181207 森林経営管理法(その5) <Q&A資料から経営管理権集積計画を読み解いてみる?その2>
昨日に引き続き、経営管理権集積計画なるものを考えてみようかと思います。<Q&A>でこの森林経営管理制度が少しずつ見えてくる感じですので、今日もこれを見ながら検討します。
Q&Aでは、最初に「林業経営が成り立つ森林」が取り上げられ、次に<経営管理が適切に行われていない森林>に対象が限定されるかと行った質問になっています。これは一体どういうことでしょう。
<森林経営管理法>の条文(そろそろ条文解釈のさわりを少しずつ取り入れようかと思います)には、この<経営管理が適切に行われていない森林>という用語が一切ありません。ただ、2条3項で、「この法律において「経営管理」とは、森林(森林法第五条第一項の規定によりたてられた地域森林計画の対象とするものに限る。第五章を除き、以下同じ。)について自然的経済的社会的諸条件に応じた適切な経営又は管理を持続的に行うことをいう。」とありますから、本法では「経営管理」(しかもその定義自体に適切性を必須要件にしていますね。)をキーワードにしていることはよくわかります。
とはいえ、法文条では当該計画の対象を<経営管理が適切に行われていない森林>に限定する規定は明記されているとはいえません。
「経営管理権集積計画の作成」を定めた4条以下でも、そのような明確な定めはありません。4条1項で、「当該市町村に集積することが必要かつ適当であると認める場合」ということで権利主体である市町村への集積が必要かつ適当ということを定めているものの、<経営管理が適切に行われていない森林>という条件付けは法文からは明らかとはいえないと思います。
一体、国会ではどのような審議をしたのでしょうかね。議員に提供されるベーパーは要約されたものでしょうし、条文個々に当たる議員は多数の議案検討をかかえているので、よほどでない限り、レアではないかと思います。
新制度成立の背景は、経営管理が適切に行われていない森林が全国に多数あり放置できない状況ということではないかと思います。とはいえ「経営管理」という用語自体、それほど成熟した概念でなく、法文の規定もトートロジーのように見えますね。
今後政省令、あるいは通知でどの程度明確になるのか、期待したいです。そうでないと出発点がはっきりしないことになりますから。
またこの回答では、<本法律は、経営管理が行われていないことで公益的機能の維持等に支障が出る森林の経営管理を市町村に集積することを目指している>となっていますが、1条の目的規定ではそれほどこの点が明確とはいえません。
「この法律は、・・・林業経営の効率化及び森林の管理の適正化の一体的な促進を図り、もって林業の持続的発展及び森林の有する多面的機能の発揮に資することを目的とする。」とあるだけであって、はたしてそこまでいえるのかなと思うのです。いやいや、林野行政においては当然のことというのかもしれませんが、条文の文言だけからはそこまでいえるか少し疑問です。
公益的機能の維持等ということと、経営管理が適切におこなわれることとは同じではないですね。実際、その対立・調整の場面が当然あるわけですから。Q2-1では「林業に適した森林」否かの判断について、現時点では抽象的な基準だけで、結局、<民間事業者が再委託を受けない森林は経営的に適さない森林であると判断することもできると考えています。>ということですから、民間ベースで採算がとれなければ、計画対象とならないことを前提にしているようです。すると、この場合の経営管理の適切さというのはあいまいな印象です。
このあたりは政省令段階でより明確になるのでしょうか。どの部分が政省令に委ねられるのかいまのところよく分かりませんが、<制度概要>22頁では10月ないし12月時点では政省令に加えて通知ができあがっているスケジュールです。いまのところ報道には上がっていないようですし、むろん林野庁のウェブサイトも変わりありません。
別に首を長くして待っている分けではありませんが、でもできあがるのを期待したいところです。
ところで、計画対象の森林になるか否かという点で、<人工林のみではなく天然林や放置竹林、原野等も意向調査の対象となるのか。>という質問への回答は基本、人工林をメインにおいているようです。
<市町村の判断により、放置竹林や天然林で意向調査することは可能>としつつ、市町村の判断に委ねています。興味深いのは天然林を取り上げ、<現状のままでも適切な経営管理が行われるような手入れを必要としない>ものは除外してもよいとしている点です。この文脈からは、天然林も対象としつつ、<適切な経営管理が行われるような手入れを必要としない>ものは除いてよいともとれます。天然林だから修飾語のようなことは当然にはいえないわけですから、やはり市町村は対象とする必要があるのではと思うのです。そうあって欲しいという思いもありますが。
他方で、放置竹林は完全に市町村の判断に委ねる趣旨ですね。しかし放置森林こそ大変な問題を抱えていますし、公益的機能にも支障を来したりしていると考えますので、これを市町村の判断に委ねることでよいかは考えものです。法文はなにも限定していませんので、林野庁がこういった解釈をしてよいのか気になるところです。
ただ、放置森林まで当然に計画対象とすると、それこそ意向調査やその後全体の計画推進がより複雑になるかもしれません。現時点では、このような理解にも一応の合理性が認められるかもしれませんが、もう少し利害得失を含め議論して説明責任を果たしておいた方が望ましいと思うのです。
他方で、原野や草原などは、除外してもとくに問題は少ないでしょう。
そろそろ一時間になりそうです。読みながら書いていますので、中身を理解するのに時間がかかり、進みません。今日もこの程度で終わりとします。また明日。