181205 森林経営管理法(その3) <経営管理実施権配分計画と所有者不明森林等への対応>
今日も引き続き、このタイトルで連載します。昨日の小見出しと同じになりましたが、昨日やるつもりがここまでたどり着かず、今日やります。で、昨日のブログタイトルは内容にそった小見出しに変更しました。
今日も同じファイル<森林経営管理制度(森林経営管理法)について>に基づいて話を進めます。
<経営管理権集積計画(経営管理実施権配分計画)の作成>というこの制度の中心軸ですが、まだはっきりした中身が固まっていないようです。骨子は上記に基づけば次のとおりですね。計画に記載すべき事項が指摘されています。
① 経営管理(実施)権の対象となる森林の所在
② 森林所有者の氏名又は民間事業者の氏名若しくは名称
③ 設定する経営管理(実施)権の始期、存続期間
④ 経営管理の内容
⑤ 伐採後の造林及び保育の方法
⑥ 森林所有者及び市町村に支払う金額の算定方法等
この場合、主伐の場合と利用間伐を複数回する場合で、権利設定の内容が異なることになります。当然でしょうか。重要な点は、繰り返し指摘されていますが、森林所有者の意向等に応じてその選択判断を行うということです。勝手に一方的になんてことは社会主義国でないわが国ではあり得ませんが、計画策定手続の形骸化が問題になるケースでは、はたして民主的な手続が適切になされているか疑問なしとしませんね。その意味で計画内容が理解できる程度に明確で根拠があることが必要でしょう。
興味深いのは農地の賃借権と比較されていて、この制度は森林の賃借権ではなく経営管理権、経営管理実施権だというのです。なぜそうするかの説明はありませんが、実際、昨日のブログでも紹介した現行の森林経営計画に基づく森林経営委託契約で利用間伐が行われており、実績があるので、林業関係者にとっては自然なのかもしれません。
とはいえ、この制度自体も、利用された方は別として、多くの森林所有者にとってさほど周知されているとは思えないのです。その意味で、経営委託なり、経営管理委託なり、どういうことなのかをより明確にしておく必要があるかと思います。
制度概要の説明では<農地の賃借権では栽培した作物は借地者の所有物であるが、森林の場合は立木はあくまで森林所有者のもので所有者以外の者が勝手に処分できない。このため、森林所有者の立木の伐採等を第三者が行うことができるようにするため、経営管理権、経営管理実施権を設定する。>となっていて、一応の説明にはなっていますが、違いとなぜ経営管理権の設定が必要なのかの理由付けとしては十分とはいえないでしょう。
なお、制度概要の説明では、<賃借人は伐採、販売できない>とありますが、森林地の借地人が伐採・販売できないと断定できるかどうか疑問があります。借地権の内容次第で、そのような行為も可能になると考えます。ただ、そのような借地権設定の事例は森林ではあまりないと思われますので、こういった考え方も一応の合理性があると思います。
借地権・賃借権の場合、固定した賃料を払う必要があること、他方で、利用処分した場合の損益がすべて借地人に帰属しますので、森林を第三者が経営する場合リスクが大きいことから、経営委託なり、今回のような経営管理権、経営管理実施権の設定が林業事業体としてもやりやすいということではないでしょうか。私自身、森林の地役権設定(たとえば送電用鉄塔設置など)のような権利設定はよくあることだと思いますが(この場合地役権者の電力会社が伐採、販売権をもつことが多いと思います)、借地権設定となるとあまり聞いたことがないので、林野庁の指摘するように、賃借権の場合、森林について使用処分権がないといった慣行が確立しているのであれば、私見が正しくないでしょうね。
また寄り道をしてしまいました。
重要なのは次の、<森林所有者に支払う金額の算定方法の例>です。
上記の⑥ですね。これがこの制度が有用性を高めるか、普及するかの試金石ともいえるように思うのです。むろん次の所有者不明対応も重要ですが。
この算定方法では、①木材販売による収益が、②伐採・販売経費(運搬も結構かかります)に③伐採後の造林・保育の経費を控除して差額利益がでて、林業経営者、④市町村、⑤森林所有者に配分されることが計画で明確になることを求めているようです。当然ですね。
でも、そのような合理的な算定ができる林業経営体がどの程度あるのか心配です。②については<林業経営者から提示される見積額>によるとのことですが、それはこれまで経営採算性を合理的に行ってきた林業経営体であればさほどむずかしくないでしょうけど、実際にはなかなか大変でしょう。そうならないといけないという、林野庁の希望というか要望は理解できますが。他方で③については、<都道府県が定める森林整備事業標準歩掛かりによる額>ということで、ある意味基準があるので簡単に計算できると思いますが、それが実際にかかる経費をどこまで把握できるかというのとは別ですね。
⑤については<実費(境界明確化等)>ということですが、市町村にこれを担うスタッフがいるのでしょうか(まあ新たに人材投与するのでしょうか)、この部分も林業経営体に委ねることになりませんかね。
次の<意欲と能力のある林業経営者の選定>については今回飛ばします。
ようやくもう一つの柱、<所有者不明森林等への対応>にたどり着きました。今日はこれを紹介して終わることにします。
この制度ではあらゆる森林を対象とせず、あくまで<経営管理が適切に行われていない森林>のみを対象とし、しかもこれを<市町村が特定>という難題を課しています。
これは今後、より明確な指針なり基準なり手続なりが出てこないと、なんともいえませんが、かなり大変な作業かなと思うのです。
しかも今後の進行は、まず<経営管理の状況等を踏まえ優先順位を立てて>、その後に<意向調査>をするというのですから、ますます大変です。
その中で、場合分けをしています。(1)は原則で、全部確知・全部同意という、所有者が分かっていて全部同意している場合ですが、そのような森林はすでに手入れが行われているか、経営管理ができていると思われますので、はたしてどの程度残っているかですね。でもこのケースが原則ですから、手続がスムースに進み、申し出、計画作成・同意徴収、計画公告、権利設定と、第一のフェーズは上がりになります。
次は(2)共有者不明森林の特例です。この場合は確知共有者が全員同意で、一部不確知がある場合で、その探索(調査でもいいように思うのですが、すごい表現ですね)、公告を経て、みなし同意扱いをするのです。そうなると上記の計画作成以下に進むことができます。
(3)の所有者不明森林の特例が本制度の売りでしょうか。これは全部不確知の場合としています。この場合も探索、公告までは同じですが、みなし同意については裁定を必要としています。当然ながら厳格にしているのですね。
(4)所有者不同意森林の特例も本制度の売りでしょうか。この場合不同意者に勧告をして、意見書を踏まえて裁定でみなし同意と、さらに要件を加重しています。不同意と明確な意思を示しているのに、計画遂行するわけですから、当然でしょうか。
こういった特例が憲法上財産権侵害にならないかといった議論は、最初の<経営管理が適切に行われていない森林>が合理的根拠をもっているか、また意向調査が適切に行われているか、といったことが今後、具体的な要件設定と実施方法の中で検討されるのではないかと思われます。
今日はこれでおしまい。また明日。