都庁第二庁舎前の三十階建てのビル。以前来たことのある新宿モノリスビルの隣だ。
迷うことなく来ることが出来た。入っていくと、フロアーが薄暗い中に広がっている。真上に吹き抜けている空間の壁に、大時計が長い針を動かしていた。
私は三階にある東洋医学研究所を探した。
三年前の夏エアコンで冷やした体。それからずうっと左半身が痛く、悩まされていた。新聞の記事で知った鍼灸を、試してみようと思ったのだ。電話予約をしていたので、十一時前には受付を済ませるつもりだ。
吹き抜けを取り巻くように通路が続いていた。所々にあるドアにはそれぞれの事業所の名称がある。確かめながら歩いていると東洋医学研究所の文字があって、矢印が見えた。
「あらあったわ。ここだわ」と言いながら八十歳位のおばぁさんが私の前を遮った。矢印に沿って歩いていく。おばぁさんは少し足を引き摺っている。きっと神経痛か何かなのだろう。
前を歩くおばぁさんは早足だ。私は当然のように続いた。何度か矢印の赤色が目の端を通り過ぎた。
長時間歩いたような気がする。時計を見ようとしたが、私の腕には時計がない。
おばぁさんはトイレに入った。
私はトイレの入り口で待つことにした。
いつまでもおばぁさんは出て来ない。いい加減待ってから私は、なぜあのおばぁさんを待っているのだろうと思った。おかしな先入観で後に従って歩いていたのかもしれない。
東洋医学研究所の受付に立った時、すでに待合室の壁の時計が午後三時を過ぎていた。
私は、おばぁさんの狸のような目を思いだした。
疲れと、空腹が押し寄せて来た。
★著書「風に乗って」から、シリーズ「風に乗って」17作をお送りしています。楽しんで頂けたら幸いです。
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