いつだったか…、
それはジュンサンお兄ちゃんが死んだと聞かされた後の事だったと思う…。
お姉ちゃんの部屋を覗くと、いつものように絵を描いていた。
お姉ちゃんは写生が得意だから、何かを見ながら描くことが多いのに、(私も時々モデルをさせられて大変な目にあう)その日はそうじゃなかった。
お姉ちゃんの手が、一時も休むことなく紙の上を走っている。
お姉ちゃんはいったい何の絵を描いているんだろう?
お姉ちゃんは描いている手を休めると、今度はじっとその絵を見つめている。
〝ポトリ〟
お姉ちゃんの手からペンが落ちた。
肩が小刻みに震えている。
私はお姉ちゃんに声がかけられなくなってしまっていた。
私は、音を立てないようにそっとドアを閉めた。
私が向こうの部屋へ行こうとすると、
ドアの向こうからお姉ちゃんの声が聞こえてきた。
ジュンサン、サンヒョクは忘れろというの。早く忘れて元気になれって。ジュンサンのことを想っていても辛いだけだからって。
でも、私は忘れられない。
ううん、忘れたくないの、あなたのこと。
一つも忘れたくない。
あなたの声。
あなたの笑顔。
あなたの息づかいさえも。
辛くてもいいの、ううん、そうじゃない、辛いままでいたいの。
あなたのことを好きな私のままでいたいの。
これからもずっと。
だから…あなたを描いた。忘れないように。
あなたは私に写真の一枚も残してくれなかったじゃない。
さよならも言わないで…
酷(ひど)い人…
でも、許してあげる。
カセットテープをくれたから。
そういえばプレゼントのお礼をまだ言ってなかったわね。
ありがとう。
ジュンサン、あなたのこと覚えていていいでしょう?
あなたのこと、好きなままでいていいでしょう?
それ以来、お姉ちゃんが絵筆を取ることはなかった。
恋うるとは 何かも知らず あの日から
悲しみだけは 知ってしまった
好きなのに なぜか悲しい 微笑を
うかべるだけの 人になりたり
お姉ちゃん 私を置いて いかないで!
ママと私を さみしくしないで