樹齢七百五十年の太郎杉の下。俺は杉の大木を見上げた。
突然、『懺悔』の気持ちが沸き上がった。
三月の下旬。水戸偕楽園の梅は満開。一緒に来た彼女は、吐玉泉から眼下の千波湖方面を眺めている。
杉の太い幹に両手を回した。温かい。目を閉じ、全神経を大木に向ける。
小学生の頃、飼い猫が産んだ子猫を、空の菓子箱に載せて小川に流した。増えるのを防ぐためとはいえ、親の言いつけとはいえ、自分の意志ではないとはいえ、あの子猫たちが生き長らえたとは思えない。
飼っていたウサギが逃げてしまい犬に襲われた。母の料理したその肉を、一切れ食べて旨いと思ってしまった。
中学生の時。現在地に引っ越す時だ。インコを入れた二個の鳥籠を玄関脇に重ねておいた。風にあおられてひっくり返った。五羽のインコは三月の寒空に飛び去って行った。あの後、餌を取ることが出来たのだろうか。
懺悔をそこまで続けた時彼女が振り返った。
「ねえー、湖まで下りない」
「いいよ」
俺は幹に手を当てたまま、『今日の懺悔はここまでです』と呟いた。
彼女はボートに乗りたいと言う。水上は苦手だが力を込めてオールを漕ぐ。湖面から好文亭の左方向を見る。一際高い森がある。
「気持ちがいいわぁ」
彼女は手を伸ばして湖面を叩いた。
ボートが傾いた。あの菓子箱に乗った子猫を思い出した。
「恐がりねぇ」
彼女が笑った。俺はあの杉の下に戻り、懺悔を続けなければならないと思った。
著書「夢幻」収録済みの「イワタロコ」シリーズです。
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