[ユジンの卒業研究論文を提出した後、二人は韓国に帰国した。
通勤・通院の便を考え、マルシアンの近くのマンションに新居を構えることとした。
また、キム次長の尽力により外島に土地を確保し建築の進んでいた『不可能の家』は秋の終わりにできあがった。
ユジンとジュンサンはこの家を『島の家』と呼ぶことにした。
そして今日は…。]
『島の家』に初冬の暖かな日差しが降り注いでいる。
ユジンとジュンサンの結婚式の日だ。
[当日の朝。『島の家』の一室。ユジンの母とミヒ、イ氏の会話]
「ユジンさんのお母様、お体の調子はいかがですか。
お疲れではありませんか。」
「はい、ありがとうございます。
ご心配をおかけしまして申し訳ありません。
このごろはだいぶ良いのです。
ミニョンさんのお父様、お母様、いろいろとありがとうございました。
私はこんな体ですし、近くに居りましてもなんの力もございません。
ほんとうに何から何まで面倒を見ていただき、なんとお礼申し上げたらよいか、ありがとうございました。」
「いいえ、息子に大事なご長女をいただきありがとうございます。
ミニョンはユジンさんのおかげで生きる気力も自分の人生も取り戻すことが出来ました。
私共はアメリカに居りますので、これからはどうぞ二人の力になってやってください。お願いいたします。」
[式の前日 夜 ユジンの部屋]
「お母さん、疲れてない?」
「大丈夫よ。あなたこそ休まないと、花嫁さんがくたびれた顔をしていたんでは困るわ。
「うん、わかってる。」
「ユジン…、あなた、とっても綺麗になったわ。
…これでよかったのね。」
母はユジンの顔をじっと見つめて頷いていた。
「ジュンサンのことを考えると、正直少し心配だったの。
でも、杞憂(きゆう)だったようね。
あなたは昔からいつもどこか寂しげなところがあったけれど…、もう大丈夫ね。
ジュンサンを大切に…。」
「ありがとう、お母さん。」
『島の家』にはすでにほとんどの出席者が到着していた。
控え室ではパクさんとヒジンが客に茶を振舞っていた。
サンヒョクの一家だけが、まだ来ていなかった。
[ユジンの控え室]
「ユジン、綺麗よ。
ま、ドレスがいいからね。
私もずいぶん腕を上げたと自分でも思うわ。」
「チェリンたら、相変わらず言うわね。」
「ジンスク、冗談よ。
ユジンが綺麗なのは、ジュンサンの花嫁になるからよ。
決まってるじゃない。
ね、ユジン。いろいろあったけれど、おめでとう。
でも今日がゴールじゃないのよ。
負けないで幸せになってね。」
「ありがとう、チェリン、ジンスク。」
玄関ではイ氏とミヒがサンヒョク一家の到着を待っていた。
「キムさん、よくお出でくださいました。奥様も。
お会いできて、本当に嬉しく思っております。
サンヒョクさんも良くお出でくださいました。」
イ氏とミヒはジヌとチヨン、サンヒョクをを出迎えた。
「奥様、お出でになった早々ですが、お庭をご案内いたしますがいかがですか。
ミヒ、パクさんに控え室とは別の部屋にお茶を用意しておいてくれるように頼んでくれ。
奥様を少しご案内してくる。さあ、どうぞ。」
[庭園]
「奥様、いきなりお連れして申し訳ありません。
二人でお話がしたかったのです。
今日はお出でくださって本当にありがとうございました。
奥様にはお出でいただけないかもしれないと、それでも仕方がないと思っておりました。
ミニョンの為にユジンさんとサンヒョクさんの結婚がだめになってしまい、あまつさえミニョンの存在が奥様を苦しめることになってしまいました。
本当になんとお詫びを申し上げればいいかわかりません。
どうぞ、ミヒとミニョンをお許しください。」
「ミニョンさんのお父様、どうぞ頭をお上げください。
私も、ミニョンさんが夫とミヒさんの子供と知ってからはずいぶん苦しい日々を過ごしてまいりました。
昔の事だと、結婚前のことをいまさら言っても、と頭では理解できても心が納得できませんでした。
ユジンとサンヒョクとのこともあって、どうしても受け入れることが出来なかったのです。
結局、時間が私にとっては一番に薬になりました。
息子が、サンヒョクが懸命に立ち直ろうと、ユジンの為にも私達の為にも自分がいつまでも過去に囚われて(とらわれて)いてはいけないと頑張っているのに、親の私が夫の過去を責め続けているのは愚かなことだとようやく気付きました。
結婚以来、夫は私に対していつも誠実で優しい人でした。
その夫に守られて幸せに暮らしてきましたのに、そのことを忘れてしまうところでした。
自分のこれまでの人生を否定してしまうところでした。
ミニョンさんのお父様、今日は本当におめでとうございます。」
「奥様、ありがとうございます。
何より嬉しいお言葉です。
さ、中でお茶の用意が出来ております。まいりましよう。」
[島の家の一室 ジヌとミヒが向き合ってお茶を飲んでいる]
「奥様よく来てくださったわ。
あなたにはずいぶん迷惑をかけてしまいました。
謝って済むことではないけれど…、本当にごめんなさい。
それから、いままでありがとう。」
「ミヒ…。
もとはといえば私の過ちから出たことなのだ。
知らなかった事とはいえ、君にも子供たちにも妻にも悲しい辛い思いをさせることになってしまった。
私こそ申し訳ないと思っている。
サンヒョクも落ち着いてきて仕事に頑張っているよ。
チヨンもそれを見て分かってくれたようだ。
今日ここへ来ることにはさすがに躊躇(ためら)いもあったようだが、この機会を逃しては、ユジンのお母さんや皆さんとの蟠(わだかま)りを解く機会を失ってしまうと思ってね。
ミヒ、君もいいご主人に出会ってよかった。」
「…ええ、本当に立派な人よ。
それなのに…、私は長い間彼に心を開くことができなかった。
ヒョンスへの想いに囚われて…。
いつまでも心を閉ざしている私に、さすがの夫もいつしか冷たくなっていったわ。私はそれでも構わなかった。
ミニョンの父であってくれさえすれば。勝手な人間よね、私って。
夫はミニョンのことを実の子のように愛してくれて、いつも良い父親だった。
だから…、ミニョンが病気でアメリカへ戻ってくることになって、私たちはいやでも向き合わざるをえなくなってしまったの。
それでやっとわかったの。
結局、私は自分ひとりで生きているつもりで、いつの間にか夫に甘えて暮らしていたのよ。
今やっと…本当の夫婦になれた様な気がするわ。」
[ジュンサンの控え室]
「ジュンサン、おめでとう。」
「サンヒョク、来てくれたんだね。
帰国してから忙しくて会いにいけなくてごめん。」
「いや、こっちから行かなきゃ行けなかったんだが…。」
「こいつ出世したから、最近忙しくて俺のところにもめったに顔出さないんだぜ。」
「ヨングク、申し訳ない。今度一緒にジュンサンのところへお邪魔しようよ。」
「おっ、そうだな。いいだろう、ジュンサン?」
「もちろん、待ってるよ。」
「ジュンサン、花嫁さんが出来上がったわよ、見に来る?
あら、サンヒョクもここにいたのね。三人でお出でよ。」
[ユジンの控え室]
「ユジン、花婿さんを連れてきたわよ。」
ジュンサンとヨングク、サンヒョクがユジンの控え室にやってきた。
「ね、綺麗でしょ。
ヨングク、サンヒョクも、そんな羨ましそうな顔してうっとり見ているんじゃないの。」
「ユジン、ちょっと外へ出よう。」
「もうすぐ式が始まる時間よ。」
「すぐ戻るから…。」
ついていこうとするジンスクとチェリンをヨングクが引き止めた。
「二人だけにしてやれよ。」
「そっか…。」
もう屋内ではジュンサンはあまり見えなくなっていたのだ。
ユジンの姿と二人で造った『島の家』を記憶に留めておきたかった。
「ユジン…、綺麗だよ。」
「ありがとう、ジュンサン。
これ、あなたに着けて貰いたかったのだけど、お願いしていい?」
ポラリスのネックレスだった。
「ああ、出来るといいけど…。」
「ありがとう。」
しばらくすると
「ほら~、いつまで外にいるの~。
花婿と花嫁がいなくちゃ式が始まらないわよ~。」
ジンスクの声がした。
「ごめん、今戻るわ。あ…。」
ユジンの頬に冷たいものが触れた。
「ジュンサン、雪よ…。」
二人は天を振り仰いだ。
二人を祝福するように初雪が舞い降りてきていた。
通勤・通院の便を考え、マルシアンの近くのマンションに新居を構えることとした。
また、キム次長の尽力により外島に土地を確保し建築の進んでいた『不可能の家』は秋の終わりにできあがった。
ユジンとジュンサンはこの家を『島の家』と呼ぶことにした。
そして今日は…。]
『島の家』に初冬の暖かな日差しが降り注いでいる。
ユジンとジュンサンの結婚式の日だ。
[当日の朝。『島の家』の一室。ユジンの母とミヒ、イ氏の会話]
「ユジンさんのお母様、お体の調子はいかがですか。
お疲れではありませんか。」
「はい、ありがとうございます。
ご心配をおかけしまして申し訳ありません。
このごろはだいぶ良いのです。
ミニョンさんのお父様、お母様、いろいろとありがとうございました。
私はこんな体ですし、近くに居りましてもなんの力もございません。
ほんとうに何から何まで面倒を見ていただき、なんとお礼申し上げたらよいか、ありがとうございました。」
「いいえ、息子に大事なご長女をいただきありがとうございます。
ミニョンはユジンさんのおかげで生きる気力も自分の人生も取り戻すことが出来ました。
私共はアメリカに居りますので、これからはどうぞ二人の力になってやってください。お願いいたします。」
[式の前日 夜 ユジンの部屋]
「お母さん、疲れてない?」
「大丈夫よ。あなたこそ休まないと、花嫁さんがくたびれた顔をしていたんでは困るわ。
「うん、わかってる。」
「ユジン…、あなた、とっても綺麗になったわ。
…これでよかったのね。」
母はユジンの顔をじっと見つめて頷いていた。
「ジュンサンのことを考えると、正直少し心配だったの。
でも、杞憂(きゆう)だったようね。
あなたは昔からいつもどこか寂しげなところがあったけれど…、もう大丈夫ね。
ジュンサンを大切に…。」
「ありがとう、お母さん。」
『島の家』にはすでにほとんどの出席者が到着していた。
控え室ではパクさんとヒジンが客に茶を振舞っていた。
サンヒョクの一家だけが、まだ来ていなかった。
[ユジンの控え室]
「ユジン、綺麗よ。
ま、ドレスがいいからね。
私もずいぶん腕を上げたと自分でも思うわ。」
「チェリンたら、相変わらず言うわね。」
「ジンスク、冗談よ。
ユジンが綺麗なのは、ジュンサンの花嫁になるからよ。
決まってるじゃない。
ね、ユジン。いろいろあったけれど、おめでとう。
でも今日がゴールじゃないのよ。
負けないで幸せになってね。」
「ありがとう、チェリン、ジンスク。」
玄関ではイ氏とミヒがサンヒョク一家の到着を待っていた。
「キムさん、よくお出でくださいました。奥様も。
お会いできて、本当に嬉しく思っております。
サンヒョクさんも良くお出でくださいました。」
イ氏とミヒはジヌとチヨン、サンヒョクをを出迎えた。
「奥様、お出でになった早々ですが、お庭をご案内いたしますがいかがですか。
ミヒ、パクさんに控え室とは別の部屋にお茶を用意しておいてくれるように頼んでくれ。
奥様を少しご案内してくる。さあ、どうぞ。」
[庭園]
「奥様、いきなりお連れして申し訳ありません。
二人でお話がしたかったのです。
今日はお出でくださって本当にありがとうございました。
奥様にはお出でいただけないかもしれないと、それでも仕方がないと思っておりました。
ミニョンの為にユジンさんとサンヒョクさんの結婚がだめになってしまい、あまつさえミニョンの存在が奥様を苦しめることになってしまいました。
本当になんとお詫びを申し上げればいいかわかりません。
どうぞ、ミヒとミニョンをお許しください。」
「ミニョンさんのお父様、どうぞ頭をお上げください。
私も、ミニョンさんが夫とミヒさんの子供と知ってからはずいぶん苦しい日々を過ごしてまいりました。
昔の事だと、結婚前のことをいまさら言っても、と頭では理解できても心が納得できませんでした。
ユジンとサンヒョクとのこともあって、どうしても受け入れることが出来なかったのです。
結局、時間が私にとっては一番に薬になりました。
息子が、サンヒョクが懸命に立ち直ろうと、ユジンの為にも私達の為にも自分がいつまでも過去に囚われて(とらわれて)いてはいけないと頑張っているのに、親の私が夫の過去を責め続けているのは愚かなことだとようやく気付きました。
結婚以来、夫は私に対していつも誠実で優しい人でした。
その夫に守られて幸せに暮らしてきましたのに、そのことを忘れてしまうところでした。
自分のこれまでの人生を否定してしまうところでした。
ミニョンさんのお父様、今日は本当におめでとうございます。」
「奥様、ありがとうございます。
何より嬉しいお言葉です。
さ、中でお茶の用意が出来ております。まいりましよう。」
[島の家の一室 ジヌとミヒが向き合ってお茶を飲んでいる]
「奥様よく来てくださったわ。
あなたにはずいぶん迷惑をかけてしまいました。
謝って済むことではないけれど…、本当にごめんなさい。
それから、いままでありがとう。」
「ミヒ…。
もとはといえば私の過ちから出たことなのだ。
知らなかった事とはいえ、君にも子供たちにも妻にも悲しい辛い思いをさせることになってしまった。
私こそ申し訳ないと思っている。
サンヒョクも落ち着いてきて仕事に頑張っているよ。
チヨンもそれを見て分かってくれたようだ。
今日ここへ来ることにはさすがに躊躇(ためら)いもあったようだが、この機会を逃しては、ユジンのお母さんや皆さんとの蟠(わだかま)りを解く機会を失ってしまうと思ってね。
ミヒ、君もいいご主人に出会ってよかった。」
「…ええ、本当に立派な人よ。
それなのに…、私は長い間彼に心を開くことができなかった。
ヒョンスへの想いに囚われて…。
いつまでも心を閉ざしている私に、さすがの夫もいつしか冷たくなっていったわ。私はそれでも構わなかった。
ミニョンの父であってくれさえすれば。勝手な人間よね、私って。
夫はミニョンのことを実の子のように愛してくれて、いつも良い父親だった。
だから…、ミニョンが病気でアメリカへ戻ってくることになって、私たちはいやでも向き合わざるをえなくなってしまったの。
それでやっとわかったの。
結局、私は自分ひとりで生きているつもりで、いつの間にか夫に甘えて暮らしていたのよ。
今やっと…本当の夫婦になれた様な気がするわ。」
[ジュンサンの控え室]
「ジュンサン、おめでとう。」
「サンヒョク、来てくれたんだね。
帰国してから忙しくて会いにいけなくてごめん。」
「いや、こっちから行かなきゃ行けなかったんだが…。」
「こいつ出世したから、最近忙しくて俺のところにもめったに顔出さないんだぜ。」
「ヨングク、申し訳ない。今度一緒にジュンサンのところへお邪魔しようよ。」
「おっ、そうだな。いいだろう、ジュンサン?」
「もちろん、待ってるよ。」
「ジュンサン、花嫁さんが出来上がったわよ、見に来る?
あら、サンヒョクもここにいたのね。三人でお出でよ。」
[ユジンの控え室]
「ユジン、花婿さんを連れてきたわよ。」
ジュンサンとヨングク、サンヒョクがユジンの控え室にやってきた。
「ね、綺麗でしょ。
ヨングク、サンヒョクも、そんな羨ましそうな顔してうっとり見ているんじゃないの。」
「ユジン、ちょっと外へ出よう。」
「もうすぐ式が始まる時間よ。」
「すぐ戻るから…。」
ついていこうとするジンスクとチェリンをヨングクが引き止めた。
「二人だけにしてやれよ。」
「そっか…。」
もう屋内ではジュンサンはあまり見えなくなっていたのだ。
ユジンの姿と二人で造った『島の家』を記憶に留めておきたかった。
「ユジン…、綺麗だよ。」
「ありがとう、ジュンサン。
これ、あなたに着けて貰いたかったのだけど、お願いしていい?」
ポラリスのネックレスだった。
「ああ、出来るといいけど…。」
「ありがとう。」
しばらくすると
「ほら~、いつまで外にいるの~。
花婿と花嫁がいなくちゃ式が始まらないわよ~。」
ジンスクの声がした。
「ごめん、今戻るわ。あ…。」
ユジンの頬に冷たいものが触れた。
「ジュンサン、雪よ…。」
二人は天を振り仰いだ。
二人を祝福するように初雪が舞い降りてきていた。