大阪市中央卸売市場(同市福島区)から東へ約150メートル。卸売業者が立ち並ぶ一角に「10円自販機」がある。「何の飲み物が出るのかお楽しみ!」「1本どうダス」の文言が目に飛び込んできた。10円玉を入れ、購入ボタンを押してみると、名の知れた大手メーカーの缶コーヒーが出てきた。再び投入し、違うボタンを押すと、缶ジュース、ペットボトルのお茶が出てきた。

 自分が飲みたいものが出てくるとは限らないが、これも大阪人の遊び心か。近くに営業で訪れると必ず立ち寄るという会社員の男性(34)は「小遣いも増えないし、10円は助かる。何か得した気分になる」と、冷えた缶コーヒーを飲み干した。

 この自販機を管理しているのは食品卸売会社「大阪地卵(じらん)」(同区)。格安の理由は「ワケあり」にある。同社の釜坂晃司社長(56)によると、10円自販機を設置したのは約4年半前。同社は缶のデザイン変更などで旧型になった商品などを大量に仕入れ、大阪市内などに約400台の格安自販機で販売している。大量に仕入れ賞味期限が迫るなどした商品は、10円自販機でバーゲンセールする。利益は度外視で、激安商品で集客を狙う戦略だった。

 10円自販機はネットなどで人気は広がり、1日2回の補充作業をしてもすぐに売り切れる。月に3万本売れる。10円自販機の商品の補充が追いつかないときは、通常の商品で対応する。釜坂社長は「売れば売るほど赤字です。ただ、安さはインパクトになる。中途半端では生き残れない。10円は死ぬ気の覚悟の発想です」。

 安くなければモノが売れないデフレ時代の象徴とも言える10円自販機。消費者の節約志向は強まり、4~5月の実質GDPでは、個人消費が前期比0・2%増と足踏みが続く。消費者の財布のひもは固く、モノの値下げの動きは広がっている。

 釜坂社長は「中小企業は発想で勝つしかない。デフレはもう行き着くところまで行った。中小企業の体力でいつまでこのやり方を続けられるか。生き残るにはかなりの資本力が必要となる」。やめるか、続けるか。釜坂社長は悩んでいる。

いいですね~