「やっぱりあなたが弾いてくれたほうがずっといいわ。」
〈おかしいな、よほどの大声で話していない限り外には聞こえないはずなのに。
大体こんな時間にユジンは誰と話しているんだ?〉
静かにドアが開くのをユジンは気付いていない。
放送室に流れる音楽に身を委ねている。
眼を軽く閉じているユジンの体は、メロディーにあわせてゆっくりと揺らいでいた。
〈さっきの話し声はなんだったんだ?〉
僕はふと、ユジンの姿が消えてしまうような錯覚を覚えた。
〈ユジンはジュンサンと話していたのか?ジュンサン、ユジンまで連れて行くな!〉
「ユジン、こんなに朝早くどうしたの?珍しいじゃないか。」
僕は波立つ心を押し隠して話しかけた。
ユジンははっとしたように振り返り
「ああ、サンヒョク。おはよう。
勉強しようと思って早く来たんだけど、なんか久しぶりに放送室で音楽が聞きたくなって。
サンヒョクこそどうしたの?」
ユジンは明らかに狼狽していた。
「放送部の引継ぎ資料を取りに来たんだ。朝のうちに後輩に渡す約束をしていたから。」
僕は何気なくユジンから目を逸(そ)らしながら答えた。
[その日の昼休み]
「ヨングク、ジンスク、相談があるんだ。ちょっといいかな。屋上へ行こうか。」
「何だよサンヒョク。皆に聞かれちゃ困る話か?」
「教室ではちょっと…。
ユジンのことなんだ。
二人とも、最近のユジン、ちょっと変だと思わないか。
遅刻もしなくなったし、一人でいることが多くて皆としゃべらないし…。」
「そうかな?サンヒョク考えすぎじゃない?
そりゃ、部活動もなくなったし、ヒジンちゃんを遅くまで一人にしておけないからユジンだけ補習に出ないで早く帰るでしょ。前よりは一緒にいる時間が減ったけど、私は元気になってよかったなって思っていたんだけど。ね、ヨングク。」
「そうだな、前よりは静かになったかもしれないけど、あんなことがあったわけだし、ユジンも大人になったって事じゃないの?
それとも、サンヒョクなにか気になることでもあったか?」
僕は一瞬躊躇(ちゅうちょ)したが、今朝あったことを二人に話した。
「ジュンサンの亡霊を見てしまったようで、背筋が凍ったよ。
まさか、ユジンがジュンサンの後を追うようなことはないと思うが、なんか不安なんだ。
僕の思い過ごしならいいんだけど。
なあ、ヨングク、ジンスク、ユジンが一人きりにならないように、協力してくれないか。
なるべく声をかけてやって欲しいんだ。頼むよ。」
「そうだな、ユジンがまだ立ち直れるわけないよ。
皆に心配かけまいと気を張っているんだ。せめて俺たちだけでもわかってやらないとな。」
「そうだね。サンヒョク、心配しないで、私も協力するから。
それにしてもユジン、何で私に何も言ってくれないのかなぁ。水臭いよ、友達なのに。」
それからしばらくの間、僕は朝ユジンを迎えに行くようになった。
「サンヒョク、小学生じゃあるまいし、毎朝迎えに来なくてもいいわよ。一体どうしたの?」
「いや、別になんとなく。
最近顔をあわせること少なくなったからさ、朝ぐらい一緒に行こうかなと思って。」
「同じクラスで一緒に授業受けていて顔をあわせてないって?
全く、なんなの?変なサンヒョク!勉強のしすぎじゃないの。」
ユジンは苦笑していた。
「そういえばそうだ。でも、迷惑じゃなかったら、もうしばらく朝一緒に行こうよ。いいだろう?」
「別に迷惑じゃないけど、またチェリンに『付き合ってる』なんて冷やかされるわよ。」
今思えば、ユジンはその時そっとしておいて欲しかったに違いない。
それなのに、僕は自分の不安な気持ちに囚(とら)われていて、彼女の心を慮(おもんばか)ることができなかった。
〈おかしいな、よほどの大声で話していない限り外には聞こえないはずなのに。
大体こんな時間にユジンは誰と話しているんだ?〉
静かにドアが開くのをユジンは気付いていない。
放送室に流れる音楽に身を委ねている。
眼を軽く閉じているユジンの体は、メロディーにあわせてゆっくりと揺らいでいた。
〈さっきの話し声はなんだったんだ?〉
僕はふと、ユジンの姿が消えてしまうような錯覚を覚えた。
〈ユジンはジュンサンと話していたのか?ジュンサン、ユジンまで連れて行くな!〉
「ユジン、こんなに朝早くどうしたの?珍しいじゃないか。」
僕は波立つ心を押し隠して話しかけた。
ユジンははっとしたように振り返り
「ああ、サンヒョク。おはよう。
勉強しようと思って早く来たんだけど、なんか久しぶりに放送室で音楽が聞きたくなって。
サンヒョクこそどうしたの?」
ユジンは明らかに狼狽していた。
「放送部の引継ぎ資料を取りに来たんだ。朝のうちに後輩に渡す約束をしていたから。」
僕は何気なくユジンから目を逸(そ)らしながら答えた。
[その日の昼休み]
「ヨングク、ジンスク、相談があるんだ。ちょっといいかな。屋上へ行こうか。」
「何だよサンヒョク。皆に聞かれちゃ困る話か?」
「教室ではちょっと…。
ユジンのことなんだ。
二人とも、最近のユジン、ちょっと変だと思わないか。
遅刻もしなくなったし、一人でいることが多くて皆としゃべらないし…。」
「そうかな?サンヒョク考えすぎじゃない?
そりゃ、部活動もなくなったし、ヒジンちゃんを遅くまで一人にしておけないからユジンだけ補習に出ないで早く帰るでしょ。前よりは一緒にいる時間が減ったけど、私は元気になってよかったなって思っていたんだけど。ね、ヨングク。」
「そうだな、前よりは静かになったかもしれないけど、あんなことがあったわけだし、ユジンも大人になったって事じゃないの?
それとも、サンヒョクなにか気になることでもあったか?」
僕は一瞬躊躇(ちゅうちょ)したが、今朝あったことを二人に話した。
「ジュンサンの亡霊を見てしまったようで、背筋が凍ったよ。
まさか、ユジンがジュンサンの後を追うようなことはないと思うが、なんか不安なんだ。
僕の思い過ごしならいいんだけど。
なあ、ヨングク、ジンスク、ユジンが一人きりにならないように、協力してくれないか。
なるべく声をかけてやって欲しいんだ。頼むよ。」
「そうだな、ユジンがまだ立ち直れるわけないよ。
皆に心配かけまいと気を張っているんだ。せめて俺たちだけでもわかってやらないとな。」
「そうだね。サンヒョク、心配しないで、私も協力するから。
それにしてもユジン、何で私に何も言ってくれないのかなぁ。水臭いよ、友達なのに。」
それからしばらくの間、僕は朝ユジンを迎えに行くようになった。
「サンヒョク、小学生じゃあるまいし、毎朝迎えに来なくてもいいわよ。一体どうしたの?」
「いや、別になんとなく。
最近顔をあわせること少なくなったからさ、朝ぐらい一緒に行こうかなと思って。」
「同じクラスで一緒に授業受けていて顔をあわせてないって?
全く、なんなの?変なサンヒョク!勉強のしすぎじゃないの。」
ユジンは苦笑していた。
「そういえばそうだ。でも、迷惑じゃなかったら、もうしばらく朝一緒に行こうよ。いいだろう?」
「別に迷惑じゃないけど、またチェリンに『付き合ってる』なんて冷やかされるわよ。」
今思えば、ユジンはその時そっとしておいて欲しかったに違いない。
それなのに、僕は自分の不安な気持ちに囚(とら)われていて、彼女の心を慮(おもんばか)ることができなかった。