紫陽花記

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別館★写真と俳句「めいちゃところ」

21 募集

2021-10-03 08:13:08 | 夢幻(イワタロコ)


「あなたも参加しませんか」
 新聞折り込み広告。昼食を共にする『袖擦り合う会』合コンの参加募集だ。会長名が翁山重仁とある。当日飛び入り参加も可。年齢は六十五歳から上は無制限。会場、公民館。
「祖母ちゃん、参加してみたら」
「いやだよ。そんなこと」
 俺の勧めにさんざん尻込みをしていた八十四歳の祖母が、日曜当日の朝化粧を始めた。
「すまないが頬紅を貸してよ」
 お袋の化粧品を借りたりして念入りだ。珍しく紬の着物を着た。
「悪いけど、車で連れていっておくれ」
 公民館に送って行くと、二十人ほどの老男老女が集まっていた。みんな着飾っている。

 夕方迎えに行くと、どの老人もほんのり頬を染めている。酒を飲んだからか、会場が温かだったからか、それとも特別な何かがあったからなのか。
「それがさぁ、いいものよねぇ、歳を重ねるってことは」
 助手席の祖母の両頬に小さな窪みが出来た。
「なんかいいことでもあったの」
「男の若い順に座った隣へ、女の年上から順に座って下さいって、会長さんが。うふふ。ほら、金物屋の旦那。六十五になったばかりだってさ。その隣が私なのよ。商売人だからね、口八丁手八丁で楽しいのなんのって」
 祖母は思い出し笑いを続ける。
「祖母ちゃん、次も当然参加だね」
「そうさね。いつ死ぬか分からないから、うんと楽しまなきゃあ。募集があったらいくよ。それよりお前の方はどうなんだね」
「えっ、な、なにが……」
 彼女募集中の俺は、ハンドルを握りしめた。



著書「夢幻」収録済みの「イワタロコ」シリーズです。
楽しんで頂けたら嬉しいです。


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