タイトルは、選考会で私が柳本君に出したレースの指示のすべてです。
3本というのは、予選・準決勝・決勝のレースのことです。
レース内容に関してこれ以外の指示は出していません。
大会中、日大豊山水泳部の選手とはずっと一緒にいますが、水泳に関する話もあまりしません。
ただ、レースで練習の成果を出せるようにたんたんとやるべきことをやるだけです。
多くのコーチはそれぞれのレースについて、前半・後半の泳ぎやライバルのことなど細かな指示を与えるのかもしれませんが、私は今までも大きな試合であればあるほどレース内容について指示することはほとんどありません。
その理由は、大きな力を発揮する際に「考える」ことが妨げになることが大いにあると感じているからです。
これは私自身が選手時代から感じていたことですが、ベストなパフォーマンスをするには「無」の心境をつくることがよいと思っています。
「考える」ことは、それだけで疲れます。
そして考えた通りに物事が進むことはあまりありません。
レースが近づけば近づくほど色々なことを考えてしまい、そのことが力みにもつながります。
あえて「無」の状態をつくることで、練習の成果が出やすくなり、選手本来の力を発揮できると考えています。
「無」の状態というのは、何もしないということではなく、あれこれと思い浮かんでしまう余計な心を意識的に取り除くことです。
為すべきことだけに集中し、あとは自然に身をゆだねることです。
柳本君はレースでもあまり緊張することはなく、いつもと同じような感じで臨めていたのですが、予選や準決勝で余計なことを考えないように初日にタイトルの指示だけを出しました。
「無為自然」は、私の好きな思想家である「老子」の言葉です。
日頃学んでいることがスポーツの現場でも生かされています。
竹村知洋