[時間が少しさかのぼり遡ります。フランスのパリに来たユジンのお話です。]
パリへ来て初めての夏が訪れた。
私は勉強の遅れを取り戻すため、夏休みの間もパリにいて休日返上で頑張るつもりだったが、大学の友人であるロザリーに「休みも必要よ」と誘われ彼女の実家のある海沿いの町に来ていた。
小さな町はとても静かで、パリでの生活が嘘のようにゆったりと時が流れていた。
ある日の夕方、砂浜をロザリーと二人で散策した。
夕日が波に映ってとても美しい。
遥かな島なみ
鈍色(にびいろ)の波の海(いい日旅立ちより)
「人気(ひとけ)のない海は寂しいけれども、どこか懐かしいわね。…」
「ユジンは、海に思い出があるのね。
ねえユジン、話してみない?お国のお友達には話せないことも、何も知らない私にだったらかえって話せるってこともあるんじゃない?
ユジンは、何かピンと張り詰めた糸の様な感じがするのよ。今にも切れてしまいそうな」
私はジュンサンと二人で過ごした海の日を思い出していた。
二人で訪れた初めての海。
あの日の海も美しかった。
一緒に見た夕日。
初めてけんかをしたのもあの時だった。
ジュンサンも覚えていてくれるわよね。
「私、好きな人がいるの、アメリカに。
交通事故の後遺症で、たぶん病院に入院していると思うわ」
「たぶんって、連絡取り合っていないの?その人はあなたのこと好きじゃないの?」
「いいえ、とても…深く愛してくれているわ」
私の頬を一筋の涙が伝って落ちた。
「彼は、ジュンサンは私を助けようをして事故にあったの。
アメリカに行ったのも私のためなの。
複雑に絡んで解けなくなった糸のようにいろんなことがあって、…私達何度も別れなければならなかったの」
私はジュンサンとの出会いと別れを話し始めた。
私はいつも間にか自分でも気付かぬうちに泣いていた。
涙は後から後からとめどもなく流れ落ち、頬を濡らした。
ロザリーがそっとハンカチを差し出してくれた。
「ごめんね、泣いたりして…」
「いいわよ。ここにはあなたの彼もサンヒョクさんもいないんだからイッパイ泣いたって大丈夫よ。
泣きたいときは、泣いた方がすっきりするじゃない。思いっきり泣いちゃいなさいよ」
「ありがとう、ロザリー」
「私、彼と愛し合っているのに別れなければならなかった時、辛くてこのまま死んでしまえたらと思うことが何度もあったわ。耐えられないって。
…でも、こうして生きてる。
だからね、今は、ひょっとして乗り越えられない試練なんてないんじゃないかって思えてきたの。
今も、もしジュンサンが死んだらって考えたらすごく怖い。でも私がここで頑張って元気に生きていればきっと大丈夫、ジュンサンも元気になれるって信じているの」
「ユジンは強いのね」
「ううん、まだ全然。
本当は…、今すぐにでも飛んで行きたいくらい会いたい。でも、まだ自信がないの。今会ったら帰れなくなって、泣いてばかりいたわたしに戻ってしまいそうで…。
そうしたら、またジュンサンを悲しませることになる。
私もっと強くなりたいの。
一人でも幸せになれるように。
私が幸せでないとジュンサンは幸せになれないから」
「ユジン、そんなに頑張んないで、会いに行けばいいのに」
「そうね、…行っちゃおうか?
会いに行くのに会いたいって事以外理由なんか要らないものね」
二人は顔を見合わせて微笑みあった。
砂浜でコインを拾った、あの日のように。
私は綺麗なビンに海の水、砂と一緒に拾ったコインと綺麗な貝殻を入れた。
ジュンサンへのプレゼント。
渡すあてのないプレゼント…。
届けたいな、何とかして…。
私は思案した。
〈そうだ、マルシアンのキム次長にお願いしよう。キム次長ならアメリカに仕事で行くことがあるだろう。〉
私は急いで手紙を書き小包にして送った。
母なる海の潮の香が
ジュンサンに命の息吹を与えてくれることを願って。
♪「びんの中の海」[高木あきこ作詞]
空っぽのビンに海の水詰めて
あなたの窓辺に届けたい
青い波のささやきと魚たちの子守唄
一緒に詰めて送りたい
海へ行けないあなたのために
小さなビンをあなたが開けると
海は香ってあふれ出し・・・
ひたひたと あなたの部屋を満たすだろう
あなたは海の風の中で光り輝く沖を見る
海はあなたに限りない命を分けてくれるだろう
いま
私の手のひらで
虹色にきらめいてゆれている
思い出の海 あの日の海よ…
パリへ来て初めての夏が訪れた。
私は勉強の遅れを取り戻すため、夏休みの間もパリにいて休日返上で頑張るつもりだったが、大学の友人であるロザリーに「休みも必要よ」と誘われ彼女の実家のある海沿いの町に来ていた。
小さな町はとても静かで、パリでの生活が嘘のようにゆったりと時が流れていた。
ある日の夕方、砂浜をロザリーと二人で散策した。
夕日が波に映ってとても美しい。
遥かな島なみ
鈍色(にびいろ)の波の海(いい日旅立ちより)
「人気(ひとけ)のない海は寂しいけれども、どこか懐かしいわね。…」
「ユジンは、海に思い出があるのね。
ねえユジン、話してみない?お国のお友達には話せないことも、何も知らない私にだったらかえって話せるってこともあるんじゃない?
ユジンは、何かピンと張り詰めた糸の様な感じがするのよ。今にも切れてしまいそうな」
私はジュンサンと二人で過ごした海の日を思い出していた。
二人で訪れた初めての海。
あの日の海も美しかった。
一緒に見た夕日。
初めてけんかをしたのもあの時だった。
ジュンサンも覚えていてくれるわよね。
「私、好きな人がいるの、アメリカに。
交通事故の後遺症で、たぶん病院に入院していると思うわ」
「たぶんって、連絡取り合っていないの?その人はあなたのこと好きじゃないの?」
「いいえ、とても…深く愛してくれているわ」
私の頬を一筋の涙が伝って落ちた。
「彼は、ジュンサンは私を助けようをして事故にあったの。
アメリカに行ったのも私のためなの。
複雑に絡んで解けなくなった糸のようにいろんなことがあって、…私達何度も別れなければならなかったの」
私はジュンサンとの出会いと別れを話し始めた。
私はいつも間にか自分でも気付かぬうちに泣いていた。
涙は後から後からとめどもなく流れ落ち、頬を濡らした。
ロザリーがそっとハンカチを差し出してくれた。
「ごめんね、泣いたりして…」
「いいわよ。ここにはあなたの彼もサンヒョクさんもいないんだからイッパイ泣いたって大丈夫よ。
泣きたいときは、泣いた方がすっきりするじゃない。思いっきり泣いちゃいなさいよ」
「ありがとう、ロザリー」
「私、彼と愛し合っているのに別れなければならなかった時、辛くてこのまま死んでしまえたらと思うことが何度もあったわ。耐えられないって。
…でも、こうして生きてる。
だからね、今は、ひょっとして乗り越えられない試練なんてないんじゃないかって思えてきたの。
今も、もしジュンサンが死んだらって考えたらすごく怖い。でも私がここで頑張って元気に生きていればきっと大丈夫、ジュンサンも元気になれるって信じているの」
「ユジンは強いのね」
「ううん、まだ全然。
本当は…、今すぐにでも飛んで行きたいくらい会いたい。でも、まだ自信がないの。今会ったら帰れなくなって、泣いてばかりいたわたしに戻ってしまいそうで…。
そうしたら、またジュンサンを悲しませることになる。
私もっと強くなりたいの。
一人でも幸せになれるように。
私が幸せでないとジュンサンは幸せになれないから」
「ユジン、そんなに頑張んないで、会いに行けばいいのに」
「そうね、…行っちゃおうか?
会いに行くのに会いたいって事以外理由なんか要らないものね」
二人は顔を見合わせて微笑みあった。
砂浜でコインを拾った、あの日のように。
私は綺麗なビンに海の水、砂と一緒に拾ったコインと綺麗な貝殻を入れた。
ジュンサンへのプレゼント。
渡すあてのないプレゼント…。
届けたいな、何とかして…。
私は思案した。
〈そうだ、マルシアンのキム次長にお願いしよう。キム次長ならアメリカに仕事で行くことがあるだろう。〉
私は急いで手紙を書き小包にして送った。
母なる海の潮の香が
ジュンサンに命の息吹を与えてくれることを願って。
♪「びんの中の海」[高木あきこ作詞]
空っぽのビンに海の水詰めて
あなたの窓辺に届けたい
青い波のささやきと魚たちの子守唄
一緒に詰めて送りたい
海へ行けないあなたのために
小さなビンをあなたが開けると
海は香ってあふれ出し・・・
ひたひたと あなたの部屋を満たすだろう
あなたは海の風の中で光り輝く沖を見る
海はあなたに限りない命を分けてくれるだろう
いま
私の手のひらで
虹色にきらめいてゆれている
思い出の海 あの日の海よ…