定になることがあるのが普通だって。
我慢することはないんだよ。」
ジュンサンはそっとユジンを抱き寄せた。
ユジンはジュンサンの胸に顔をうずめると、しばらくの間静かに涙を流していた。
「ユジン、あったかいミルクティーでも入れようか。
暑いからって冷たいものばかり摂っていてもいけないから。」
「あ、私がするわ。」
「いいよ、ユジンは座っていて。大丈夫だから。」
ユジンがいないときでも不自由しないように、いつも使うものは同じ場所に置くなどいろいろな工夫がしてあった。
ジュンサンは手馴れた手つきでティーポットに茶葉と湯を入れ、ミルクを沸かして準備した。
「ユジン、運ぶのを手伝ってくれる?」
「少し落ち着いた?」
「うん、ありがとう。
前にもスキー場で、憂鬱なときは甘いものがいいんですよってココアを勧めてくれたことがあったわね。
私って、いつもジュンサンに慰められているみたい。」
ユジンは笑ってそういった。
「そうかな?それはきっと、ユジンは嘘が付けなくて、気持ちがすぐに表情に表れてしまうからさ。それが君の魅力だけどね。」
「それって褒めてるの?
ジュンサンはポーカーフェイスだものね。ふふ…。」
「ユジン、前から相談しようと思っていたんだけれど、家を建てないか?」
「私たちの住む家?ここじゃ狭い?」
「いや、二人ならこのままで充分だけど、春川のお母さんもいつまで一人にしておけないだろう?パクさんのこともあるし。」
ヒジンもすでに結婚してソウルに出てきており、ユジンの母は一人暮らしをしていた。
「パクさんは身寄りがないし、もうそろそろこっちへ帰りたいって言っているらしいんだ。
ビョルができてから考えていたんだけど、ヒジンさん達とお母さんも一緒に、それからパクさんも住み込んでもらえるように、どうかな?
家、建をたてよう?」
〈ジュンサン、私が一人になってしまわないように考えてくれているのね。〉
「ジュンサン…、ありがとう…。」
「体が落ち着くまで仕事を休んで、家の設計に専念するのもいいんじゃないかな。ユジンは頑張りすぎるから、倒れられたら困るよ。」
[二年後 結婚五年目の春]
ジュンサンはこのころから体調の不良を訴えるようになっっていた。
そのころユジンも自分の体の変化に気付いていた。
しかし、ジュンサンの体のことを考えると言い出せずにいた。
[自宅のベットに横たわるジュンサン 少しやつれ青い顔をしている。]
「ジュンサン、仕事はもう無理よ。
お医者様にも入院したほうがいいって言われたじゃない。」
「うん、そうだね。でも、もう入院したところで治療法はないんだよ。
幸いまだ痛みはないから、もう少し待って。
仕事を整理してしまうから。大丈夫だよ、無理なことはしないから心配しないで。」
[半月後 入院したジュンサンの病室 サンヒョクが見舞いに来ている]
「ジュンサン、入院したっていうからびっくりしたぞ。
具合悪かったのか?ユジンは仕事?」
「ああ、後三十分もすれば来るんじゃないかな。結構忙しいんだ。
パクさんが付いていてくれてるから、毎日来なくてもいいと言っているんだけど…。」
「ユジンに来るなというほうが無理さ。それより、体どうなんだ?」
「三年といわれていたのに良くここまで持ったよ。
もう治療法はないんだ。後は痛みを緩和するだけだ。
幸い今のところ無理をしなければ痛みはないから…、ただこうしてのんびり過ごしているだけさ。」
「ユジンは…その事知っているのか?」
「もちろん、わかっている。」
「そうか。あいつも強くなったな…。
昔のユジンなら泣いて、おろおろしてお前の側に付きっ切りになるところだろうに…。」
「そうかもな…。
サンヒョク、せっかく来てくれたんだ、時間があるならユジンにも会っていってくれよ。」
「ああ、そうさせてもらうよ。」
[数十分後 ユジンがやってくる]
「サンヒョク!来てくれてたの?久しぶりね。元気だった?」
「ああ、ユジンも忙しいらしいね。
じゃあ、ジュンサン、ユジンの顔も見られたしこれで失礼するよ。」
「あら、もう帰っちゃうの?もう少しゆっくりしていけばいいのに。」
「ごめん、ユジン。仕事に戻らなきゃいけないし、ジュンサンとはもう話したから、また今度来るよ。」
「そお?じゃあ、ジュンサン、サンヒョクを送ってくるわ…。」
[病院の廊下]
「ユジン、痩せたんじゃないのか?
あまり無理するなよ。お前が倒れたら元も子もないんだから。」
「分かってる。
…実はね、子供ができたの。
まだジュンサンには言っていないんだけど…。」
「えっ!子供って…?何でジュンサンに言わないの?
ユジン、体は大丈夫なのか?
前の時だって…結構辛そうだったじゃないか。
あんまり食べられないんだろう?」
「大丈夫よ。ちゃんと病院にも行っているし。
ちょうどジュンサンの調子が悪くなったころだったから、なんか言い出しそびれちゃって。ジュンサン、すぐ心配するから…。」
「ばかだなぁ。ユジンの事心配するのは当たり前じゃないか。
お母さんは知っているんだろう。」
「ええ、母にはすぐ言ったんだけど。」
「そうか。お母さんが一緒だから心配はないと思うけど、ジュンサンにも早く話さないと。」
「うん、分かってる。
…良かったわ、サンヒョクに会えて。じゃあ気をつけて。」
「体、大事にするんだぞ。また来るから…。」
[ジュンサンの病室]
「遅くなってごめんなさい。結局少し立ち話しちゃって。」
「ジュンサン、あのね、私あなたに謝らなくちゃいけないの。
…あの…。」
「うん?どうした、ユジン。何か言いにくいこと?」
「あのね…、赤ちゃんができたの。
黙っててごめんなさい。もうすぐ四ヵ月になるわ。」
「えっ!ユジン、本当?ほんとに?
何で黙ってたの?いい知らせなのに。ばかだなぁ、何を心配してたの?」
そう言うとジュンサンはユジンを抱き寄せた。
「おめでとう、ユジン。
…ありがとう…。こんなに嬉しいことはないよ。
…仕事と看護で疲れているのかと心配していたけど
…すこし痩せた?
つわりで辛いんだろう?ごめん、気付いてやれなくて。
体を大事にしなきゃ。先生にはもう診ていただいたの?」
「ええ、ちゃんと診ていただいているから、大丈夫。」
ジュンサンはユジンの体のことも考え、退院し「島の家」に移り住むことにした。
「ユジン、『島の家』に行こう。僕が病院にいたのでは、仕事と看護で君が参ってしまう。パクさんにも一緒に来てもらおう。家の方はヒジンさんとお母さんに任せて。
それから看護師さんに一人住み込んでもらって、君ももう産休にしたらいい。体を大事にしないと。
ね、そうしよう、ユジン。」