“超巨大津波”の恐れ 南海トラフ地震でも
日本列島の南側には深さ4000メートルの深い溝が横たわっています。これが南海トラフです。その南海トラフでこれまで想定されていなかったある動きが、名古屋大学の調査で初めて観測されたのです。この調査によって、巨大というより超巨大津波の恐れが高まっていることがわかりました。
名古屋大学の田所敬一准教授らの研究グループは2013年から3年間、和歌山県新宮市の約100キロの沖合いの海底の動きを調べてきました。その結果ー
「トラフ軸(海溝軸)の近くにも歪みをためていそうだ、陸に向かって押されてそうだ、ということがわかってきた」(名古屋大学大学院・地震火山研究センター 田所敬一准教授)
「トラフ軸」とは一般的には「海溝軸」と呼ばれていますが、フィリピン海プレートが陸側のプレートに沈み込む境界付近のことです。そこに歪みが溜まると、何が起きるのでしょうか。
静岡県の駿河湾から九州の東まで続く南海トラフの周辺では、100年から150年の周期で、M7あるいは8クラスの巨大地震が繰り返されてきました。巨大津波は駿河湾が震源の東海地震、その西の、三重県沖までを震源とする東南海地震、そして四国沖までを震源とする南海地震の、3つの地震が単独あるいは連動して起きたときに発生すると考えられてきました。
しかし・・・5年前の東日本大震災がその考え方を一変させました。どうしてあれほどまでの巨大津波が発生したのか?地震後、研究者らが調査したところ、従来、想定していなかった場所、「海溝軸」の周辺で地震が起きていたことがわかったのです。東日本大震災では想定されていた震源域に加え、海溝軸周辺でも地震が起きたことで、津波がさらに大きくなったのです。なぜ、海溝軸が動くと超巨大津波になるのか?
海のプレートが陸のプレートにちょうど入り込む「海溝軸」は、従来の想定された地震の震源域よりも浅い場所です。つまり海面に近い「海溝軸」の周辺が跳ね上がれば、短時間で大きな津波を引き起こすのです。東日本大震災では、この海溝軸周辺も跳ね上がり超巨大津波を発生させました。
南海トラフで同じことが起きる恐れはないのか。名古屋大学の田所准教授らは、深さ約3500メートルの海溝軸周辺の3箇所に観測機器を設置。海上の船から音波を出して海底の動きを監視してきました。その結果、南海トラフでも海溝軸周辺にひずみを溜めていることがわかったのです。
「南海トラフに非常に近くに場所、西北西に年間4センチくらい動いていることがわかった。この紀伊半島沖でプレート境界の近くが歪みをためているというのがわかったのは初めて
つまり次の南海トラフの地震でも、海溝軸で地震が起き、東日本大震災と同じような超巨大津波を引き起こす恐れがあることになります。田所准教授らはこの調査結果を来月開かれる日本地震学会で発表するとともに今後、さらに観測点を増やし、調査を続けることにしています。
そしていま、その巨大津波による被害軽減をめざして「ある技術」が注目を集めています。それは天気予報などで雨の粒を観測するレーダーの応用です。
津波防災を研究する関西大学の高橋智幸教授が目をつけたのが、すでに実用化されている「海洋レーダー」というもので、海岸に設置したアンテナから海面に向かって電波を発射し、波に反射した電波を受信して波の形などを観測します。現在、海洋レーダーは海流の観測をはじめ、海面にたまったゴミを発見し、船で回収することなどに使われていて全国各地に設置されています。この「海洋レーダー」が東日本大震災の津波を捉えていました。
「一般的に使われているレーダーは、ひとつの地点で5,60キロから200キロまで測ることができる。レーダーを1基いれるだけで相当広い範囲が測れる」(関西大学社会安全学部・高橋智幸教授)
現在、気象庁による津波観測はGPS津波計によるもので、海上に設置した装置が襲来する津波をひとつのポイントだけで観測します。しかし、レーダーでは何十キロにもわたり津波を面でとらえることができ、速さや高さもわかることから、海岸部の市町村に詳しい被害予測を伝えられるようになります。
超巨大津波の可能性が高まった次の南海トラフ地震。一方で、「津波レーダー」など新たなツールが活用できることが明らかになってきました。被害を軽減させる方策がますます重要になっています。