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長編小説「フォワイエ・ポウ」3章
著:ジョージ青木
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3章
1(開店)
(1)-2
開店当日がやってきた。
時間は、すでに午後3時過ぎになるか。
本田はゆっくりと、自称「赤いロールスロイス自転車」のペダルを踏んでいた。いつもに増して、赤いロールスロイスは今にも止まって倒れるくらい、街の中心地の人ごみの中をノロノロと進んでいた。
うつ病的な気分になって一週間、今日の本田の気分は、ことさらに重かった。
さほど多くない人ごみをかいくぐりながら、自転車は並木通りを平和大通り方面に南下していく。自転車で歩道を走っていること事態、歩行者にとっては迷惑な話である。そんな自転車の運転者は、歩行者の迷惑など全く気にしていなく、歩道を歩く人間の存在すら眼中に無く、ひたすら勝手気儘にノロノロと、ペダルに足を絡ませていた。気が付けば、店のビルの前に着いてしまっていた。
エレベーターのボタンを押すと、直ちにエレベーターの扉は開いた。約7~8キロの重量の自転車を片手で軽々と持ち上げ、前輪を上に向けてエレベーターに乗り込む。3Fまで昇ったエレベーターのドアーが開く。自転車を本来の位置に戻して店の入り口前まで移動した。
少し驚いた。
自転車を置くいつもの場所に、
なんと、花輪が、たった一つ・・・
店の入り口の右横に、立てかけてある。
『祝開店』
『フォワイエ・ポウ 様へ』
『贈 岡本酒店』・・・
(あ~ これ、開店祝いの花輪なのだ・・・)
唯一、本田の店の仕入先である酒屋から、花輪が届いている。
それを見た瞬間の本田は無感情であった。
その次の瞬間、なぜか、もの悲しくなっていた。
(葬式でも祝い事でも何でもそうだが、そもそも花輪ってのは、それが数多く贈られて来て賑やかに飾ればカタチになるが、、、この花輪、たったの一つだけではなあ~、どうしようもないぜ。みっともないよなあ~・・・)
あらためて花輪を観た。
みっともないから、今すぐにでも取り外して人目に触れない場所を探し、大急ぎで、しまいこみたい気持ちである。が、贈っていただいた先様に対しては、礼を欠く事になる。だから撤去するわけには行かない。
(今さらどうしようもないか… )
(しかたない)
(ウム、暫くは、このままにしておくか・・・)
花輪を支えている三脚の右前と自転車の前輪を、いつもの鍵チェーンで結びつけた後、いつも通り店のドアーの鍵を開き、店内に入った。
入り口のドアーは右開きになっている。
開いたドアーに隠れるように配置された場所に、店内の各種電源スイッチがある。
ドアーを開くなり、主電源スイッチを押した。店内の照明を最大限に明るくした。
照明をつけるなり、まず、店内右手のカウンターが視界に入る。さらに、カウンターのど真ん中においてある生花が視界に入ってきた。その横に、洋酒一ダース入りの箱が置いてある。
生花には、名札が付いている。
『フォワイエ・ポウ様へ 贈 岡本酒店』・・・
さらに、洋酒の箱を開いた。
洋酒が3本になぜかモーゼルワインが6本、さらにクリームチーズが3箱入っているではないか。
(ウム?どうしたのだ!)
(開店のための初注文は、昨夜配達してもらっているし、たぶん、これは岡本君の配達ミスなのか?)
しかし直にメモが見つかった。酒屋の封筒が副えられているのを見落としていた。
少しずつ、状況が解かりかけてきた。
間違いなく、本田が店に入る前、酒屋の岡本洋一が店に入り、これらの品々をカウンターに置いて帰ったのである。酒屋との最初の約束で、店の合鍵は必ず酒屋に一本預けておくという飲み屋と酒屋の習慣がある。空いたボトルの回収と、仕入れ注文に合わせた納品を開店の前に済ませる。だから鍵を一本預けて欲しい。と、洋一からの依頼があり、それで合い鍵を預けた事、本田はようやく思い出した。
おもむろに封筒を開け、岡本洋一の手書きのメモに目を通し始めた。
<以下、岡本メモの内容・・・>
本田様
フォワイエ・ポウ ご開店 まことにおめでとうございます。
あらためて 岡本酒店をお引き立てくださいますよう どうぞ宜しくお願い申し上げます。
また本日は、私が勝手にご注文をお受けしてない洋酒をカウンターに置いて帰りましたこと、お許し下さい。ボックスの中のお酒について、少しご説明させて頂きます。
実は、私の母の兄、つまり私の叔父から数日前に預かっていたものを、本日開店日に合わせてお届けした次第で伯父の名は、本郷修一と申します。母方の伯父ですから姓が違いますので、申し副えます。
一週間前、久しぶりに伯父に会いました。
我々の商売柄、ついつい酒の話しになり、いろいろと訪ねられ、ついつい新規開店される本田マスターの話をしました。そうしたところ、なんと、逆に伯父の方が興味を持ち、マスターの事、いろいろ訪ねるもので、それに答えておりました。答えておりましたら、今度は伯父の方から、
『本田氏は、君よりももっと以前にお会いし、私のほうがもっと彼のことをよく知っている。そして、本田さんにはずいぶんお世話になった当時の記憶がある。間違いない。元々、私の良く知っている旅行会社にいた本田さんだ・・・』
『やはりそうか!なんとなくわかる・・・』
『そうか、会社を辞めてしまわれたのか!』
『実は10年くらい前に、夫婦でヨーロッパに行ったとき、添乗員で案内されたのが本田さんだったのだ。当時はまだ学生のようにフレッシュで、たいへん若かった。お若いにもかかわらず、礼儀正しく、丁寧で親切で、たいへんお世話になった・・・』
と、言うのです。
そして、この数本のお酒を預かり、マスターにお渡しするよう、伯父から頼まれたのです。
伯父との話の内容、詳しくは直接マスターにお話しします。
初日は、何かとお忙しいでしょう。近日中には必ず、できれば業者の方と一緒して、お店にお伺いするつもりです。
どうそ宜しくお願いします。
昭和六十二年十一月 吉日
岡本洋一
これがメモの内容であった。
決して上手な文字とはいい難いが、心のこもった丁寧なボールペンの筆跡である。店に入って走り書きしたものではない。このメモはたしかに事前に用意されたもの、時間をかけて何度も書換えた様子は、本田にとっては充分に伺える。
<・・続く・・>
(次回掲載予定日:3月22日水曜日)
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掲載済み「小説・フォワイエ・ポウ」を遡ってお読みになりたい方、以下各掲載日をお開き頂き、ご覧頂けます。
「第1章」
1)第1回掲載「第1章」(メタリックレッドのロールスロイス)(2月9日)
2)第2回掲載(2月10日)
3)第3回掲載「1章」(クリームチーズ・クラッカー)(2月15日)
4)第4回掲載(2月17日)
5)第5回掲載:「1章」完(2月22日)
「第2章」
6)第6回掲載「2章」(安易な決断-1)(2月24日)
7)第7回掲載「2章」(安易な決断-2)(3月1日)
8)第8回連載「2章」(安易な決断-3)(3月3日)
9)第9回掲載「2章」(安易な決断-4)(3月8日)
10)第10回掲載「2章」(安易な決断-5)最終章(3月10日)
「第3章」
11) 第11回掲載「3章」(1開店)(3月15日)
よろしくお願いします。
(・・||||rパンパンッ
(珍しく、本日6時半に起床。昨夜(今朝?)1時半頃終身にて、睡眠時間いささか不足、、、)
でも、大丈夫です。
いや~
あすとろさんは3時半過ぎに・・・
(起きられたのか、お休み前だったのか?・・・)
お互い、睡眠時間は十分にとりましょうね。
さて、
「やつはし」・・・
是非是非、記事にして下さい!
色々教えてください。
楽しみです。
私も花輪については困惑したことが有ります。
個展の時に馬鹿でかい花輪が届き、入り口脇を占拠して居るんです。大袈裟でみっともないから撤去したいけど、送り主が大金払って注文してくれたんだから、会期中我慢して居ましたが、本当は迷惑な話でした。
会場内に於ける小さなブーケ程度なら嬉しいですけどね。
酒瓶を並べた写真はいつものシリーズとは違うのですか?バロンさんのご自宅かな?と思いましたが、、、
ほとんどのボトルが皆、程良く飲んだものなのは良い感じですよ!
同時に、“人の繋がり”の大切さも。
この岡本さんの手紙と、その内容は、
今の本田さんの心境としては、
励みにもなり、非常に嬉しかったのではないでしょうか?
それも、過去の本田さんの人柄が良かったのでしょう。
そんな気がします。
本田さんにとっては酒やチーズ以上に真心が何よりも開店祝いとなった事でしょうね。
そんな応援してくれる方がいたからこそ本田さんは今後フォワイエ・ポウの店作りにより真剣に取り組めたのではないでしょうか。
私は男爵さんが想像されてる年齢ですよ。
現在の30代、当時(昭和62年)高校生以上で少しPCやってた人ならデカ、ペラペラディスク知ってます^^
私も高校で情報処理の授業ががありました。
出かけます。昨日も仕事先から閲覧しています。今日は、できるかわりません。
まずは、ここから(・・||||rパンパンッ
外仕事をしようかと思っています。
出かける前に…、お邪魔しました!
春ですね~・・・
いよいよ、あすとろさんのお仕事の「シーズン」か?
お忙しくされていらっしゃるご様子、なによりです。
「あすとろさんのブログ」、今からお伺いします。
「花輪」・・・
貰った事があるかどうか?
ありますあります。
「大企業」と称す組織にいた当時も、独立してからも、個人的にも組織的にも、、、。
さらに「父親の葬儀」の時も、、、。
気恥かしさあれど、「困った!邪魔だ?」等という感覚を持つ「敏感」な、感性、あるいは「ゆとり」等、私にあなかった。かも、、、。
悠々さん的な「状況」で花輪が届いた場合、
花輪の処分、、、。
困惑、、。
お困りになるか?
それは悠々さんの「感性」の問題!
ブーケや、生花、、、。
会場内を飾るにふさわしい?悠々さんの会場開催の目的を祝う「花の贈物」としては、最適な「カタチ」ですね!
それは一重に、悠々さんの活動の「目的と内容」、会場のスペースと形状を良く理解された方がいらっしゃるかどうか?に、かかっている、、、。
でも、花輪を贈られる方も、それなりの「お気持ち」は「思い入れ」がおありであれば、それでいいのでは?悠々さんも、あまり迷惑がられずに「お受け」になれば宜しいではありませんか。でも、やはり迷惑かなあ?私の場合、「気恥ずかしさ」が、先にたちます・・・
添付画像について、、、。
どうご覧になっても、「私の手」にかかった撮影でない事、当ブログを継続してご覧の方なら一目でお分かりか?
いや、なに、センス無く且つ不適切かもしれませんが、単純に"Wikipedia, Whisky"の当該項目に掲載してあった写真を(無断で)借用しただけです。本来(通常、いつもの私の場合)、その旨「写真引用解説」を記しているのですが、昨日深夜の投稿でしたから、やらねばならない作業の手抜き、単なる面倒で省略。
でも、さすが悠々さんです!
それぞれのボトルの中身の分量、違い、等々、よく観察なさってらっしゃる!
人生、色々、、、
職業、いろいろ、、、
転職?
転職のタイミング・・・
自分が「男として」生きていくための職業、業界を変えること、人はどう自分を見ているか?他人の眼が気になる、これを如何に判断するか?
一個人としての人間は、生まれて死ぬまで、表面はともかく、その中心にあるものは変えようとて変えられないのか、、、。
一個人としての人間の進歩成長は、人により様々、でも(人によりけりであるが)成長は、ある。
いくら気取っても、カッコウを付けても、落ちぶれても(落ちぶれ方の問題あり!)、年取っても、メッキはメッキ。中身は変わらないと思うのです。その人間の中身を変えることができるのは、お金でもなく、立場でもなく、権力でもなく、苦節を経て風説苦難難関を越えて、いよいよ蓄積された、その人独自の『品性と教養』か。等と、最近になって思うのです・・・
「自己を判断」するのは自分でなく、複数多数の他人様の「目と視線と心眼」ですねえ~・・・
以外や、人間、いや、男としての本田、自分の得意分野、自分自身の評価や価値、人間としての品格の良さが、あるかないか、程度は如何か?自分で計りかねているのです。
しかし、今から(今までも)多くの複数の「眼」によって「本田の特徴」や、「得意分野」が、判断されるか?・・・
この「飲み屋の物語」、今から、どうなりますか・・・
飲屋の主(あるじ)となった「本田」は、異なるカタチで、自己修練の険しくも豊かで楽しい人生道を歩んでいくのです・・・
是非、続けて読んで下さい!