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『茶式湖月抄』(ちゃしきこげつしょう)

2014年08月09日 | 茶書を読む

「細なることは聞こえてきませんが、三国の時代、呉の韋曜茶を好み、孫皓茶を酒に代えて賜りしことが見え、晋の王濛、人に至れば、茶を飲ませる故事がありますので、魏晋の頃よりしだいに行われたことがわかります。
その後、唐の玄宗天寶年の頃、茶仙陸羽が世に出て、肅宗代宗の間に、朝廷と民間と一緒に茶教を著わして、煮る点てるという法則を立てて、器を作り水の良し悪しを論じました。
そのようなことから、天下の人茶飲の清雅なことを賞翫するようになり、その風流は盛んになりました。
宗の代に至っては太祖開寶年の頃、いよいよ盛んになり、丁謂や蔡襄が、大小の龍團の茶を作り、明朝の時代に至っては、芽茶を用いて團茶は廃れたようです。
その外漢土にてのこと記すに、ことごとく揚げるのは難しく、またもしくわしく書き記したとしても、無益な仕事ですのでそれは記しません。
御国にては、
嵯峨天皇の御宇弘仁六年(815)四月、近江の国滋賀の崇福寺に御幸たまいしついでに梵釋寺に鸞輿を停められし時、大僧正永忠が自らお茶を煮て奉れりということが見え、また」

【語注】
韋昭(いしょう、?-273年)は、中国三国時代の呉の政治家・儒学者・歴史家。字は弘嗣。揚州丹陽郡雲陽県(江蘇省丹陽市)の人。子は韋隆。『三国志』「呉書」では韋曜と記載。
孫皓(そんこう)は、三国時代の呉の第4代皇帝。祖父は、初代皇帝孫権。父は孫権の第3子で皇太子に立てられていたが廃された南陽王孫和。子に孫瑾(太子)・孫虔(魯王)・孫充・孫璠他。『三国志』呉志「三嗣主伝」に伝がある。
王蒙(309年-347年)は、晋陽(今太原)の人。 東晋の有名人で公爵。
漸(ぜん)は、しだいに・だんだん・少しずつの意。
玄宗天寶年中は、玄宗皇帝の時である天寶の年頃の意。
陸羽(りくう・733年-804年)は、中国・唐代の文筆家で、『茶経』3巻などを著述した人。
粛宗(しゅくそう・711-762)は、唐朝の第10代皇帝。即位して6年で崩じ、その長子の李予(762-779)が第11代皇帝・代宗となりました。
開宝(かいほう・968- 976)は、北宋の太祖趙匡胤の治世に行われた3番目の元号。
丁謂(960~1033・文人政治家)が咸平年間(998~1003)に福建の曹監となり、皇帝専用の御茶を造り龍鳳団茶を献上して皇帝の寵愛を得たのが、龍鳳茶のはじめとされます。
蔡襄(1012~1067)は福建轉運使のとき、丁謂が作り出した大龍鳳団茶を改良した小龍鳳団茶を作って献上します。
御宇とは、帝王が天下を治めている期間・御代(みよ)のこと。
弘仁(こうにん)は、日本の元号の一つ。大同の後、天長の前。810年から824年までの期間を指す。この時代の天皇は嵯峨天皇、淳和天皇。
崇福寺跡(すうふくじあと)は、滋賀県大津市にある飛鳥時代後期から室町時代にかけて存在した寺院の遺跡。崇福寺は、668年に天智天皇の命により近江大津宮の北西の山中に建立され(『扶桑略記』ほか)たが、火災や山門寺門の抗争などで衰退し、室町時代には廃寺となりました。寺跡は梵釈寺(桓武天皇が天智天皇追慕のために建立)との複合遺跡と考えられています。
鸞輿(らんよ)は、天子の乗る輿(こし)。鳳輿(ほうよ)・鳳輦(ほうれん)とも。

『茶式湖月抄』(ちゃしきこげつしょう)

2014年08月09日 | 茶書を読む

「茶の始まり
上古茶というもの三種ありと、漢土の書に見えます。
その中の苦茶というものが、今の茶なりとあります。
その外の二種は蕪穢の草でしたので、わざわざ食品とはせずに、一説に古はその菜を食せず
ゆえに茶の字立ずともいわれました。
詩経の語にも出て、また爾雅に茶を檟(か)と出ています。
これを飲み物とすることは、漢土にても中古よりの事でしょう。
漢の代には司馬相如・揚雄等茶に名があれども精」

【語注】
蕪穢(ぶあい)とは、土地などが、荒れはてること。また、そのさま。ぶわい。
爾雅(じが)とは、中国の類語辞典・語釈辞典。3巻、19編。撰者未詳。周代から漢代の諸経書の伝注を採録したものといわれる。東晋の郭璞(かくはく)の注がある。
檟は、ひさぎともいう。
司馬相如(しばしょうじょ、紀元前179年-紀元前117年)は、中国の前漢の頃の文章家。蜀郡成都の人。字は長卿(ちょうけい)。名は、もと犬子(けんし)。
揚雄(ようゆう、紀元前53年(宣帝の甘露元年)-18年(王莽の天鳳五年))は、中国前漢時代末期の文人、学者。現在の四川省に当たる蜀郡成都の人。字は子雲。司馬相如は先輩になります。

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